中華系羊料理を偏愛する、設立間もない協会の正体とは…?

羊齧協会(ひつじかじりきょうかい)

中華料理で何が食べたい?と尋ねられ、「羊!」という人は、正直なところあまりいません。羊肉の料理を2、3種類諳(そら)んじれるのでしたら、あなたはかなりの中華通です。

そんなマイナーでニッチな中華系羊料理ですが、それを食べるためだけに結成された組織があるそうです。その名も「羊齧協会(ひつじかじりきょうかい)」です。

 

▼ジンギスカンだけじゃない、魅惑の中華系羊料理

羊を齧(かじ)る。ただそれだけを果たすために約150人の会員(※2013年6月1日現在)を擁する羊齧協会(ひつじかじりきょうかい)は、2012年春に決起した、設立間もない協会です。同会ホームページを見ると、統括するのは羊齧協会中央委員会で、頂点に立つのは主席。字面にすると、なんとも怪しい組織ですね。

しかも、会員が足を運んでいるのは北海道名物のジンギスカンやラム肉のグリル(洋風)などではなく、ウイグル、モンゴル、中国北方系の料理を中心とした中華系羊料理を出す店ばかり。しかしそもそも、日本で羊が食べられる中華料理店はかなり少ないのです。いったい、なぜこんな会が…?

羊肉串
中国北方エリアの街角で焼かれる羊肉串(yáng ròu chuàn/ヤンロウチュァン)。

 

▼羊を喰う、ただそれだけのために大人がマジメに遊ぶ会

「会の前身は、北京市内のウイグル人居住区・魏公村(ぎこうそん)で定期的に開かれていた『ウイグル会』なんです」

菊池さん
菊池一弘主席。黒の人民服に羊齧協会の腕章が会の制服です。

そう話してくれたのは、発起人であり、羊齧協会主席の菊池一弘さん。実は1997年から4年間、菊池さんが北京外国語大学に留学していた頃、夜の活動として取り組んでいたのが“魏公村通い”。そこで食べる羊は、若き菊池青年の好奇心を刺激し、気持ちを掻き立てるに十分な「怪しいおいしさ」に満ちており、菊池さんはここですっかり羊肉の洗脳を受けてしまったのです。

新疆ウイグル自治区の草原
北京留学時代のうぶな菊池さんを夢中にさせた羊たち(一部妄想)

ところが日本に戻れば前述の通り、中華系の羊料理を出す店は、探さないと見つかりません。そこで、自らの血肉と化した羊肉を日本でも安定的に補給すべく、「羊料理はうまいからみんなにも食べてもらいたい」と友人を集めて会を発足。
以後、羊に対する情熱を各店の店主に語り、羊のおいしさを共有し、「君がそこまで言うならば…わ、わかった…!」と老板(ラオバン/中国語で店主のこと)を絆(ほだ)しては、特別な羊料理を出してもらってみんなで齧る、という会が今日まで続いてきたとのこと。

羊齧協会の風景
「募集をかけるとあっという間に人数が集まってしまうので、
私ががんばるのは老板との交渉のみです」(菊池主席)。

 

▼羊が取り持つ縁もある

菊池さん自身が「羊肉が好き」というのもありますが、会を開催する理由は他にもあります。それは、この会で「想定外のコラボレーションが生まれる」からだそう。

「交流会や合コンですと同じ目的を持つ者同士が集まるので、“意外なこと”ってあまりないんですよね。でも、出会いも含めて意外性があると、面白がれるしワクワクできる。だったら、羊を媒体として新しい交流が生まれたり、化学変化が起きたら面白いな、と。私自身、参加者の方のご紹介で、今度『日本唐揚協会』の会長とから揚げを食べる機会に恵まれましたし(笑)」。

また、回を重ねるうちに、会員の属性として「海外在住経験者が多く、好奇心旺盛、語学や料理に造詣が深く、ジョークを理解できる、意外と経営者さんが多い…」という参加者の傾向もわかってきたそう。東アジア圏の羊料理というエキゾチックな味わいには、確かに好奇心旺盛じゃないと食いつきませんね。

なお「次回は、岩手・遠野の羊と、イスラムの羊の味を食べ比べるバーベキューや、前菜からすべて羊肉を使った『羊満漢全席』などを企画中」とのこと。なんだか面白そうじゃないですか…。

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参加者
羊をガブリ!この感覚がやみつきに…!

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Text:佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo:小杉勉、佐藤貴子(ことばデザイン)