好評シリーズ第3弾は、日本を代表する中国料理店、Wakiyaグループでサービス部門を統括する萩原清澄さん。要人の密談から祝いの場まで、数々の現場を経験したサービスマンの視点とは――?

「この道で生きると決めた瞬間にプロフェッショナルなんだよな」

「入社は決めたものの、3年経ったころに辞めたくなりました。学生時代の友人は、都市銀行、外資の金融、大手メーカー等で働いている。なのに自分は、トイレを掃除して、灰皿洗って、現場に入って…。周りは合コンとかして楽しそうなのに、自分はただ辛かった。お給料だって違います。

俺はこんなんじゃない、なんで水商売なんか…。そう思い続けていました。もうやめて、他の業界にいこうと」

萩原清澄さん

そうくすぶっていた頃、萩原さんは、今の日本人なら誰もが知る、ある政界の要人と出会います。

「ご挨拶させていただく機会があり、ちょうど大学の先輩だったその方が気さくに話してくださったとき、仕事に関してこうおっしゃったんです。『この道で生きると決めた瞬間にプロフェッショナルなんだよな』。ハッとしましたね。覚悟してないからアマチュアなんだと」

覚悟を決めて徹底的に勉強したら、仕事が楽しくなってきた

その言葉は、萩原さんの働く姿勢をガラリと変えるきっかけとなります。

「丸の内サラリーマンになれたかも…と卑下するんじゃなく、徹底的にやったら並べるし、追い越せる。そんな想いが湧いて、逃げるのはやめました。

そこからですね。自分から変わっていったのは。徹底的にやりこんでやろう!と、ソムリエの資格を取り、語学も勉強して、さまざまなジャンルの料理本を300冊読みました。

幅広いゲストと話すには多くの知識がなければと、あらゆる勉強に取り組むなかで、サービスマンでも全然恥ずかしくない、突き抜けたら誰にでも尊敬されるはずだと意識は変わっていきました。そうしたら、自然と仕事が楽しくなってきた。26歳のときですね」

萩原清澄さんのおすすめ
フルーツのミルフィーユ酢豚フルーツのミルフィーユ酢豚スライスした肉を丸めた中に、季節のフルーツを潜ませ、コクのある黒酢の餡でまとめたWakiya流酢豚。冬は苺が中に入り、噛むと甘酸っぱい苺のソースが口に広がります。「まだ中国料理にフルーツを使うのがメジャーでなかった10年くらい前から、脇屋はフルーツを使っていました。豚肉と黒酢の組み合わせに、ライチやブドウを合わせた料理で、来日していた『エル・ブリ』のフェラン・アドリアを驚かせたほど。この酢豚も、脇屋らしい柔軟な発想が表れているひと品ですね」(1,600円 税別)

 

ダルビッシュが「投げたくない」で仕事を休むか?

サービスマンに限らず、どんな仕事にも通ずる萩原さんの言葉。悶々としたまま、ただ疲れて、仕事が楽しくない。そう感じている社会人は一定数いるはず。

「プロならば、自分が楽しいと思える精神状態にもっていく強さは必要です。『モチベーションは自分で上げろ』とは、スタッフにもよく言います。

上司に怒られたくないからではなく、プロである以上はモチベーションのコントロールは最低限の仕事。サービススタッフなら、トラブルがあっても別人のようにお客さまの前に出なくてはいけない。

ダルビッシュが『俺、今日あんまやる気ねえな、投げたくねえな』とは言わないじゃないですか。僕らも同じです」

萩原清澄さん

こうして20代の転機を経て、顧客がどんどん増え、部下の仕事もみるポジションに立つ萩原さん。仕事を覚え、役職も得る30代は「チャンスをつくる時」と言います。その理由とは?そしてチャンスはどうやって作られるのでしょうか。


TEXT 大石智子
PHOTO 永田忠彦