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食材狩人2 第4回: 船頭はすごいよ - 延縄船の男たち

当コーナーでは、プロの料理人が指名買いする「あの商品」を徹底解剖。ユニークな食材の背景にある、知られざるストーリーを追い求め、食材狩人が西へ東へ走ります。


2012/9/3up

4:船頭はすごいよ - 延縄船の男たち


実は、この延縄船の取材に漕ぎ着けるまでにけっこうヤキモキしていました。

ふつう、陸で活動している人と会う約束をする場合、事前に「何日に会いましょう」って話になりますよね?しかし、海で活動している人というのは、それができないんです。

もちろん、おおざっぱにはわかるのですが、結局のところは漁の出来次第。魚が獲れるまで、漁師は陸に戻って来ません。特に、鮫やマグロを獲りに行く近海延縄漁は、一度出たら最低でも2週間は帰ってこないもの。忙しそうだからといって、早めにスケジュールを押さえるなんていうのは意味がなく、「いつ会える?」となると「1~2日前になったらわかるよ」というのが当たり前…。

そんなわけで、今か今かと戻りを心待ちにしていた夏の初めのある晴れた日、私たちは気仙沼で近海延縄船・第七勝漁丸の到着を迎えました。


勝漁丸ヨコ人多め


延縄漁と船頭さん

ところでみなさんは「延縄(はえなわ)」という言葉を聞いたことがありますか? 縄を延ばすと書いて、延縄(はえなわ)。その字のごとく、以下の図のように、長ーい縄を使って行う漁です。

延縄漁業

延縄漁は江戸時代、房総半島の布良村(現在の館山市)で編み出されたもの。主にマグロ漁業に使われていますが、マグロと一緒に鮫もよく釣れることから、今では鮫漁で定番の漁法となっています。(画像提供:気仙沼漁業協同組合



ご覧いただくとわかるように、延縄漁は幹となる縄に何千本もの枝縄(えだなわ)をつけ、そこに餌がついた針を垂らして釣るスタイル。言うなれば「一本釣り」の真逆で、一度に何千人が釣り糸を垂らしている「ウン千本釣り」、とイメージするとわかりやすいかもしれません。

しかし、ただ釣り糸を垂らしていても魚が釣れないのは「一本釣り」も「千本釣り」も同じ。特に「ウン千本釣り」の延縄漁はチーム戦。船の航行を司る船長、機械のエンジニアである機関長をはじめ、プロフェッショナルな釣りチーム(=乗組員)が必要です。そこで重要なのが、船を大漁に導くリーダーの存在。そしてそのリーダーを、人は「船頭(せんどう)」と呼びます。

船頭の正式名称は「漁労長」ですが、船の乗組員には「オヤジ」と慕われ、港町の気仙沼では一目置かれている存在。中でも第七勝漁丸の大黒柱は、漁師歴55年のうち、なんと45年間も船頭をやっているという大ベテラン!一度は引退されたものの、船主(船のオーナー)さんたってのお願いで再び海に出たという、名うての船頭としても知られている方です。


第七勝漁丸の大黒柱

実は船が帰港して、遠くから船の上にいる人たちを見たときに「あ、この人が船頭さんだ」って、ひと目でわかりました。それはもう、言葉を超えて「船頭オーラ」が出ていたからです!


しかし、大海原の中に船を出し、ある程度決められた日数の中で、欲しい魚、売れる魚を確実に獲ってくることは簡単ではないはず。そう思って船頭に尋ねてみると、「魚群探知機はあるけど、それで魚が釣れるわけじぇねえからな」とひと言。やはりそこは長年の勘と経験が最もモノをいうところで、魚場の見つけ方はもちろん、幹縄の長さや枝縄の針の数などは、船頭によって千差万別なのだとか。

ちなみに一般的な延縄漁の場合、気仙沼では100~120kmの幹縄に、3000~4000個の針をつけて海に投縄しますが、勝漁丸の船頭は123kmの幹に4000~4400本の枝を付けるそうで、長め&多め。123kmというとちょっとイメージできないかもしれませんが、箱根駅伝の東京大手町~箱根芦ノ湖間が108kmというと、なんとなく想像がつくのでは?

マップ

千代田区大手町(A)~箱根芦ノ湖(A')が108km。常磐道の起点である三郷JCT(B)から、茨城県の日立中央IC(B')までがちょうど123km。東北道なら起点の川口JCT(C)から栃木県の日光IC(C')まで129km。つまり、相当長い縄だということがわかっていただけるかと。


また、それだけ長い縄を海の中に投じて引き上げるのですから、時間も体力も相当なもの。

そこで漁師のタイムスケジュールをうかがってみると、「午前中は魚場に行って、昼くらいから縄を入れる。チームを組んで、2時間交代で4~6時間かけて入れ、終わったら4時~5時過ぎから休憩。縄を上げ始めるのは夜中の10時だ。縄が張ってきたら食っている証拠で、その縄を引き上げるのにだいたい10~12時間かかる」と船頭。しかし「魚がすごくかかったら、24時間も48時間も一睡もしないこともあるよ」とのことで、そこは「やるしかない」ということか。


船頭船内

では、4000本の針にどのくらいかかるのか?というと、一般的には3分の1もかからないのだとか。
「400本もかかったら大大大漁だな。一度水揚げして、食ってないエサはもう一回使うこともあるよ。量がかかってないっていうことだからな。でもそんなんじゃ、船頭はもうショボンとする以外ねえんだよ」。


延縄漁のコストとこれから

「船頭がショボンだなんて!」と思ってしまうかもしれませんが、実は延縄漁はかなりコストがかかります。その金額は、15人乗りの勝漁丸で1ヶ月約1200万程度。主な内訳は燃料、エサ、人件費ですが、ともかく燃料費が高い。

「燃料は100キロ分積んで700万。最近は燃料高もあって厳しいな。エサはサバがメインだが、今はこれも高くて1匹35円だ。それに船員の食糧も150万程度はかかる。すると、1回50万円ほど水揚げするとしても、20日間の漁で1000万だろう?つまりそれじゃ原価に200万足りないんだよ。1日70~80万いかないとダメなんだ」

浜値が下がると漁師も厳しい。魚が売れないともっと厳しい。みんなをしっかり食わせないといけない。ですから船頭は、売れる魚をしっかり獲って帰らないといけないというプレッシャーとも戦っています。


入札電光掲示板

「だから俺も神頼みの場所があるんだよ。船が出たらまずそこに行く。そして船が港に入ってきたら、必ずそこにお礼のお参りをしていくわけさ。どこの船頭もそうだ。すがるものがないとさ」。


神棚

船の中にも神様が奉ってあります。


船頭

「俺らの子どもの頃は、漁師は人気があってね。船に乗りたくても乗れなかった。20年前は、俺が船に乗ると3ヶ月で何百万って稼げたもんだよ。陸(おか)に来ると、ズボンのケツ(ポケット)に20万ずつ入れて、40万持って飲み歩いていたんだ。信じられるかい。
しかし最近は魚の数も減ってるし、漁師になる若い奴も少ない。それでインドネシアの研修生も受け入れているが、残念なのは、今の法律では、彼らは日本で船長や機関長にはなれないんだ。だから俺は、みんなインドネシアで船頭になって、日本に魚を売りに来たらいいって言ってるよ。
船の仕事は、日本人だと実務を3年やれば船長や機関長になるための国家資格が取れる。だから俺は今、漁師1年生でも船に乗れるようにする環境を作りたい。俺ら船頭の集まりや船主とも話し合って、もっと後継者を育てていきたいよ」




さて、船頭の話はいかがでしたでしょうか。 そのことばの端々には、若い人に対する愛情が感じられ、国籍を超えて船頭、船頭と慕われる理由がわかる気がしました。 次回はいよいよ、勝漁丸が釣ってきた鮫の入札をご紹介。そして、入札した鮫がふかひれになるまでを追いかけていきます。


seven star

大きくてふっくらしていた、船頭の手。


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構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影   菅野勝男(LiVE ONE)

カテゴリ:
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記事公開日: 2012/9/3

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