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中華句会 2:金針菜朱色の箸に割られけり

2012/12/20up


金針菜朱色の箸に割られけり


●前菜で一句

ほぼ初対面同士の6名がビールやウーロン茶で乾杯を終え、間もなく運ばれてきたのは「三色冷拼盆」。こちらは3品の冷菜で、豆腐干の木耳添え、イトヨリの湯引きと茄子の青山椒ソースがけ、棒棒鶏が盛り合わせになって登場です。

皿が円卓に乗るやいなや、さすがは人気ブロガーの大蒜。「ブロガーの嫁は『夫が写真を撮るまで飯がおあずけ状態』という辛さがあるそうですが、俳人の妻は『一句詠んでからじゃないと食べられない』という悩みがあるのでしょうか?」とトークも軽妙に、サッと愛機のリコー GXRを構えます。

まずは木杓がここで一句。

桜えび豆腐の波を渡りけり 木杓

前菜の小さなポーションの中にある1本1本の豆腐干。その豆腐干を「波」に見立てた一句です。また、豆腐干の上にちょこんと乗った、なんともはかなげな桜海老も、この句においては海を渡る力強さが感じられるよう。小さな対象を見つめてダイナミックに表現した、まさに俳句的な一句から幕を開けました。これはなかなか幸先のよいスタートか。 

木耳は犬歯の裏に貼りつきぬ 泥頭

そんな豆腐干に添えられていたのが木耳(きくらげ)。白い歯の裏に真っ黒の木耳が貼りついた、という面白みがこの句の持ち味ですね。口の中でも皿の上と同様、白黒の対比が踏襲されているという、玄人くさい一句はさすが泥頭。 

一片の茄子よりあふるお汁かな こばら

前2つが視覚を表現した句であったのに対し、こちらは食感の感動を詠んだもの。皮の剥かれた茄子を口に含むと、見た目から想像できないほどにジュワッとスープがあふれ出た、という驚きをしたためました。この句に「茄子の素朴なおいしさが伝わってきます」と大蒜。一方「〈お汁〉っていう言葉づかいがどうもねえ~」と茶々を入れる泥頭。スープ、ジュース、お汁…。いろんな表現がありますが、言葉選びもセンスのうち。 


前菜

豆腐干の木耳添え、イトヨリの湯引きと茄子の青山椒ソースがけ、棒棒鶏(左から順に)。



●海鮮料理で一句

続いて円卓に登場したのは「生炒鮮虾仁」、芝海老の炒めもの。ほんのりピンク色の芝海老に、鮮やかな緑の金針菜(きんしんさい)、レモンイエローの黄ニラを取り合わせた、実に彩りのよい一皿です。

海老の料理といえば日本人が大好きなメニューですが、ここで皆の話題をさらったのは、その主役ではなく脇役の金針菜。
近年、生の金針菜を使うお店が増えたとはいえ、まだ本格的な中華料理店での使用に限られるのか、中華業界どっぷりの木杓とこばら以外は「これ何ですか?」という反応です。逆に言えば、実に中華的な素材(句材)といえますね。 

金針菜
金針菜


「金針菜はユリのつぼみです」という木杓の言葉に、みねりがさっそく皿の上にあるつぼみを分解してみると…「わあ、中にちゃんとおしべとめしべがある…!」 

金針菜朱色の箸に割られけり 泥頭

緑の金針菜を朱色の箸で割った、その一瞬を詠みました。「何気なくした一瞬のことが俳句になるなんて…。この句であの瞬間がまた目に浮かんできました」と月。「実際に金色はなかったですが、金と朱をイメージさせるような鮮やかな印象が心に残りました」と木杓もしみじみと鑑賞。「俳句は心のカメラです」と誰か(著名な文化人)が言っていましたが、「客観写生」を提唱した高浜虚子系の一句、実に写生が冴えました。 

なお、金針菜は一般的に「ユリのつぼみ」と説明されますが、正確にはユリではなく、ユリ目ユリ科のワスレグサという植物のつぼみ。鉄分が豊富で、その量はほうれん草の約20倍とか。夏にはユリに似た、八重咲きで橙赤色の花を咲かせます。 

また、ワスレグサは悲しいこと、忘れたいことがあった心境を表す言葉として、夏の季語として詠まれてきました。特に平安時代は叶わぬ恋の歌に欠かせない頻出ワードで、『古今和歌集』の選者、三十六歌仙でもある紀貫之も、こんな歌を残しています。 

 道しらば摘みにもゆかむ住の江の岸におふてふ恋忘れ草

(意訳:道を知っていたら摘みに行きたいものだ。住之江の岸に生えているという、恋を忘れられるというあの草を。) 

ワスレグサ
ワスレグサ


そんなワスレグサトークでひとしきり盛り上がった様子を、ほのぼのと詠んだのが月です。 

わすれ草円卓上に花さかす 月

金針菜というつぼみを食べ、そこに話題の花が咲いた。どことなく明るさを感じさせる句です。 

「わすれ草、という響きにどことなくセンチな感じがあるのもいいですよね。こねくり回さない、素直な感じがいいなあ…と。写真を撮るのも、何枚もアングルを変えて撮った末、結局は最初に撮った1枚が一番いいという、それに似ているかもしれません」と大蒜の評に、俳人・泥頭も「いいこといいますねえ」と感心。さすがはこの2人、「蒜」と「泥」、2人合わせて「蒜泥(suàn ní)」。これは中国語で「おろしニンニク」の意になるだけあります(って関係ないか)。 
「しかし花は咲くもの。17字しかないので、類似する言葉を重ねないほうがいいです」というアドバイスも。さらに「円卓上(えんたくじょう)」を「円卓の上」とすると、日本語らしい柔らかな語感が出てきますね。 

また、もうひとつの名脇役も詠まれました。 

腰折れて具をまとめたる黄韮かな こばら

「『腰折れて』という謙虚さに、この食材らしさが表れていて好感がもてました」とみねり。「第1回の『中華好き人口を増やす会』で、新橋亭の田中総料理長が『これからも残っていく食材』として黄ニラを挙げ、どんな食材ともよく合うことを指摘していたのですが、まさにそのことが現れた句だと思いました。この人、わかってるなあ。目の付けどころがいい」と木杓。 

ええ、私もあの座談会に立ち会っていましたので、この料理を食べて、そのことを思い出していたんです。 

生炒鮮虾仁(芝エビ 天然塩炒め)
生炒鮮虾仁(芝エビの天然塩炒め)


>>つづく:爽香の水玉まとう深みどり

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Text:佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo:佐藤貴子(ことばデザイン)、小杉勉


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記事公開日: 2012/12/20

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