麺に自信がある店だからできる一皿「萬来亭」の拌麺(ばんめん)

横浜中華街の自家製麺で外せないのは、中華街のはずれにありながら、いつも行列の絶えない「萬来亭(ばんらいてい)」。

こちらの名物は「上海焼きそば」ですが、上海人向けの味付けそのままのため、日本人には好みが別れる模様。そこでおすすめしたいのが、ランチメニューとして出ている「拌麺」(バンメン)です。どのあたりがおすすめなのかは、写真をご覧ください。

ご覧の通り、麺が主役で、肉そぼろと青ねぎが散らされただけのシンプルなスタイル。どうでしょう、北京や台北の涼麺に雰囲気が似ていませんか? 麺に自信がある店でないと、こういう引き算の料理はできません。

麺は透き通って火の通し方はバッチリ。肉そぼろとタレは控えめに麺をサポート。

麺を噛みしめると、ほのかに感じる小麦の香りと炭水化物の甘み。これこれ、素朴な加水率低めの麺が中国そのものじゃないですか。二口目以降はよーく混ぜ混ぜして食べましょう。お好みで唐辛子を漬け込んだ調味料をかけると、これが激辛。喉に飛び込むと、刺激にむせること請け合いです。

日本の濃厚なつけ麺を食べている人には物足りなさを感じるかもしれませんが、料理はあくまでも好み。中国の上等な料理ってやっぱりこうだよな、と思わせる雰囲気がここにあります。

そそりたつ肉のマリンタワー!「東林」の雲白冷麺ダブル

食べ歩くと「やっぱりここの麺が好きだ!」と再確認するのは、中華街のはずれの福建路にある「東林」。こちらも自家製麺の名店で、以前この連載では排骨麺をご紹介しています

そんな「東林」の夏の限定メニューは「雲白冷麺ダブル」。麺は1.5倍、肉は2倍で胃袋の大きい人も大満足で、料理の締めにオーダーする場合は3~4人でシェアできます。

ジェンガのように積み上げられた豚バラ肉。上が大きく見えるのはやっぱり横浜のシンボル「マリンタワー」をイメージか?

麺は他の店とは一線を画す存在感。四角く角が立った細麺は、冷水で引き締められてコシが強く出ており、香港のワンタン麺に使われるような食感を彷彿とさせます。

ちょっと濃い目に仕上がったごまだれに、隠し味としてプラスされているのは辛み。その辛みがほどよい刺激となり、量が多くても飽きずに食べ切れることでしょう。

もしこの店を2人以上で訪れるなら、もう一杯は以前ご紹介した排骨麺もいいですが、「京葱湯麺」もハイレベル。

チャーシューの甘みとネギの香り、麺の香りのバランスがビシッと決まっていて、足りないものが一つもなく、余計なものも一つもない、と言えるような潔さ。ごまかしようのない料理が見事においしいのですから唸るしかありません。

こちらの麺は、冷やし麺では歯ごたえと食感がよく、温かい汁そばでは香りが印象に残ります。運がよければ生麺の持ち帰りもお願いできるようです。

どんなに中華街大通りが混んでいても、この店には静かな空気が流れています。外見からは違いがわかりませんが、食べればわかる、もっと高く評価されてほしいオーナーシェフの店です。

香港人チーフが新解釈で作る「福龍酒家(大福林)」のごまだれ冷やしそば

最後にご紹介するのは、現地系からちょっと離れて、香港人チーフが日本的な素材を使って作る冷やし麺です。

その店は、この連載で酔拳老師に激似の香港人チーフいるとご紹介し、横浜中華街でちょっと話題になった「福龍酒家」の仮店舗(7月末まで店の看板は「大福林」)。

ランチの「ごまだれ冷やしそば」を食べて、やはり老師は腕がいいなと思いました。先の二店舗のように自家製麺ではありませんが、大葉とみょうがを使った、老師の味付けのセンスがいいのです。

大葉もみょうがも香港料理ではほぼ使わない上、中華に仕立てるには結構難しい香りだと思うのですが、老師の頭の中に、一杯の麺の全体像が描けているからでしょう。

口に入れると麺の甘みとごまだれのうまみ、香味野菜の香りが交互に立ち上ってきて実にうまい。麺を大盛り(写真)にしても、食の細い人でも一気に食べ切ってしまうはず。

同店は7月いっぱいで今の場所をクローズし、南門通り横浜媽祖廟の斜め前で「福龍酒家」として8月13日(木)から再開予定。厨房を覗くと、酔拳老師が悠然と料理をしている姿が見えるはず。ぜひ映画の老師と似ているかどうか、確かめに行ってみてください。

老師はその場にあるものでうまく組み立てるアドリブの技があります。たまに変な材料を持ち込まれ、納得がいかないと怒り出すところもたまりません。

中華街で麺→焼味&滷味購入→晩酌は中華と決め込もう

筆者はちょっとアジア旅行成分が足りなくなったとき、ふらりと横浜中華街に行きます。そこで中国語を話したり、涼麺のような軽食を食べてから、お土産にテイクアウトの料理や、叉焼などの焼味(窯で焼いた肉など)、滷味類(内臓などの煮込み)を買って帰るのです。

特に狙い目は平日。横浜の人も中華街は観光地だなんて言わずに、空いている中華街でランチついでにお土産を仕入れ、優雅な晩酌はいかがでしょう?近場にこそ、すごい宝があったりするものです。

散策後のお持ち帰りですが、麺は「萬来亭」や「東成軒」の製麺所で買うことができます。営業時間が短めではありますが、店が開いていたらぜひ買って帰りましょう。

また、叉焼をはじめとする焼味は「同發」「金陵」「重慶飯店本館売店」「一楽」「南粤美食」などで販売しています。テイクアウト初心者は「重慶飯店本館売店」が入りやすく、品揃えもよいのでおすすめですよ。


萬来亭(ばんらいてい)

住所:神奈川県横浜市中区山下町126(MAP
TEL:045-664-0767
営業時間:11:30~14:30 17:00~21:00
木曜定休

東林(とうりん)

住所:神奈川県横浜市中区山下町221(MAP)※福建路
TEL:045-201-8255
営業時間:11:30~14:00 17:00~21:00 (土日は通し営業)
※当面の間、火曜と水曜定休の掲示あり。行く際は事前に電話で確認をお願いします。

福龍酒家(ふくりゅうしゅか)仮店舗

※7月中の看板は「大福林」です。2020年8月13日改装オープン予定。
7月中の住所:神奈川県横浜市中区山下町138 (MAP)※香港路 関帝廟通り側
8月からの住所:神奈川県横浜市中区山下町106(MAP)※横浜媽祖廟斜め前
TEL:045-663-8896
営業時間:17:00~26:00
※新型コロナウイルスによる営業自粛期間中の営業は不定休の予定です。


text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。