当コーナーは「中華好きを増やす」というミッションのもとに集まった、同士たちのトークセッション。中華を愛し、中華に一家言あるメンバーが、円卓と料理を囲んで、熱く語り尽くします。

※このシリーズは、3月8日に新橋亭新館にて行われた座談会「第1回 中華好き人口を増やす会」の模様をお届けします。


2012/5/30up

6:ピータンくらげがシニアを動かす

―― バーミヤンの平均年齢はおいくつぐらいですか。

福島 30代のファミリーです。あと、意外と50代、60代の層が厚いんです。

―― それはお2人ですか、お1人ですか?

福島 1人も多いですし、平均でいうと3~5人ぐらいで来られていますよ。

―― 意外に人数多目ですね。

福島 その年代の人は、けっこう周りの人と一緒に来るみたいで、ちょっとした居酒屋みたいな感覚で使われているんですよ。

―― 飲みに来ると。

福島 バーミヤンに飲みに来てるんですね、最近は。

古川 へえ、いいですね。

南條 ぜひ、高梁酒(コウリャンチュウ)も。

一同 笑。

福島 理由は、紹興酒と梅酒を100円にしているからかもしれないです。

―― 100円なんですか!

南條 それはすごい。

福島 年配の人がすごく増えたのは最近なんです。その方たちは飲みに来られて、料理をつまみとして食べられるのですが、皆さん「よくなった」って言ってくれるんですよね。実は一時、バーミヤンはピータンとかくらげとか、そういう中華のつまみを全部やめちゃった時があったんです。で、その時期に50代、60代の方がまったく来なくなっちゃった。

―― その年齢層にピータン、くらげがフィットしてるんですかね。

福島 なんかフィットしてるみたいなんです。

―― 中華といえばまずピータンから始めよう、みたいな。

南條 それこそ定番で。

古川 お酒のおつまみとしてね。

ピータン

ピータン

くらげ

くらげ

福島 実はピータン、くらげを再び置き始めたのは、去年の7月なんです。それはもう一度、一からちゃんとした中華料理やろうよっていう気持ちの表れでもあります。ファミリーレストランといっても、出すものはこだわりを持とう、というのをモットーにして、思いっきりメニューを中華に寄せて。そしたら、今までの研修の成果もあったのか、調理技術もだいぶよくなってきて、特に基本に則った調理に戻したら、お客様も普通に戻ってきたという。
逆に、人件費や原価率を下げなきゃいけない、っていう方向に走っていた時代は、テレビCMをやれば反応はありましたけど、すぐ来なくなるんですよ。それが今は、CMをやらなくても来ていただけるようになったし、CMをやればやるで、とてつもない数のお客様が来るようになった。そういうことを考えると、やっぱり商品を大事にしなきゃいけないし、「中華っていったらピータン」っていうように、専門的なものを置いてないと中華料理店と思ってもらえないということを、最近改めて感じています。

髙橋 しかしピータンが中華の定番っていう意識が消費者に浸透しているっていうのは意外でもあります。ピータンってけっこう嫌いな方が多いのかな、なんて思ってたんですよ。

福島 私もそう思ったんですけど、人気あるんです。

田中 通(ツウ)の人が好きなんですよね。ピータンがないと駄目っていう人、多いんだよね。

髙橋 日本では前菜で出てくるイメージですけど、中国や香港に行くと、前菜ではなく、料理として調理されて出てくることも多いですよね。

福島 炒めたりとか。

古川 スープの中にも入ってますしね。

髙橋 日本ではどうなんでしょう。こういう、前菜以外の出し方ってあったりするんですか。

田中 お粥の中に入れたりしますけど、基本的には和えるか、そのまま切って食べるか。あとは、衣をつけてサッと揚げるか、ごま油でちょっと香りを飛ばすなんていう、ごく簡単な料理法だけですよね。ピータン自体に旨みがあるし、薬味と和えることによって旨味が倍増するっていう感じですし、ピータン独特の風味と、中の柔らかさをなくしてしまったら何の価値もないんでね。

―― でも、ピータンって調理にアレンジが効きますよね。私事で恐縮ですが、同年代で中華に行くと、ピータンのあの色と臭いに抵抗がある人は多いように思うんです。でも、加熱した料理なら…、例えばピータン麻婆豆腐みたいに、ソースに混ぜ込むことで、臭みを和らげつつも、そのよさを活かせるんじゃないかと。

ピータン麻婆豆腐

ピータン麻婆豆腐

変わりピータン豆腐

変わりピータン豆腐

南條 ピータンも細かくすれば、スープなんかにも使えますでしょ。あと、揚州料理に上湯に青菜をちょっとくぐらして、ピータンの入った濃厚なスープで野菜を食べる料理もありますね。

―― 青菜っていうと、どんな種類ですか?


豆苗(とうみょう)
( 写真提供:中国野菜 木村商店 )

南條 種類はさまざまですが、例えば豆苗(とうみょう)をくぐらして食べるんです。

古川 料理名は「上湯豆苗」って感じですか?

南條 そうそうそう。

―― スープは上湯の色、つまりあまり濁ってないんですか?

古川 それはお店によって黄色味がかったり、濁っていたりといろいろあるんですけど、意外とポピュラーだと思います。上湯の中に野菜がメインなんだけど、ピータンが少し入っているという。

南條 それと、ピータンって台湾のものにすごく濃厚でおいしいのがありますよね。昔はあんなどろっとしたおいしいのはなかった気がするんだけど。

田中 それ、松花ピータンっていって、ピータンの白身に松の花のように模様が入ってるの。

南條 ほお。

田中 あと、卵で卵炒める料理があるんだよ。つまりピータンを卵で。

南條 それは台湾で観たような気がしますね。

松花ピータン

松花ピータン

ピータンの卵炒め

ピータンの卵炒め


原価率が頭をよぎる

―― ところでピータンって、値段を知っている者からすると、ピータン単独で頼みにくいっていうのはないですか。なんかひと工夫あってほしいというのが、消費者欲求としてあるんですけど。

南條 はははは。

田中 でもやっぱり、そのまま切った時のあの匂いが、食べた時のおいしさにつながっていると思うんですよ。生姜を添えて、ソースやたれをかけていただくっていう。あの味、香り、とろっとした、舌の食感を楽しむという三重奏があるじゃないですか。

古川 とろーり、ねとーっとしたやつはおいしいですよねえ。

田中 白身の部分が透き通っててねえ。

南條 そういえば前、うずらのピータンっていうのがあったけど、今見なくなっちゃったね。

髙橋 今うちで取り扱っております。

うずらピータン

うずらピータン

田中 これは昔の方が出てたよね。それと、ピータンはアヒルだっていうけど、実はいろんな卵の種類があるんですよ。まんまるいピータンもあれば小さいものもある。だけどオーソドックスなピータンの方が一般の人は使いやすいね。

―― 今はスーパーでも買えますしね。

田中 スーパーで売ってるのはちょっと小さい気がする。でも家庭でも食べられるのはいいことだよね。うちの奥さんも、千切りにした生姜と、ねぎと、すり下ろしたにんにくの三種類を添えて出してくるよ。食べ方は知ってるんだよね。でもピータン嫌いなんですって。包丁で切ると、真ん中がやわらかいからくっついちゃうから。

一同 笑

田中 で、どうするかっていうと、最初に全部蒸しちゃうんだよ。で、切る。なんで?っていうと、包丁で切りやすくなるからだって。それ、全部硬くてちっとも楽しくねえじゃないかって(笑)。

一同 笑

田中 本人に言わせりゃ、包丁に卵がついてきちゃうじゃないのって。半分に切って、柔らかいのがくっついてきちゃうのが嫌いらしい。で、生で切ったら本人がやわらかいとこだけ食べちゃうんだよね。

―― 盛り付けるためだけに蒸しているという。

古川 それと、ピータンと言えばピータン豆腐じゃないですか、やっぱり。

ピータン豆腐

ピータン豆腐

福島 うちもやっています。ピータンは卵カッターで切ってますよ(笑)。

―― じゃあ、軟芯じゃないものをお使いなんですか。

福島 ちょっと硬めのを。でもそうは言っても最近のピータンは若めですね。切った時にとろっとはなります。

南條 そういえばね、五粮液(ウーリャンイエ)作ってる宜賓(イーピン)市に、糟蛋(ザオタン)っていう料理があるでしょ。

―― どんな料理ですか。

南條 ピータンに使う卵、つまりアヒルの卵を酒の粕に漬けるの。

紅糟蛋

紅糟蛋

南條 北京に白家大宅門食府ってあるじゃないですか。康煕帝の時代に、清朝の初代皇帝・奴尓哈赤(ヌルハチ)の息子、礼親王の子孫が建てた家を四川料理屋にしているところ。あそこに糟蛋があって食べたんですよ。どろどろの酒粕に漬けてるもんだから、ウニみたいな、すごくいい香りがして、すっばらしいの。

南條氏(右)×古川氏(左)

南條氏(右)×古川氏(左)

田中 それにしても昔はね、前菜って言ったら全部ピータンだったの。というか、ピータンをいつも付けてたんだよね。宴会でも、前菜のまわりにだーっと並べてさ。

南條 そうそうそう、まわりに必ず。

田中 昔は鳳凰拼盆に使いましたね。卵の柄で鳳凰の羽の模様を作るんです。ピータンのむいたやつがだーっと綺麗に入ってさ。

鳳凰拼盆

鳳凰拼盆

田中 前菜にはピータンがつくもんだっていう、そういう時代もありました。


田中料理長

―― 刷り込み見たいなものですね。

田中 それにしても、廃れることはないけど、爆発的なっていうのもないでしょうね。ピータンは。

髙橋 でも素材の知名度はすごいですよ。

―― ダシとかコク出しに使ったら、けっこういろんなバリエーションができるのでは。あと、世代感の差があるように思いますね。50代、60代以降になると、ピータンはそのまま食べた方がしっくりくる。一方ここにいる30代には、ピータンは料理に使ってほしいというニーズもある。

髙橋 やはり、これからは料理に使うのが新しいと思うんですよね。

―― ピータン未経験者にとっては、はじめてのピータンは調理されたものでもいいんじゃないでしょうか。

田中 ピータン料理ね。これは発想していけばできるかも。今、イメージがちょっとわかないな。新メニュー開発しますか。

一同 おお。

―― 新企画登場ですね。

田中 じゃあその料理を作らなきゃならないよね。それは楽しいな。

―― じゃあこれは次回、ピータン料理を作って頂けるかと。

田中 食べさせてあげますよ。

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Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
人物撮影 林正
料理撮影 西田伸夫+80C編集室