名門「鳳城酒家」の仔豚を焼く

3軒目は旺角(モンコック)にある「鳳城酒家」に入りました。ここは仔豚の焼きものと順徳料理が有名な店。やりたかったのは、仔豚の丸焼きを焼かせてもらうことです。 とはいえ、僕は日本で焼味(シュウメイ:焼きもの全般)の経験が全くありません。それでもチーフに「仔豚を焼けるようになりたいです」と話したところ、「たった3か月?それなら時間がないから休みなしだな!」と言われてしまいました。

鳳城酒家
「鳳城酒家」店内にて

 

賄いは毎日「乳猪飯」!違いのわかる男になる

1日の流れは、だいたい朝7時くらいから劈豬(ペッジュー)といって仔豚を捌き、ボイルして、味を入れて、下処理をして、乾かして、焼いて…という感じで、だいたい毎日15~20匹くらいでしょうか。焼き置きはしないので、お客さんが来る直前の夜6時~8時半くらいまで、忙しいときはずっと仔豚を焼き続けます。

仔豚の丸焼きというと炭火で焼くイメージがあるかもしれませんが、今、香港で仔豚を炭火で焼いているところはほとんどありません。この店もそうですが、仔豚焼き専用のガスの炉があり、そこで焼くんです。だいたい1頭あたり、重さは7斤で約4.2kg、だいたい4kg弱が平均的ですかね。
(編集部注:1斤(かん / 広東語でガン)=604.78982g)

下処理をして炉にかけると、そこにいる誰もが、この仔豚がおいしいか、そうでもないかがわかります。毎日処理をしていると、痩せているとか、皮が厚いとか身が薄いとかがよくわかるんです。仔豚にも、けっこう個体差があるんですよ。焼き時間はだいたい1頭あたり15分くらいでしょうか。ベテランの方は早くて、10分くらいで焼き上げることができます。

僕は14時過ぎになると仕事がひと段落するので、そこで毎日乳猪飯(ユージューファン)、つまり仔豚を乗せたごはんを食べていました。毎日焼いて、毎日食べていると、この差がわかるようになります。「今日の仔豚はおいしい!」と思う日は、もう、本当においしい。

仔豚
仔豚を焼いている佐伯さん(写真左)と、非常にコンティションよく焼き上がった仔豚(写真右)。「この時はチーフも大絶賛の焼き上がりでした」。

 

また、仔豚の丸焼きというと、香港では皮だけを食べることが多いですが、「鳳城酒家」では仔豚を皮ごとぶつ切りにして、肉も一緒に食べさせるスタイルで提供しています。だからこの店では、焼肉(シウヨッ:皮付き豚バラ肉のロースト)は置いてないんですよ。また、仔豚は胸、バラ、モモと大きく3つの部位があり、通のお客さんともなると、食べたい部位を指定して来る人もいます。

それにしても、毎日自分が焼いた乳猪飯を食べさせてくれる店なんてそうありません。こういった経験ができたのも、紹介していただいた方と店の人との信頼関係があってこそ。自分ももっとしっかり広東語を勉強して、信頼関係を築けるようになり、のちに自分と同じような気持ちで香港に行く人たちがいたら、協力できるような人になりたいな、と心から感じた職場でした。

仔豚盛り付け
化皮乳猪(仔豚のロースト)

 

ホテルの厨房でヌーベルシノワ

最後に入ったのは、尖沙咀(チムサーチョイ)にある君怡酒店(キンバリーホテル)の広東料理店「君怡閣」です。ここに来た時は、残りの期間が1ヶ月しかありませんでした。ここでは枮板(ちゃんぱん:まな板での切りもの担当)と打荷(だほ:鍋を振る人のサポート)をやらせてもらいました。

君怡閣の料理長は旺角(モンコック)のランガムホテルを経て、アモイのランガムホテルの料理長だったところを招かれてきた方。そのため、料理はランガムホテルの色が強く、ヌーベルシノワが中心で、スペシャリテは和牛を使った料理でした。

でも、僕個人的には昔ながらの広東料理になりますが、牛骨、牛バラ、大根の土鍋煮込みスープ(有機蘿蔔鮮牛骨清湯)が好きでしたね。澄んだスープに牛骨の香りと旨みがよく出ていて、米線(マイシン)というお米の麺を入れて食べるのがまたいいんです。

夕景
尖沙咀から見た香港島の風景。