四川のウサギ消費量は年間40万トン!手撕烤兎と老媽兎頭(ウサギの丸焼きと頭の煮込み)

成都名物・手撕烤兎(ウサギの丸焼き)。焼き色が食欲をそそる!

四川人は、ウサギを偏愛している。中国の他地域でもウサギを食べるが、四川省にかなうところはない。一説によると、四川省では一年で40万トンのウサギ肉が消費されていて、これは3億羽のウサギに相当するそうだ。なぜこれほどまでにウサギを食べるようになったのか大いに気になるところだが、残念ながら、これまで説得力のある解説には出会ったことがない。

様々な調理法がある中で、最も豪快なのは手撕烤兎(ショウスーカオトゥ)だ。首を落としたウサギを丸ごと炙り焼きにしたものである。成都には烤兎一本槍で勝負している専門店がたくさんあり、その多くがテイクアウトを主体としている。四川人にとっては、日本人がチェーン店のフライドチキンを買って帰るのと同じくらい身近な食べ物なのだろう。

専門店の店頭には炭火の焼き場が据え付けてあって、くるくると回るウサギが飴色に焼き上がりゆく様子が何とも食欲をそそる。四川らしく、焼き上がったウサギに麻辣味の調味料をたっぷりまぶし、それから、ひと口サイズに肉をほぐして袋に詰めて供する、というのが基本スタイルだ。

鉄串で刺し、炭火の上で焼いていく。
麻辣味をまぶし、割いてから供される。こちらもご参考のこと。http://blog.livedoor.jp/chijintianxia/archives/1747143.html

ところが、こう叫ぶ客もいた。「裂かずに丸ごとちょうだい!」。聞いた瞬間、僕も「それだ!」と思ったものである。ギャートルズの肉のカタマリがこの世で一番旨そうに見えた子供時代から変わらず、肉なんてものはカタマリのままの方が旨そうに見えると決まっているのだ。

さて、テイクアウトした烤兎を持って向かった先は、茶座である。茶座なら、飲食物を持ち込んでも文句は言われない。途中で冷えたビールも買い込んで、陣取った席に烤兎とビール缶を並べた。池から木々を抜けて吹いてくる風が、気持ちいい。ふふふ、こういう野趣あふれる料理にはアウトドアがピッタリだ。

いただきまーす!

まずは、肉付きのいい胸をむしった。いかにも胸肉って感じの筋があるが、それがビーフジャーキーのようにスーッと裂けて、噛むと柔らかい。肉には下味が付いていて、様々な香辛料の香りがいい具合に染みている。その土台の上で激しく麻辣味が踊り回るのだから、こりゃたまらん!傍らのビール缶を手に取って、ぐいー!である。

しっとりとしつつもハリのある旨味の胸肉。

お次は、手と脚だ。どちらも胸肉より弾力が増す。取り分け、脚はむっちりとしていて、食べごたえがあった。シッポは、鶏のぼんじりにも似た脂の風味が魅力だ。胸肉をむしったあばら骨の中には、ハツ(心臓)の楽しみも待っていた。様々な部位を味わえるのが、丸焼きの良さである。

弾力のある腿肉。こちらも旨い。

ひと口ごとにビールをあおり、すっかりご機嫌だ。ウサギ肉にはいい意味での野性味があるが、脂身が少ないので、たくさん食べても飽きが来ない。日本でももっと普及してくれればいいのになあ。

さて、ここまでで「切り落とした頭は捨てちゃうの?」と思った方はいるだろうか。そんなもったいないことはしないので、ご安心あれ。成都には冷啖杯(レンダンベイ)という文化がある。これは蒸し暑い夏の夜、青空屋台に集まって作り置きの冷菜を肴にビールをあおるというものだが、ウサギの頭の冷菜は冷啖杯に欠かせない一品なのだ。

その名も、老媽兎頭(ラオマートゥートウ)。ウサギの頭をじっくり煮込んで冷ましたものだ。辛さと痺れがガツンと効いた麻辣兎頭(マーラートゥートウ)、様々な香辛料が豊かに香る五香兎頭(ウーシャントゥートウ)など、味付けによって呼び名が分かれる。

五香兎頭。辛いのが苦手な人はこちらを選ぼう。

見た目は、まあ、なかなか刺激的だ。「ウサギって、こんなに顔が長いんだな」「哺乳類と言うよりは恐竜っぽいよな」「確かに。でもこの歯は間違いなくウサギだね」。初めて食べたとき、そんな会話を友人と交わしたことを覚えている。

こちらは麻辣兎頭。ビールが進む!http://blog.livedoor.jp/chijintianxia/archives/1816287.html

食べ方は、更に刺激的だ。ビニール手袋をはめた手で上あごと下あごをつかんで上下に割き、解体しながら食べるのだ。肉はもとより、舌や脳みそまで全部食べる。え!と思うかもしれないが、魚だって頬肉や目の玉がうまいではないか。先入観は捨てよう。

良く動く部分だからか、顎周りの肉はとても美味しい。舌だって、牛タンよりも歯ごたえがいい。脳みそは、弾力があってチーズを思わせる味わいだ。いずれも難点は小さすぎることだが、もっと食べたいと思わせる旨さが備わっている。手や口周りをベタベタにしながらウサギの頭をむさぼり、ビールをぐいっとあおる愉しみを、是非とも成都で味わってほしい。

これは下あご。中央の舌がうまいのだ。

こちらは脳みそ。取り出すのが結構大変なんだけど、その苦労に見合う美味しさ。

自分が生まれた土地の価値観にしばられて、美味しいものを食べ逃してはもったいない。いざ食べてみれば、わかるはずだ。ウサギの頭は、撫でるものではなく、食べるものだと! (←上手いことまとめた!)

NEXT>四川料理最強の冷菜!夫妻肺片(牛モツの激烈麻辣和え)