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これを読めば中国各地の食文化がわかり、中国の地理に強くなる!『中国全省食巡り』は、中国の食の魅力を毎月伝える連載です。
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飲茶文化は広州の華!愉悦の早茶(朝の飲茶)

広東省は、言わずと知れた飲茶の本場だ。当然、広東省の省都である広州には、飲茶の習慣が深く根付いている。ある程度大きな広東料理店ならば、朝から昼過ぎにかけては、茶楼として営業しているところがほとんどだ。

僕が広州生活の幸せを何よりも感じたのは、早茶(ザオチャ)の時間だ。朝早い時間の飲茶だから、早茶。これが午後なら下午茶(シァウーチャ)で、夜なら夜茶(イェチャ)になるのだが、広州では「飲茶=早茶」と言っていいほどで、広州ならではの飲茶の雰囲気を味わうには、早茶をおいてほかにない。

飲茶文化は広州の華。

週末の茶楼には、朝から多くの広州市民が集まる。新聞を読みふける一人客がいる。遥か昔からの常連と思われる老夫婦がいる。小さな子供を連れた若いファミリー客もいる。大きな円卓を占めているのは、一族の集まりだろうか。三世代が揃って、大層にぎやかだ。

広州を代表する茶楼のひとつ・南園酒家。広々とした庭園の中に店はある。
敷地内は緑豊か。雨にもかかわらず、朝から家族連れがやってきた。
歴史と文化の厚みを感じさせる店内。
窓際の席でゆったりと過ごす老夫婦。いい。

その中に混じって自分たちも席を確保し、まずは茶を頼む。広州の茶楼ではプーアル茶菊花茶、鉄観音、紅茶が定番だが、好みの茶葉を持参して淹れてもらうのもアリだ。茶が用意されるのを待つ間に、品書きをゆっくりと吟味する。

お気に入りのプーアル茶を持ち込んで、一杯。まあ、それでも席料として茶代は取られるが、持ち込み自体は至って自由だ。

蒸し物、揚げ物、焼き物、煮込み、甘味。種類ごとに分類された点心に加えて、麺や粥なども並ぶ。少ない店でも数十種類を超える点心のラインナップには、伝統点心と新作点心が入り混じっている。人気がない点心はすぐに姿を消し、また別の新作点心が現れる。創作と変化を好む広東料理の精神が、茶楼の品書きから見て取れる。

とある茶楼の品書き。何を頼もうか頭を悩ませるのも、飲茶の愉しみだ。

僕が好きな点心を挙げると、蝦餃(海老蒸し餃子)、腸粉(蒸しライスクレープ)、粉果(もっちり五目蒸し餃子)、牛肉球(ふわふわ牛肉団子)、豉汁蒸鳳爪(鶏の足の豆豉蒸し)、瑶柱蒸蘿蔔(蒸し大根餅)、咸水角(五目揚げ餅)、蜂巢香芋角(サクサクタロイモ揚げ餃子)、腐皮巻(五目湯葉巻き蒸し)、糯米鶏(鶏おこわ)、干蒸焼売(シューマイ)、叉焼包(チャーシューまん)、流沙包(カスタードまん)、拉糕(中華風蒸しパン)あたり。基本的に伝統点心びいきなので、どれもが定番の点心だ。

雑談でもしているうちに、やがて点心が運ばれてくる。まずは蝦餃にするか。いや春巻も旨そうだぞ。その美しい造型に目を細めてから、熱々を頬張る。旨い。広州では、真っ当な茶楼の点心は今も全て手作りだし、注文が入ってから点心を作り始めるのを売りにしているところも多い。できたての点心の味は格別だ。

永遠の定番・蝦餃(海老蒸し餃子)。浮き粉でつくる透明の皮から海老の赤味が透けて、とても美しい。
めくるめく点心の世界。何を頼んでも、それぞれに喜びがある。

点心の味の余韻が舌から消えかけた頃、茶をすする。酒徒などと名乗っている僕だが、飲茶のときは茶一筋だ。そもそも飲茶において、点心は脇役。主役の茶を引き立てるべく、おかず系の点心でも甘めに仕上げてあるので、茶が最も合う。

日本茶と違って中国茶は煎が効くので、何度もお湯を足して、だらだらと飲み続ける。店員の方も心得たもので、お湯の追加を頼めばすぐ持ってきてくれるし、点心を食べ終えた客が茶だけで長居していても、嫌な顔一つしない。

これなのだ。飲茶と言うと多彩な点心ばかりが注目されがちだが、飲茶の真価は、のんびりお茶を飲みながら、ボーッと一人で考えごとをしたり、家族や友人と語らったりする時間にこそある。そのことが、広州では暗黙の了解として共有されているのだ。

点心を食べ終えた後も、お湯を足してもらい、自分で茶を淹れて、延々と飲む。

このような飲茶の精神は「一盅両件(イーヂョンリィァンジィェン)」という言葉に象徴される。「一種の茶で二種の点心をつまむ」という意味であるが、つまりは、食べるのはそのくらいが適量で、あとは茶を飲みながらのんべんだらりと過ごすのが、飲茶の本来あるべき姿だということだ。

朝の茶楼には、一盅両件をさらりとこなしている老人がたくさんいる。日本で言うなら、蕎麦屋の片隅で穏やかに昼酒を楽しんでいる老人と似ている。両者の共通点は、その身体から人生の熟練者としてのオーラが気負いなく放たれていることである。

お気に入りの茶楼で「一盅両件」を気取る。あ、白灼生菜(ゆでレタス)も頼んだので「三件」か。

もっとも忙しい現代社会において、朝から早茶を楽しめる人間は限られる。でもまあ、飲茶そのものの楽しさは、下午茶でも夜茶でも変わらない。

僕が好きだったのは、取引先とのビジネスランチで下午茶へ行くことだ。ゆったりした雰囲気の中での商談は、自然と和やかになる。広州人はみな茶や点心に一家言持っており、それを聞きながらの飲茶はとても楽しかった。午後の茶楼には似たような客が多かったから、広州人にとっても、飲茶はよいビジネスツールなのだろう。

広州にいた三年半の間、いったい何度茶楼へ出かけたことだろう。今思い返しても、実に幸せな日々だったと思う。読者の皆さんにも、その幸せの一端を是非とも経験して頂きたい。

次回予告:福建省 厦門(アモイ)市で食べるべき料理3選(920日更新予定)


text & photo 酒徒