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食材狩人2 第5回: 大漁そして入札!

当コーナーでは、プロの料理人が指名買いする「あの商品」を徹底解剖。ユニークな食材の背景にある、知られざるストーリーを追い求め、食材狩人が西へ東へ走ります。


2012/10/20up

5:大漁そして入札!

漁師さんたちが最後の大仕事、水揚げを終えると、市場は、整然と並んだ魚とともに夜明けを向かえます。なんと運よく、本日は鮫が大漁!見渡す限り鮫が並んでいるじゃありませんか。

鮫大漁に並ぶ図1

こちらはずらりと並ぶ毛鹿鮫(もうかざめ)。血で赤く染まっていますが、これは船に積んでいる間にエラなどから出血したり、魚体同士がこすれ合うためだそう。一時、この血を洗い流してから水揚げしたところ、急激に鮮度が落ちてしまったことから、毛鹿鮫だけは血だらけのまま水揚げされています。

鮫大漁に並ぶ図1

そして、左から奥にかけて山になっているのは吉切鮫(よしきりざめ)。これが最もふかひれに加工され、中国料理店のお皿の上に登場する頻度が高い鮫です。 小さな通路を開けるようにして魚体と魚体が所狭しと並んでいるのは、ここを仲買人たちが品定めしながら歩いたり、買い付けた魚をスムーズに回収できるようにするため。それにしても本日は見渡す限り鮫だらけです!


毛鹿鮫の心臓「ホシ」(カーソルをのせるとモザイクが取れます)

では、どんな鮫に高値がつくのか?というと、大きく分けて2つあります。まずひとつが、毛鹿鮫や青鮫などで魚体の大きいもの。これらの鮫はヒレが肉厚で大きく、ふかひれにしたときにはプリッとした食感になるのが特徴。また、肉を切り身にして食べたり、毛鹿鮫の場合は 心臓も「ホシ」と呼ばれて売りものになります。

そしてもうひとつが、新鮮な吉切鮫。例えばこちらをご覧になってみてください。中央の鮫と右側の鮫ではかなり色が違うと思いませんか?

吉切鮫アップ

実は中央の吉切鮫の真っ青なボディは鮮度が高い証拠。獲ってから時間が経つにつれ、その身体はどんどん灰色に変化していきます。また、収穫してから船の中に積んでおいた時間が長いと、色が変わるだけでなく、アンモニア臭もきつくなってくるため、帰港直前で漁をした新鮮なものの方が、ふかひれに加工するにはよりよい素材として扱われます。中でも極めて鮮度の高いものは、尾びれ付近にある肉にも商品価値がつくのだとか。その食感はまさに「とろ」で、刺身で食べても鮫独特の匂いはまったくないのだそうです。

こうして品定めを終えた頃に、市場にジリリリと入札〆切のベルが鳴り響いたら、海の男たちは一同に電光掲示板の前へ。仲買人さんや、仲買から魚を購入する業者さん、自分たちの獲った魚がどれだけの値がついたのかを確認に来る漁師さんなど、みんながこの日の相場を見に集まってきます。

電光掲示板を見上げる人々

魚市場の売買というと、東京・築地の魚市場のように、買い手が口頭で金額を言い合う「セリ」をイメージされる方も多いかと思いますが、ここ気仙沼魚市場では、買い手が購入希望金額を申告する「入札」で買い付けが行われているのが特徴。

希望購入価格がお互いにオープンになり、値段が文字通り競り上がっていく「セリ」に対して、「入札」は他社の価格を知ることができないクローズドオークション。この方法は、購入者が慎重に金額を定められるという点で、一般的に巨額の取引に適しているといわれています。また、狙った魚を買いたい場合は、前日の相場よりも気持ち高めの金額を提示すれば、比較的入手しやすいといったメリットもあるようです。

吉切鮫の価格が表示されている電光掲示板

こちらが買付結果が表示される電光掲示板。どう読むかというと、まず左上に記してあるのが船名、すなわちこれは「勝漁丸」の漁に対する結果です。 掲示板の「吉切」で解説すると、「号数」=鮫の大きさで、1=大、2=中、3=小サイズ。「単価」は1kgあたりの単価で、「山数」は600kgが一単位。「買人」は今回の入札で購入権を得た仲買人の名前が記されます。

吉切鮫の価格が表示されている電光掲示板

そしてこちらは大伸丸の漁の結果。毛鹿鮫(もうかざめ)は一般的にねずみ鮫と呼ばれるもので、勝鮫(かつざめ)は、ふかひれになった時に青鮫(あおざめ)と呼ばれるもの。これらは魚体が柔らかく小さめの吉切鮫と異なり、硬く大きいため、1本単位でカウントされ、特大、大、キズなど、というように数えています。 また、魚の呼称も一般的に流通されている名前ではなく、「トンボ」=ビンチョウマグロ、「はもの」=メカジキなど魚体の大きいもの…というように、それぞれの港や環境で呼び方が異なるのも面白いところですね。

その日の相場を書き込む人々

その日の相場をメモする漁業関係者たち。ベテランも若手も、皆真剣なまなざしです。


ところで、これだけたくさんの魚が水揚げされても、需要がなくて買い手がつかないということはあるのでしょうか?

その答えはNO。なぜなら、 前回の連載 にもあったように、漁というのは非常にお金がかかるもの。特に延縄漁業は十数日~数十日というまとまった航海日数を要するため、船の燃料代や乗組員の食費、人件費等を考慮すると、漁獲高に関わらず、最低でも1000万前後の経費がかかってくるわけです。

こうして獲ってきたものを誰も買わなければ、魚は廃棄処分になってしまいますし、漁師や船主にばかり負担がかかってしまい、気仙沼の漁業は衰退してしまいます。仲買人たちはその事実を十分理解していますから、自分たちが主に扱っている魚の入札がある日は、必ず何かしらの買い付けをして、市場に魚を流通させるよう尽力しているんですね。 農業の組合、すなわちJAは個々の生産者から作物を「お買い上げ」して流通を支えていますが、漁業の組合、すなわち漁協の場合は、仲買人という、販売力のある購入者に入札の場を提供することで流通を支えている…といえるでしょう。

さて、市場でめでたく買い手のついた鮫たちは、すぐさまパーツに分割され、鮮度のいいうちにそれぞれの加工場へと運ばれていきます。 鮫漁に対して「ふかひれにするヒレだけ切り取って、後は捨てている」という海外の報道もありましたが、鮫とともに生きてきた気仙沼は、かつてから鮫全体の活用を推進してきた街。肉はすり身屋、ヒレはふかひれ屋、皮は皮屋、骨は健康食品や化粧品メーカーへ…というように、その用途は食品に限らず、さまざまな販路が開拓されています。次はいよいよ、その販路のひとつであり、私たちを美食の世界へといざなってくれる鮫のヒレが「ふかひれ」になる最初の工程をご紹介します。


NEXT TRAVEL > 「鮫のひれ」が「ふかひれ」になるまで



構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影   菅野勝男(LiVE ONE)

カテゴリ:
Food Travel

記事公開日: 2012/10/20

※情報は掲載時のものです。内容は後日変更される可能性がありますので御了承ください。