今から12年前のこと。代官山に、手づくりのエッグタルトや杏仁豆腐を出す小さな店『蜜香(ミーシャン)』がオープンした。

香港をイメージした中華スイーツの店として、当時は珍しかった女性の店主が切り盛りしている店だった。代官山という立地や、ガラス戸にくすんだゴールドで描かれたロゴのレトロな愛らしさ。店主のセンスに共鳴し、足を運んだ方もいるだろう。

そんな『蜜香』が店名を改め、軽井沢に拠点を移したのは2022年のゴールデンウィークのこと。信濃追分の緑豊かな場所に、一軒家のアフタヌーンティーラウンジ『mi-shang Karuizawa』を開いたのだ。

オープンは2022年4月29日。別荘地の中の石の看板が目印だ。
「mi-shang karuizawa」外観。素敵な佇まいを見たら、アプローチを歩く足取りがいっそう軽やかになってしまいそう。
庭の緑をを望む、広々としたデッキも心地よい。

空気も空間も美しい、軽井沢の一軒家をラウンジに

店舗には、別荘として使われていた家をレストラン仕様に全面改装。外観の佇まいのよさもさることながら、内装にも目を見張るものがある。

シノワズリテイストのインテリアは、隅々まで村木さんのこだわりとセンスが詰め込まれたもの。軽井沢の空気も手伝って、座った瞬間、非日常へといざなってくれる。

3~4名で円卓を囲める一室。大きく取られた窓の外には、野鳥、ニホンリスの姿も見られる。
エントランスを入ってすぐの方卓は、厨房に近い部屋にある。
厨房の窓口には、代官山時代のガラスをはめ込んだ。

スープや春巻に軽井沢の季節を映したアフタヌーンティーコース

一般的なアフタヌーンティーは、スイーツを中心に構成されていることが多いが、『mi-shang karuizawa』では、スープ、前菜、点心などを味わった後、デザートや焼き菓子などが並ぶコース仕立てだ。

そのスタイルは、広東料理の飲茶でもなく、洋風のサンドイッチやケーキ尽くしでもなく、中国料理で培った技術や素材を使ったオリジナル。振り返れば、神戸『オリエンタルホテル』でキャリアをスタートし、茶芸館の店長としても活躍していた村木さんらしい表現ともいえる。

さらに、これまで村木さんが多く手掛けてきたケータリングのノウハウや料理だけでなく、新たなチャレンジも反映されている。そのひとつが、軽井沢という立地から、地場の食材を生かしたつくりたての料理を提供することだ。

オープン直後の4月下旬は、新たまねぎと菊芋のすり流しに始まり、上田のビタミン大根を軽やかな春巻にするなど、南信州の春を感じる料理が目白押し。前菜に岩魚(イワナ)なども登場し、山の恵み、川の恵みが軽やかにプレートに盛り込まれる。

新たまねぎと菊芋のすり流し。タピオカとディルがあしらわれている。
上田のビタミン大根春巻。紙が巻いてあるので、手で掴んでそのまま食べられる。

また、2020年から通販で販売してきた愛農ナチュラルポークやほうき鶏を使った点心も、アフタヌーンティーで登場。こちらの店でいただけるのは、ファンにとっても嬉しいことだろう。

ほうき鶏のワンタン。滋賀「サカエヤ」で手当てされた肉を使った点心は通販で人気。

えび蒸し餃子をはじめ、手づくりの澄麺皮を使った蒸し点心にも力を入れている。澄麺皮とは、蒸すと半透明に透き通る、広東点心で使われている生地のこと。

「作りたてと冷凍ではまったく食感が異なる繊細な生地なので、ぜひできたての風味を味わっていただきたいと思っています」(村木さん)。

蒸し餃子3品。作りたての皮の食感を大切にしている。

杏仁豆腐とペアリングされたオリジナルコーヒー

さらに、美しく香り高い工芸茶や、オリジナルのコーヒーなど、ドリンクにもこだわりがある。特に印象に残ったのは、代官山時代から人気の杏仁豆腐と、そのためにペアリングされたコーヒーだ。

「こちらのコーヒーは、代官山時代に知り合ったカフェ ファソンさんにお願いした『mi-shang karuizawa』の杏仁豆腐専用の豆を使っています。コーヒーだけ飲むと強い酸味を感じるのですが、合わせてみたらびっくり。香りを最大限に生かしたいので、淹れる直前に低速ミルで挽いています」(村木さん)

そんなこだわりのペアリングは、杏仁豆腐のミルキーさと、杏仁特有の清涼感に、コーヒーの苦味がぴったり寄り添う会心の出来。「杏仁豆腐は中国茶とともに」という先入観を覆す組み合わせで、立ち上るコーヒーの香りとともに、村木さんがドリップしてくれるのを待つのも楽しい。

村木美沙さん。ドリップのツールも『カフェ ファソン』で推奨されたものを使用している。
杏仁豆腐とコーヒーを合わせて飲むと、酸味どころか落ち着きを感じる取り合わせに。
最初に出されるお茶は工芸茶。ジャスミンフレーバーの緑茶で、見た目にも美しい。

木漏れ日や野鳥は眼福。清々しい空気も御馳走

もうひとつ、ここでの滞在の楽しみは、野生のニホンリスや、野鳥の姿が間近で見られることだ。

「シジュウカラ、ヤマガラ、エナガはスタメン。キビタキ、ジョウビタキなどが遊びに来ることもありますよ」(村木さん)。窓の外に目をやると、ニホンリスが入れ替わり立ち替わりやってきて、見ていて飽きることがない。

ホテルのラウンジを中心に、アフタヌーンティーを楽しめる場は各地にあるが、ここは軽井沢の環境も含めて、ひとつの体験的価値がある。また、一部屋一組のみのサービスとなるため、ほどよくプライベート感が保たれた空間で落ち着いて過ごせるのも、大人にとって嬉しい。

軽井沢で唯一、いや、日本でも珍しいシノワズリスタイルのアフタヌーンティーラウンジ。軽井沢らしい四季の美しさと空気を味わうのに、これ以上の場所はないかもしれない。

最後に提供される小菓子のプレート。季節によって内容は変わる。

mi-shang karuizawa(みーしゃん かるいざわ)

住所:長野県軽井沢町追分1252-25
アクセス:しなの鉄道「信濃追分駅」よりタクシーで5分(2.4km)、「御代田駅」よりタクシーで7分(4.3km)※御代田駅前にタクシー待機あり
★駐車場は1組1台分のスペースを利用できます。
★営業は春~秋の土・日・祝日です。冬季アフタヌーンティーは休業となります。
★予約は2名から、1名7,900円(税込)。ウェブサイトに掲載されている日時より、希望の時間帯を選び、事前に決済して予約完了となります。電話やメールでの予約は受け付けていません。


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)