揚州出身の凄腕シェフ、呉林さんが作る宴会料理を一挙紹介!

この日の料理は全17品。前菜8品に、スープと点心、温かな料理が4品出た後、メインとなる三套鴨(サンタオヤー)が登場。〆に炒飯と果物という宴会の流れである。

八味冷碟(8種類の前菜)

<蠣油醤鴨舌(蚝油酱鸭舌)>

アヒルの舌を牡蠣油(オイスターソース)と醤油、ウイキョウや八角などの香辛料を合わせてこっくりと煮付けたおつまみ。一般的に、舌の中に中骨が入っているが、なんと舌の骨まで抜かれた丁寧な下ごしらえ。

<揚州燙干絲(扬州烫干丝)>

揚州名菜のひとつ、押し豆腐の細切りを温かいスープで軽く煮含めたもの。醤油風味で、ごま油の香りが食欲をそそる。

この料理は極細すぎず、太すぎない加減にカットするのがコツ。呉さんが言うには、揚州の市場の前には、まな板と包丁を持った見倣い料理人が自主練のためにスタンバイしており、市場で購入した塊をちょうどいい太さに切ってくれるサービスがあるとか。

<佛手海蜇皮>

仏の手のような形にカットしたクラゲを、葱の青い部分と花椒を合わせた椒麻(ジャオマー)で調味した。味付けとしては揚州ではないが、そこは彩りを重視したと呉さん。

<果仁豆苗松>

揚州のみならず、上海近郊でも味わえる野菜料理。現地ではひゆ菜を使うことが多いが、ここでは豆苗を使用。塩味のさっぱりした風味と、ナッツの香ばしさでいくらでも食べられる。

<金腿山薬糕(金腿山药糕)>

山芋をペーストにし、金華ハムを合わせて固めたところに、塩卵を加えたにんじんピュレを挟んだミニサンドイッチ的な一品。

着想を得たのは、山芋とブルーベリーを合わせた中国料理。その取り合わせより、こちらの方がいいと判断されたのは呉さんのセンスである。

<紅糟香墨魚(红糟香墨鱼)>

アオリイカを紅糟と紅南乳に漬け込んでオーブンで焼き上げた、こちらも呉さんの創作料理。

<五香燻鯛魚(五香燻鲷鱼)>

燻魚は江南地方を代表する甘辛味。下味を付けた魚を香ばしく揚げ、醤油、黒酢、砂糖たっぷりのタレに漬け込んでいる。冷めている方が味がなじんで食べやすい。

<風味鹵鵝肝(风味卤鹅肝)>

フォワグラの白鹵水煮。隠し味にフェンネルを入れてひと晩漬け込んでおり、上品な風味。

開胃羹点(胃袋を開き、食欲を増進させるスープと点心)

<香末芋艿 随 三丁小包>

左は角切りの里芋と豆腐を散らしたあっさりとしたスープ。ここではひね鶏、豚腿肉、貝柱、棗、金華ハムをベースにした上湯をかなりのばして使っている。

右の三丁小包は揚州で定番の点心。鶏腿肉、豚肉、筍を蝦子風味で味付けした餡がたまらない。餡の汁気が多いため、生地を二次発酵させない製法も特徴だ。

四熱菜(4つの温かい料理)

<綉玉石斑魚(綉玉石斑鱼)>

ハタを細切りにして円型に整え、糸切りにした野菜と干し貝柱をまぶして蒸した魚団子。すり身とはまったく異なる瑞々しさがある。

ハタの口にある飾り人参は、1本の人参から3つの輪を入れ子状に掘り出したもの。揚州の料理人は刀工技術に優れると言われるが、その片鱗がここに。

<金菇肥牛巻>

ブラウンえのきを牛肉で巻いて蒸した一品。扇型に整えているところに宴会料理らしさがある。

<雪梨桃仁鶏(雪梨桃仁鸡)>

梨、鶏むね肉、胡桃の取り合わせがこんなに合うとは!味付けはケチャップカレー風味。これもまた呉さんのアレンジ。色合いも重視している。

<蘿蔔燴酥腰(萝卜烩酥腰)>

豚マメ(豚の腎臓)を丸ごと使った料理。丸のままの豚マメを幾度もゆでこぼし、通常は取り除く白い部分を残したまま白湯(パイタン)で煮込んでいる。

この料理において、内臓の鮮度は極めて重要。聞けば、納品された内臓が呉さんのお目がねに叶わず、さらに鮮度のいいものを仕入れて調理しているとのこと。今は作る人がほぼいなくなった、昔ながらの揚州料理だそう。

葱、生姜、紹興酒とともに1時間ほど煮込んだ豚マメは、ほどよい弾力を残っており、噛めばシームレスに歯が入っていく心地よさがある。

主題菜(テーマとなる料理)

<三套鴨(三套鸭)>

前ページでたっぷりとご紹介した三套鴨。使っているのは、羽付きのアヒル(約2kg)、野生の鴨(約1kg)、鳩(600g)。入れ子にするには、このくらいがちょうどいい。

ちなみに揚州で調理師一級の資格を獲得するには、整料出骨(丸鶏の形を保ったまま骨抜きをする技術)の試験が必須。制限時間は1羽12分という。

さらに呉さんが見聞きした揚州の料理コンテストでは、生きた鶏を捕らえ、絞めて羽を抜き、胸肉を切り出して揚げて調理するまで、3分20秒で行った料理人がいるとか。「レベル高イ人、神様デス。80歳」。中国は昨今ITも強いが、アナログも変わらず凄い。

主食(〆のごはんもの)

<翡翠蛋炒飯(翡翠蛋炒饭)>

彩りは小松菜、金華ハム、人参。ラードのコクと香りが、これだけ食べたというのに食欲を増進させる。

季節水果拼盆

メロンの器に、メロンとぶどうを相い盛りに。並んでいるのはココナッツ団子。店で作りたての軟らかな食感がうれしい。

中国料理の魅力を宴会でとことん味わおう

こうした料理を体験すると、やはり中華は宴会料理に適した料理がたくさんあると実感する。とはいえ、注文する人がいなければ料理は出ないし、料理人の技術を披露する場もない。

技術の継承は作り手と食べ手の継続的な出会いによって生まれる。ちなみに今回の「揚州三套鴨主題宴」は、南條竹則さんの書籍『美人料理』で三套鴨を知ったツツミさん(女性)が「JASMINE憶江南」に相談して実現したものだ。

参考までに、三套鴨を食べる宴会開催の目安は8名以上で総額10万円から(税別・要予約と相談の上)。中国料理で誰かをアッと言わせたいとき、みんなで中華の超絶技巧を体験したいとき、ぜひリクエストしてみてはいかがだろう。


text & photo 佐藤貴子(サトタカ)
special thanks! Kayoko Tsutsumi