好評シリーズ第2弾は、東京中国料理界きっての美人がマダム登場!食養生で身体を、サービスで心を癒す常連が後を絶たないこの店、この方です。

中国料理界きっての美人マダムが誕生するまで

歩く姿は百合の花とはまさにこのこと。スラッとしたスタイルのよさに、透明感のある肌。そして、つぼみがほころぶかのような可憐な笑顔。女性客ならば、思わず「やはり、普段から食養生を心がけているからですか?」と美の秘訣を尋ねてみたくなる。「古月 新宿」の顔であり、ホールを切り盛りするのが、オーナーシェフ・前田克紀さんの奥様、前田藍さんです。

前田藍さん前田藍さん

調理場を経たことで身に付いた豊かな知識と、穏やかな接客に魅了されるファン多数。夜の食養生コースは、常連のお客さんが5割を占め、手土産持参で藍さんに会いにくる方もいるほど。克紀さんいわく、「接客が苦手な僕ひとりでやっていたら、きっと店がつぶれていたでしょうね(笑)。好きな料理を作らせてもらえる環境でありがたいです」と、全幅の信頼を寄せます。

前田克紀さん前田克紀さん

しかし、そんな藍さんも、以前は仕事を辞めたいと思っていたというから驚きです。「特に1年目、2年目は辛かったですね。辞めたいと山中シェフに伝えに行く余裕もなく、かろうじて続いたというような気がします」と笑いますが、いえいえ。お話をうかがえばうかがうほど、マダムになるのはあらかじめ決められた運命だったのでは?と感じずにはいられません。

自身を取り巻く動きに抗わず、かといって流されず。飄々と波を乗りこなす、美人マダムのサービス道に迫ります。

店内

プロの技に憧れて。
しかし、女性の調理場進出の壁は厚かった!

自営業で10人家族という環境のなか、5人兄弟の第2子として、子供の頃から料理を作ることに慣れ親しんでいた藍さん。高校卒業後、大阪あべの辻調理師専門学校に進んだのは、いたって自然な流れでした。

「とはいえ、何が何でも料理人になりたい!という強い意志はなく…。ただ、漠然と料理が好きだからという理由でした。それまで、家で中華を作ることはほとんどなかったですね。

何しろ進学してから、わぁ、オイスターソース!まこもだけって初めて見た!というレベルでしたから。でも、中華の先生が見せてくれたプロの技に惚れまして。自分もできるようになりたいと憧れて、2年間皆勤賞をもらうほど、学校には熱心に通いました」

前田藍さん

周囲からもびっくりされるほどのめり込んだ藍さんは、就職時も、当然ながら中国料理の道へ駒を進めようとします。が、ここで想定外の事態に。

「調理師になったら東京で働きたいと、調理場志望で数々のお店の門戸を叩きました。行けばなんとかなると思っていたのですが、女性であることを理由にことごとく断られて。甘かったですね。

やっとの思いでたどりついたのが、5件目の「古月 池之端本店」。オーナーの山中一男さんは、志望に理解を示しつつも、『食の仕事は料理人以外にもいろいろあるよ』と説得してきたのですが(笑)、『いえ、調理場で働きたいんです!』と食い下がりました」

かくして2003年4月、藍さんは同店に入社。晴れて初志貫徹したものの、この後に待ち受けているハードボイルドな日々を、まだ知る由もなく…。


TEXT 浅井直子
PHOTO 丸田歩