辛いだけじゃない!古式ゆかしい火鍋を愉しもう!

火鍋というと、真っ赤に煮えたぎる、辛くスパイシーな麻辣火鍋(マーラーフォグゥォ)をイメージする方が多いのではないでしょうか。

しかし、これらは中国の火鍋のごく一部。なぜなら火鍋とは、中国の鍋料理の総称で、日本の鍋同様、さまざまな地方の味があるのです。そこで今回は“東京で食べられる、中国東北地方の火鍋”をご紹介しましょう。炭火で温めながら食べる、伝統の味わいをお楽しみください。


味坊(千代田区鍛冶町)

羊齧協会の記事でもおなじみの味坊は、チチハル出身の老板、梁宝璋(リョウ ホウショウ)さんが切り盛りする中国東北料理店。

ここは羊肉串(羊の串焼き)、孜然羊肉(羊肉のクミン炒め)、葱油餅(葱お焼き)、老虎菜(青唐辛子と香菜のサラダ)など、中国の伝統的な東北料理がいただける店とあって、火鍋ももちろん東北スタイル。今どき炭火を入れた煙突式の火鍋子(写真の鍋)が卓に運ばれてくるのは、東京広しといえどもここを含めて、ほんの数店しかありません。

味坊1

赤々と燃える炭で加熱するため、一酸化炭素中毒にならないよう、店のお姉さんがチャッと窓を開けたら、いざ、火鍋大会のはじまりはじまり。

味坊特製のあっさりとしたスープに、まずは乳酸菌で酸味を増した白菜漬け・酸菜(スゥァンツァイ)を投入すれば、煮込まれ溶け込むほどに、複雑妙味なおいしさが増幅。羊肉、凍り豆腐など、北京の定番の鍋の具も用意されており、器にたっぷり注がれたゴマだれにつけて口に運べば、すっかりこのオールドファッション火鍋にハマってしまうこと請け合いです。

味坊2

鍋の調味料や薬味には、紅腐乳や香菜が並ぶ中、味坊ならでは!と思うのがニラ味噌。〆のラーメンでは、スープにニラ味噌を溶け込ませ、香菜を乗せていただくのが最高のフィニッシュ。これだけ食べて1人前1,500円という安さもうれしく、またこの店に足が向かってしまうのです。

 

味坊(あじぼう)
味坊住所:東京都千代田区鍛冶町2-11-20
TEL:03-5296-3386
Lunch 11:00~14:30
Dinner 17:00~23:00
休日:日曜・祝日合わせて読みたい> 羊齧協会レポート「羊と紹興酒の会」

 


龍水楼(千代田区神田錦町)

日本で最も有名な涮羊肉(シュワンヤンロウ)の店といえばここ龍水楼。涮羊肉とは北京式の羊のしゃぶしゃぶで、日本のしゃぶしゃぶの起源とも言われるもの。日本では滅多に食べられない料理ですが、東京・神田で約半世紀の間、この料理を提供してきたのが龍水楼なのです。

実はこの店、夜は涮羊肉のコースのみ。干し海老の沈む煙突式の火鍋子(写真の鍋)に湯を張って、生後4~5ヶ月の子羊のモモ肉4皿、野菜、羊肉水餃と来て、〆の麺まで一気呵成に一時間ちょい。これが恐ろしく求心力のある鍋で、しゃぶしゃぶしている間は間違いなく立ちっぱなしになりますが、そんなことも厭わない魔力がここにあります。

龍水楼1

注目すべきは、本場北京でもここまで出すところは少ないという、11種類の調味料と薬味。酢、醤油、芝麻醤(練りゴマ)、ゴマ油、腐乳、香菜、ショウガなど全種類を投入し、渾然一体となった自分だけのオリジナルだれを完成させていく過程も楽しいもの。さらに箸休めには糖蒜(にんにくの蜂蜜漬け)が用意されるのも北京式です。

また、涮羊肉も貴重ながら、これまで数えきれないほど作られたであろう、超安定感のある北京料理6品もマーベラス。コースの最後には“皿につかず、箸につかず、歯につかず”を意味する珍品甘味、三不粘(サンブーヂャン)が登場し、最後まで食べ手を魅了し続けます。

それもそのはず、店主の箱守不二雄氏は、今や伝説ともいえる中国料理研究施設・湯島聖堂の中国料理研究部に学んだひとり。若かりし頃、中国の文献をもとに、清代の料理を中心に具現化してきた人物で、「いまどきの中国料理に飽き飽きしたあなたへ…」とホームページにもある通り、中国の古典的な料理を繰り出せる、数少ない料理人なのです。

もうご高齢ゆえ、「いつ店をやめてもおかしくない…」と御本人はおっしゃいますが、この技とトークが体験できなくなるのは非常に惜しい。中国料理を愛する者なら、早いうちに訪問しておきましょう。

龍水楼2
怒涛のしゃぶしゃぶタイム!
羊肉の水餃子は皮から手作り。
歯につかない、箸につかない、皿につかない、でも粘る「三不粘」。
龍水楼(りゅうすいろう)
すなぎも住所:東京都千代田区神田錦町1-8
TEL:03-3292-1001
Lunch 11:30~14:00(L.O.13:30)
Dinner 17:00~20:00
定休日:日曜・祝日/土曜(ランチ休業)
※涮羊肉は5名以上で要予約

 


華都飯店(港区六本木)

華都飯店は1965年、中国料理研究家の馬遅伯昌さんが開業した中国料理店。こちらは涮羊肉(シュワンヤンロウ)に並ぶ、中国東北地方を代表する酸菜火鍋が有名で、毎年1月~3月は、前年12月に仕込んだ酸菜を使って作る、この鍋目当てのお客様で大賑わい。まず、日本で酸菜を仕込んでいる店はほぼないと思われますから、それだけでも貴重です。

その酸菜(スゥァンツァイ)とは、中国東北地方で冬季に作られる大白菜の漬けもののこと。気温が低く、乾燥した季節に大白菜を甕に漬け、自然発酵させると、なんとも酸っぱく、かつ味の濃縮した漬けものができあがりますが、中国では、これを火鍋や煮込み料理などの材料として使う習慣があるのです。

華都飯店1

正式には酸菜白肉鍋というように、酸っぱい白菜の漬けもの(酸菜)と、ゆでた豚バラ肉(白肉)がこの火鍋の主役。一度肉をゆでてから薄切りにすることで、脂肪分が落ち、さっぱりと食べられるのがこの火鍋のいいところ。

凍り豆腐、春雨、出汁用の蟹、牡蠣などをともに煮込めば、最後には酸の角が取れてまろやかな味わいに。酸っぱいけれどもクセになり、おなかいっぱいになってももたれないヘルシーさも魅力です。

神谷町にほど近い、閑静な“しいのき坂”沿い、アークヒルズ仙石山森タワーという場所柄もあり、内外装は上品でラグジュアリーな雰囲気。サービスも丁寧ですので、接待にもデートにも使えますよ。

華都飯店2

華都飯店(しゃとーはんてん)
酸菜住所:東京都港区六本木1-9
アークヒルズ仙石山森タワーB2F
TEL:03-3587-9111
Lunch 11:30~14:30(L.O.)
Dinner 平日 17:30~21:30(L.O.)
土日祝 17:30~20:30(L.O.)
定休日:なし
※酸菜火鍋は4名以上、前日までに要予約です

 

オールドファッション火鍋特集、いかがでしたでしょうか。もともと火鍋とは鍋料理全般を意味し、中国の薬食同源思想に基づき、旬の食材を組み合わせ、鋭気を養い、身体を養生できる料理でもあります。

立春を過ぎてもまだ寒いこの季節、集いの場に、滋味深い昔ながらの火鍋をお楽しみいただけましたら幸いです。


TEXT  佐藤貴子(ことばデザイン)
PHOTO 佐藤貴子(ことばデザイン)[龍水楼、華都飯店] / 小杉勉 [味坊]