「甘い!もう1個!」あの野菜のとろける甘さが食欲をそそる「翠香園」の肉まん

かつては八百屋や肉屋が立ち並んでいた市場通り。ここに古くから店を構える老舗が「翠香園」です。思えば、昼に「海南飯店」で食事をして、「翠香園」の菓子部で月餅とゴマ団子を買ってから、午後に野毛の叔母の家を訪ねるのが、筆者の子供時代のお決まりルートでした。

甘いものがそれほど得意ではないため、長らく足が遠のいていたのですが、ある日通りかかったら、店内のガラスケースの一番上に、肉まんが見えるではありませんか。その佇まいは30年前のイメージそのまま。白い薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)が並ぶ和菓子屋を連想させ、貫録さえ感じました。

「翠香園」外観

買ってみると、高級中華菓子店の肉まんらしく、丹精で小ぶり。肉まんの下に敷かれた紙は四角く、角がピンと立っています。一口かじると、予想外の甘みがぶわっと口内に広がりました。甘みといっても砂糖の甘さではなく、野菜の甘み。断面をよく見ると、とろとろになった長ネギが、餡にたっぷり入っているのです。

「翠香園」の「肉まん」。

横浜中華街の平均サイズよりちょっと小ぶりな肉まんですが、がぶりと口に放り込んだ時の餡と生地とのバランスは素晴らしく、繊細な生地の質感も見事。仕事の合間の3時のおやつ、小腹を満たすのに食べたい、ちょっと贅沢な肉まんですね。

「翠香園」の肉まんには葱がたっぷり。

余談ですが、「翠香園」は菓子部門が有名ながら、料理部門のレストラン側もまた、海鮮の扱いが上手な実においしい店だということも付け加えておきます。

横浜中華街肉まんファイル②|翠香園の肉まん
調味の方向性:塩味×野菜
風味と魅力:加熱した白葱の甘さに満ちている。餡と生地のバランスがよい。やや小ぶりで生地の質感が繊細。高級菓子の佇まい。
合わせたい飲みもの:オールドスタイルの焙煎系鉄観音、焙じ茶

ド迫力の生地に包まれた、筍×豚肉×椎茸のゴールデントリオ!「紅棉(こうめん)」の肉まん

関帝廟通りを歩いていると、赤いテントの売店の奥のほうで、点心を作る姿が見える「紅棉(こうめん)」。その姿から、機械化せずに職人が真面目に作っていることが伝わってくる店です。きっと古いお客さんに支えられているのでしょう。

「紅棉」外観。間口は狭く、奥に長い店内。肉まんのPRポイントは「手作りです。軽やかな味付けが人気です」。

こちらの名物はエッグタルト。焼きたてを狙う学生さんの行列を避けて店を訪れると、この日も奥でご主人が黙々と生地をこね、麺棒で伸ばしている姿が見えました。これぞ正真正銘のメイド・イン・横浜中華街です。

そしてエッグタルトに隠れてはいますが、肉まんも見事です。特徴は、大きく立派に膨らんだ生地。餡の量は普通だと思うのですが、餡に到達するまでに、ひと噛みでは至らないのではないかと思うほど、生地が分厚く軽やかに立ち上がっています。

「紅棉」の肉まん。

てっぺんに入った凹みは手作りの証。機械製造ですと、こういうものは不良品にされてしまうと思うのですが、筆者は人の手仕事を感じる凸凹が好きです。この肉まんの面構え、誰が見ても手作りだと納得しますよね。

餡の塩分は控えめで、食べ飽きない味です。売りものの料理の味付けには、少し押しの強さがないと幅広く評価されない側面もあると思うのですが、このやさしい味こそ、舌の肥えたハマっ子、長く中華街に通ううるさ型にも評価されている味だと思える肉まんです。

生地の膨らみと存在感が凄い。
横浜中華街肉まんファイル③|紅棉(こうめん)の肉まん
調味の方向性:醤油味の豚肉食事系
風味と魅力:筍×豚肉×干し椎茸のベーシックな餡。自然な味付け。分厚く食欲を満たす生地。
合わせたい飲みもの:麦茶でも炭酸でも勢いよく飲めるもの

 

ご紹介した3軒のほかにも、横浜中華街には、家伝の手作り肉まんを作っている店がたくさんあります。中華街の古い店は、どこもしっかりお客さんがついているので、小さな商売だとしても、その味を求めるリピーターの購入で成り立つのでしょう。一方、短時間の観光では隠れた宝石を見つけることができず、商売色の強い店で買い求めてしまい、ちょっとがっかりして帰ることもあるかもしれません。

とはいえ、味の好みは人それぞれ。体調や季節、シチュエーションによっても美味しいと感じるものは変わるので、中華街に行ったら、違う店で2~3種類肉まんを買い込み、好みの味を探してみることをおすすめします。

横浜中華街の肉まんはそれぞれ個性が違うので、来月も継続してご紹介する予定です。製麺店が売る肉まん、甘みとコクが身上の上海料理店の肉まん、中華街の中の秘境の肉まんなどが登場しますよ。


ご紹介したお店

大珍食品公司(だいちんしょくひんこうし)アウトレット
住所:横浜市中区山下町130-3(MAP
TEL:045-681-2280
営業時間:主に土日祝日 14:00~16:00ごろ(2020年8月現在|土曜日13:00~15分間のみ営業
不定期営業
★ECサイト

翠香園(すいこうえん)
住所:横浜市中区山下町148(MAP
TEL:045-661-1266
営業時間:11:30~21:00
月曜定休

紅棉(こうめん)
住所:横浜市中区山下町190 (MAP
TEL:045-651-2210
営業時間:10:00~20:00
不定休


text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。