もくじ
1 オイスターエキスとは?
2 広島牡蠣の育て方。
3 牡蠣はクレーンで吊り上げる!
4 エキスは一番だしの大釜仕込み
5 官能検査のスペシャリスト
6 オイスターエキスの使い方 ―上海家庭料理 大吉―
7 干し牡蠣=食べる出汁(だし)!
8 干し牡蠣の食べ方 ― 春節のごちそう&家庭でもできる旬菜

100%ピュアなエキスで25年のロングセラー

※原材料が、「100%かきエキス」から、「かきエキス、食塩、増粘剤(加工でん粉)」に変更となりました。(2023年10月追記)

オイスターソースといえば、スーパーで気軽に買える身近な定番調味料。中華風の炒めものの味付けや煮込み料理の隠し味として、幅広く使われていますよね。

一方、オイスターエキスは中華のプロが愛用する「だしの素」。オイスターソースが醤油、みりん、砂糖、液糖等を加えて調味されているのに対し、こちらは広島産の生牡蠣を原料にした、シンプルな生エキス。牡蠣のまろやかな旨みとコクが凝縮されており、繊細な味の表現を求めるプロに愛されている商品です。

色気のない缶ながら、その中には濃厚で香り立つエキスがぎっしり。発売以来、味、色、香り、質感はそのままに、25年以上も売れ続けているロングセラーがこちらのオイスターエキスです。

製造を手掛けているのは、広島県広島市にあるカクサン食品株式会社
同社は今や日本有数の魚介系エキスメーカーですが、元々はちくわや揚げ半など、練り製品の製造販売メーカーとして創業した経緯があります。

しかし、次第に商売は厳しくなり、1983年(昭和58年)、その現況を脱するため、広島名産の牡蠣や魚介のエキス、スープ、たれなどを製造するメーカーへと思い切って方向転換。 その時、社運を賭けて開発した商品のひとつが、このオイスターエキスだったのです。

カクサン食品・中村哲朗社長

開発に携わったのは、現在社長を務める中村哲朗さん。

「きっかけは、今から25年前に、中華食材卸売業として知られていた中華・高橋の先代の社長に、オイスターソースを取り扱ってほしいと営業に行ったことなんです。
そうしたら 『F社、L社、Y社…、オイスターソースのメーカーはたくさんあるからいいよ』 と言われてしまいましてね。そこで、 『オイスターソースのようにブレンドしたものではない、醤油なども入れていない、100%ピュアな牡蠣のエキスです』 とサンプルを持って行ったのが、このオイスターエキス。
その場で 『これは使えるなあ、やるかぁ』 と言われ、すぐに商品開発が始まりました」。

ひと缶455gに、大粒の牡蠣227粒が!

そんなオイスターエキスの原料となっているのが、広島湾で水揚げされた生牡蠣。「カキのエキス類を取り扱っているメーカーは他にもありますが、この商品は広島産の牡蠣にこだわり、上品な旨みを追求しています」と、中村社長もその独自性には自信がある様子。

「カキエキスには日本産、韓国産、中国産とありますが、それぞれ味と製法については大きな差があります。

例えば中国産は、殻付きの牡蠣に生蒸気を吹き込んで殻を開け、その際に副次的に出てきたドリップ液をカキエキスと呼びます。その際、牡蠣の殻にはヘドロや海草が付着しているため、それらもカキエキスの中に入り込みますので、雑味の多いエキスとなるわけです。

一方、私どもは殻から外した“むき身”を洗った後、ボイルして作るので、エキスの味が上品で、塩分も低くなります。中国産の牡蠣は1粒5g~10gくらいですが、私どもがエキスに使っている牡蠣は3月下旬~5月に水揚げされる大粒のもの。丸々と太った、大きい粒の方が多くエキスをとれますし、旨み成分も強くなります」。

つまり、原料と製造工程の違いが、エキスの味にも繋がっているというわけです。

1粒20g~30gくらいある大粒の牡蠣を惜しげもなくエキスに。食べてもさぞおいしかろう。

また、カクサン食品が約100gのエキスを作るために使用する牡蠣の量は、なんと1,000g(1kg)!これは牡蠣1粒を平均20gとすると、4号缶(455g/実際商品に使われている缶)に、約227粒が使われている計算です。

思えば牡蠣は、種付けしてから身が大きくなるまで2~3年かかるもの。しかも収獲時期は通年ではなく、10月~5月の8ヶ月間。それをむき身にして、洗って、ボイルして、煮詰めて…というと、量だけでなく、かなりの手間と時間がかかりますよね。

なんだかありがたい気持ちになりつつ、原料となっている牡蠣がどのように作られているのか取材するため、その収獲地である江田島市へと旅立ちました。

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Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo 清水武司(joy)+80C編集室