外科手術のような超絶技巧!三套鴨(サンタオヤー)の作り方

鳥類マトリョーシカ料理、三套鴨(サンタオヤー)の掟は3つ。それは、①まだ包丁を入れていない羽付きのアヒル、野生の鴨、鳩を用意すること ②羽をむしる際にお湯をかけないこと ③皮を破かずに骨と内臓を取り出すことだ。

どういうことかというと、日本では一般的に、鳥類は尻から内臓を抜いている(中抜き(壺抜き)の鶏はだいたいこの状態ですね)。しかし、三套鴨では決してお尻に大穴を開けてはいけない

「オ尻ガ閉ジテイル鳥デナケレバ、コノ料理ヤラナイネ」という呉さんのひと言で、この日はアヒルと野生の鴨は羽付きのまま青森から、鳩はやや大きめのものが必要とのことで、フランスからやってきた。

青森から届いた青首鴨。季節が秋でよかった。

また、鳥類の羽をむしる際、湯をかけるのはよくある方法。しかし「決シテ湯ヲカケテハイケナイ」のだと呉さんは断言。使う道具はピンセット。強く抜いては皮が傷き、弱くては毛が抜けない。仕込みを手伝ったJASMINEチームは、アヒルの毛をむしるだけで2時間かかったという。

そして最大の難関は、家禽の形を保ったまま、中の骨を取り除く工程だ。これは中国料理業界で「整料出骨」と呼ばれる技のひとつ。しかし前述の通り、ここではお尻から手を突っ込んではいけない。鳥の首の付け根の部分に、包丁でほんの小さな切れ目を入れ、そこから指を入れて筋切りをし、骨を取り出すのだ。

さらに裏返して内臓を出すのだが、その際、決して皮を破いてはいけない。仕上がりの美しさに影響するからだ。

最も骨抜きが難しいのは、カラダの小さな鳩。「鳥ノ身体ワカッテナイト、コレ無理。中ガ見エナイカラ、目ハ使ワナイ。解剖ト同ジネ」。まさに外科手術である。

三套鴨(サンタオヤー)を大分解!

こうして骨を抜いた鳩、野鴨、アヒルの順に肉を重ね、葱、生姜、紹興酒、塩で煮込むこと4時間。土鍋の中には一羽のアヒル、しかしよーく見ると頭が3つある、謎の鳥類がいた。

上に載っているのは、金華ハム、筍、干し椎茸だ。

まずはここから肉を取り出し、アヒル、鴨、鳩を確認する。

ぷっすりと背中からナイフを入れていく。

鳩が取り出された。

ちょっとわかりにくいが、皿の上には、左からアヒル、野鴨、鳩である(一部、赤い部分は金華ハム)。4時間も煮れば肉の味もすっかり抜けると思いきや、野鳥も使っているからか、三者三様に味が残っていたのには驚いた。

口にすると、一番外側で煮込まれていたアヒルは、最も脂が抜けているものの、コクがあり、肉の繊維を感じる食感だ。

一方、野鴨はどこか甘やかで、香ばしく重めの香りをまとっている。そして最深部で2羽に包まれていた鳩は、独特の鉄分を感じる味わいとともに、脂もしっかり保たれていた。

呉さんに聞くと、この野鴨の仕上がりを「酥香(スゥシィァン)」と称するのだそうだ。「酥(スゥ)」とはクリスピーな食感によく使われる形容詞。

中国語ではしばしば「好香(ハオシィァン)」を「おいしい」という意味合いで用いるが、弾力があって食感がよく、香り高くおいしい…というニュアンスが「酥香(スゥシィァン)」という言葉に集約されていた。

どんな病気も治りそう!濃くて強いがグビグビ飲める三套鴨スープ

また、肉以上に圧倒的なパワーがあったのがスープである。

三套鴨のスープ。見た目は地味だが、飲むと凄いんです。

居合わせた人は皆、このスープだけでも3杯はおかわりしたはずだ。3種類の鳥の個性が重なり合った、太く、揺るぎなく、引き締まった味わいは、飲めばどんな病気も治ってしまいそうな気分にさせる。

呉さんにそう伝えると、揚州では、鴨の栄養は鶏よりも高く、1羽の鳩は3羽の鶏の栄養にも匹敵するといわれていると話してくれた。蟹や海老でなくても、力ある料理は人を無言にさせる。

ちなみにメインの三套鴨に至るまで、卓上に登場した料理は14品。三套鴨のあとには炒飯と果物も待っていた。せっかくなので、次のページで、呉さんの「揚州三套鴨主題宴」のすべてをご紹介しよう。

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