羊を喰う、ただそれだけのために大人たちが真剣に取り組み、本気で遊ぶ会に参加してきました。

羊齧協会レポート「羊と紹興酒の会」

「やや会場はせまめですが、チチハル出身の老板(ラオバン/店主)の自慢の東北料理を是非お楽しみ下さい。当日の昼より大鍋で羊一頭を煮るらしいので乞うご期待。
7種類の東北伝統の酒の肴と、手づかみで食べる骨付き羊肉、甕からおわんに酌む紹興酒と、羊出汁の麺料理。ざっくりとおおらかな中国東北地方の雰囲気をお楽しみ下さい(中略)。
ちなみに、北京で東北料理を食べてきた私ですが、この店の東北料理は胸を張り推薦できます」

そんな触れ込みに誘われて、今回我々が取材してきたのは、羊齧協会プレゼンツ「羊と紹興酒の会」です。

 

▼22kgの羊塊に挑む

せっかくなので、仕込みも見物させていただきました。ひと足お先にお邪魔したのは、会場となる「味坊(あじぼう)」です。

味坊(あじぼう)
「神田ふれあい通り」にある味坊(あじぼう)。
隣の「味坊 炭火鍋羊肉店」も厨房は共通です。

店に着くと、老板の梁宝璋(リョウ ホウショウ)さんが笑顔でお出迎え。さっそく厨房に入らせていただくと、「これが今晩のごちそう『手把羊肉(ショウバーヤンロウ/手づかみで食べる羊肉の煮込み)』になります。下処理して、骨付きのまま水から煮込むのが中国北方のやり方。漢方薬も入っています」と鍋の中を見せてくれました。

老板・梁宝璋さん
福福しい笑顔の「味坊」老板・梁宝璋(リョウホウショウ)さん。
日本に来て18年、この地で中国東北地方の羊料理を提供してきました。

寸胴鍋

寸胴鍋

羊を飲み込み、沸々と煮えたぎる巨大な寸胴鍋たち。

乾物
入れる乾物は棗(ナツメ)、クコ、蓮の実、花椒、霊芝(レイシ)、当帰(トウキ)、天麻、党参(にんじんの一種)、香叶(月桂樹)。そこに生しょうが、生レモンを丸のまま投入します。

羊の脚
これは羊の脚。
「羊はオーストラリア産ね。皮付きのままゆでた方がおいしいです」と梁さん。

この日参加する約50人の会員のために、仕入れた羊はなんと丸ごと1頭22kg!通常、「店で1日で使い切る羊の量は15kgくらい」といいますから、今回は特別です。

また、日本でメジャーな中華系羊料理というと、クミンなどのスパイスの効いた炒め物や焼き物が定番ですが、「中国北方では、羊はみなゆでて食べるのが普通。その方がいくらでも食べられるんです。でも、日本は水がおいしいから、中国で食べるより絶対においしい。これは間違いないです」と梁さん。いやあ、期待が高まります!

▼酒池肉林!山賊風にワイルドに羊を喰らう

そして5時間後。再び我々が店の鍋を覗き込むと、中にはしっとりと柔らかそうな羊塊が鎮座していました。

鍋

 

ひつじ盛り付け
これが本日のスペシャリテ。
『手把羊肉(ショウバーヤンロウ/手づかみで食べる羊肉の煮込み)』です。

羊は各自手袋をし、ワイルドに手づかみでいただきますが、これがあっさりとしていて、いくらでも食べられる!これこそ「おいしい羊の喰らい方」ですね。

おいしい羊の喰らい方
コラーゲンたっぷりの皮をぺろんとはがし、いざ肉を手づかみ。

 

おいしい羊の喰らい方 / width=
まさに肉塊。でも、羊肉は体内の脂肪を燃焼させる「L-カルニチン」が豊富に含まれているのでどんどん食べちゃうぞー。

 

特製羊スパイス2種
羊を最高においしくしてくれるのがこちらの調味料。
胡麻を粗くすり潰し、塩や香辛料で調味してあります。
さらににんにくの絞り汁などもつければ、香り高く野性味あふれる風味に。

また、今日のもうひとつの主役である紹興酒は「三国演義」の陳年10年甕入り。一般的に出回っている甕入りは、陳年3年前後のものが多いので、陳年10年というとかなり高級になりますね。主席曰く「おいしいのに値ごろな甕」ということで、まずはここからひしゃくですくって、お椀で紹興酒を振舞います。

紹興酒
この日のために菊池主席が紹興酒の輸入業者に直談判し、
船便にて運んだ24リットル入りの甕。

 

原田さん
「麦茶はいかがですか~」と席を回る書記の原田さん。※中身は紹興酒です。

そして待望の〆は、22kg分の羊を5時間煮込んでとったスープにたゆたう湯麺!

湯麺
スープは煮込む時に入れていた花椒のキリリとした刺激が絶妙。
これはやみつきになる味です。

なお、席順は知り合い同士で固まらないよう、クジ引きとしているそうですが、今回は人数が多いこともあり、奥から順に詰めて座るスタイル。偶然ですが、私の斜め向かいに座られたのは落語家の古今亭駿菊師匠でした。

また、会のメンバーには東北支援ボランティアに取り組んでいる人方も多数いらっしゃいました。
というのも、岩手県釜石市出身の菊池主席は『東北を長期的に緩やかに応援する会』を主催。つまりこの会は「羊が好き」であり、なおかつ話芸やリフレクソロジー、東北の食材の斡旋(あっせん)や紹介など、自分たちのできることをできる形で提供し、取り組んでいる人々の集いでもあったのです。

さらに今回はWEB解析士協会との「協会間交流」も裏テーマ。世の中には、から揚げ、羊のようなゆるやかなものから、資格認定を行っているところまで数多の協会がありますが、「協会たるもの繋がり合おう」というフレンドシップもモットーとしているようです。

参加者

「羊料理というタグでもって、多くの人が出会い、つながり、それで世の中を少し面白くできたら本望ですね。また、羊料理を通じて、その料理が生まれた土壌や他民族を理解し、文化を学ぶとっかかりとなればさらに面白いかな…と思っています」というのが菊池主席の望み。
一見怪しい組織ですが、実は「羊で繋ぐ世界の友好」がその根底には流れています。羊齧協会から「羊婚」や「羊旅」など、さまざまな縁や企画が生まれるのも、そう遠い日のことではなさそうです。

 


Text:佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo:佐藤貴子(ことばデザイン)、小杉勉