もくじ
1 日本有数のふかひれ生産地・気仙沼
2 菅原市長が語る「鮫と気仙沼」
3 鮫の水揚げ深夜二時
4 船頭はすごいよ – 延縄漁の男たち
5 大漁そして入札!
6 「鮫のひれ」が「ふかひれ」になるまで
7 真っ黒な鮫のひれが、真っ白に!?
8 干した時間もおいしさの一部!奥深い乾物の世界
9 シェフの手間を肩代わり!戻し済ふかひれ
10 ふかひれだけじゃない!鮫肉も中華に!
11 スープも具もまるごと鮫!驚きの鮫ラーメン誕生

みなさんは、「ふかひれ」というとどんなものをイメージしますか? 透明で弾力のある、プリプリとした繊維か、三角形のふかひれ姿煮か。それとも、ふかひれ丼やふかひれラーメンの上に乗ったやわらかい塊…という方もいらっしゃるかもしれません。

 

ふかひれスープふかひれスープ ふかひれ姿煮ふかひれ姿煮 ふかひれラーメンふかひれラーメン

もちろん、そのすべてが「ふかひれ」であることに違いはありません。しかし「繊維」とひと言でいっても、太いものから細いもの、半分固まったようなものまでバリエーションはさまざま。同じ「ふかひれスープ」と言っても、レトルトパックで販売されているような、かなりリーズナブルなものから、高級店の超高価なものまで値段もピンキリですよね。

なぜかって…?それは、ふかひれの「種類」と「ランク」に理由があるんです。うなぎに松竹梅があるならば、ふかひれには100のランク分けがある…といっても過言ではないくらい!

そこで私たちが次に向かったのは、ありとあらゆるふかひれを作っている、通称「ふかふか村」こと中華高橋水産のふかひれ工場。気仙沼港から南の方へ車を走らせること約30分、南三陸国定公園内、大谷海岸を見下ろすオレンジ屋根が見えてきました。

ふかふか村
「鮫」すなわち「ふか」を加工し「付加(ふか)価値」のある製品を生み出すことをモットーに、2001年5月に設立された「ふかふか村」。

 

なんとこの工場、足を踏み入れると、一面ガラスの壁の向こうには大谷海岸が!

ふかひれスープ

また、足元には鮫柄を模したタイルとは芸が細かい。鮫への愛が感じられます。

ふかふか村タイル ふかふか村タイル

 

高橋元一さん
生まれも育ちも気仙沼、地元産業の一翼を担う高橋元一さん。ふかひれ加工のことならこの人に訊け!

そんな風光明媚な景勝地でもあるふかふか村では、どんなふかひれ作りをしているのでしょうか。
ふかひれ加工のあらゆる現場に精通している「ふかひれマスター」こと高橋元一さんに伺うと、ここで行われていることは大きく3つ。

「まず、市場で切り取られた鮫の「ヒレ」の下処理をする一時加工。そして、乾物としての「ふかひれ」を作る二次加工。さらに、乾物を戻して、すぐに調理できる状態にした冷凍品やレトルト品を作る三次加工です」。

では、さっそく工場へ!

ヒレも骨も無駄なく活用!

さて、先ほど市場で魚種や部位ごとに分割された鮫は、トラックの荷台に乗ってそれぞれの行き先へと旅立って行ったわけですが、切り取られたヒレが運ばれるのがここ、一次加工場です。ここで男性陣がひれを囲んで行っているのは…、

一時加工男性たち

鮫軟骨の除去作業です。

一時加工男性たち

なぜならふかひれは、ひれの繊維だけ残して作られるため、まずはひれに付着している骨、肉、皮などを徹底的に取り除かないといけないんですね。
そしてなぜこのポジションが男性なのかといえば、この骨抜きにけっこう力がいるからです。ふかひれ1枚で200~300gになる鮫の尾びれであれば、実にその5~6倍超の重量、つまり1~2kgくらいが生原料の重さ。それをぐっと押さえて、骨を切り出して…を繰り返すのは、文字通り「骨が折れる」仕事です。

一時加工男性たち

そして、取り除いた残骸がこちら。これは一見ゴミのように見えますが…、

取り分けた軟骨
毛鹿鮫尾びれの軟骨。吉切鮫に比べ骨が大きく太く、がっしりしています。

 

実は再利用されています!

「軟骨の使い道はいろいろありますが、最もニーズがあるのが健康食品。乾燥させ、粉砕してコンドロイチン硫酸などのサプリメントになることが多いです。中でも、最もニーズが高いのが胸びれの骨。柔らかな胸びれには他の部位よりコラーゲンが多く含まれますが、胸びれの軟骨もまたコラーゲンが豊富に含まれているからです。
また、吉切鮫の背びれに入っている軟骨は、唐揚げなどの食用に加工されます。そして、毛鹿の尾びれの軟骨は肥料の原料として需要がありますね。ですから、こうした魚の残滓(ざんさい)も取り分けて、集めておくんです」(高橋さん)。

さすが、鮫に捨てるところなし、とはいったものです。

こうして軟骨を抜いた鮫のひれは、釜でゆでられ、皮を柔らかくして取り除かれた後、二次加工場にいる女性たちのもとへと送られます。

先ほどは黒い前掛け付きのつなぎを着た男性に囲まれていましたが、こちらはガラリと色合いを変えた白衣の女性たち。そして、ふかひれもこの衣装のように真っ白に!

女性陣

というのは、外皮をむいた鮫のひれは白いんです。続いて女性陣が行うのは、男性陣がざっくり抜いた軟骨のまわりにある肉や、より細かい軟骨、ごみなどを取り除く作業。中骨を抜いたその奥にある、ひれの中に入り込んだ骨まで、そっくりキレイに取り出します。

女性陣手元

軟骨

なお「ひれから骨を抜く作業は、加工の中でも最も難しい技のひとつ。ここにいるスタッフは慣れているので早く上手にできますが、それでも1時間でできる枚数は30~40枚です」と高橋さん。

また、鮫の種類や部位によってもコツや難しさが異なるため、要領を得るにはかなり時間もかかるそう。「中でも難しいのが、吉切鮫の胸びれの中骨を抜く技ですね。胸びれは柔らかく、中骨が長いので、スッとキレイに抜くにはテクニックが要ります」。

取り分けた軟骨
左端が、加工の難易度が高く、健康食品の原料としてニーズの高い吉切鮫の胸びれの中骨(乾燥品)。他と比べるとダントツに長く、コラーゲンもたっぷり含まれています。ちなみに真ん中が吉切鮫背びれの根元の骨、右端が吉切鮫の中骨(犬のおやつに好適)。

 

そしてこれが加工スタッフの「四種の神器」こと、包丁、ぺティナイフ、ピンセット、歯ブラシの4点セット。上記スムキ加工に使ったのは包丁1本。残りの道具は、歯ブラシ=骨の加工、ピンセット=異物除去、ぺティナイフ=整形作業に使用するそう。まるでちょっとした手術ですね!

道具

これら細かな作業を経て、ひれの繊維、すなわち「金糸」のみを残した鮫のひれがこちら(下の画像)。どうでしょう、ようやくふかひれらしき姿になってきたと思いませんか?

ヒレ

こうして形を整えられた鮫のひれは、ふかひれの姿をうっすらと感じさせつつ、いよいよ高級食材である乾物のふかひれへと姿を変えていきます。

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構成・文 佐藤貴子(ことばデザイン)
撮影   菅野勝男(LiVE ONE)