飛ぶように売れていく!超老舗「同發本館」の明炉叉焼

中華街大通りで一番かっこいいファサードの店、それは「同發本館」でしょう。中華街大通りの角に燦々と輝くディスプレイされた焼味を見て、心躍る人は少なくないはず。こちらは創業した明治時代より焼味を作り続けています

密対策で店の外にならんでいたら、おじいさんたちにどんどん割り込まれていくので仕方なく店内へ。筆者もここでは若造です。

そんな「同發本館」の叉焼は〈半肥痩〉。これまでご紹介した店では、水飴をばっちり回すのに対し、比較的さっぱりとしていてタレも甘さ控えめのようです。切ってみると、太くてぎゅっと密度が高く、ハムやゆで豚のような雰囲気も。日本人に支持される理由はそこにあるのかもしれませんね。

表面の赤色や水飴、下味は控えめ。

中華っぽい風味が抑えめで、とてもキレイにつくられたさっぱり系叉焼。甘めの味付けが苦手な方は、主張が控えめのこのタイプが合うかもしれません。

今の横浜で味わえる、2タイプの叉焼とは?

こうして横浜の叉焼を食べ歩いてみて、筆者は大きく2つの味の系統があることに気づきました。

まずひとつは今の香港、広東省界隈で食べられている蜜汁叉焼です。これは赤く甘みの強いタイプで、切ってそのままつまみで食べるのがベスト。また、香港でよく食べられている焼味飯(シウメイファン:焼き物のせごはん)など、シンプルに肉のうまみを味わうのに適しています。

広東省江門市「新会陳皮村」の広東の蜜汁叉焼(左から二番目)。

もうひとつは、甘さ控えめのあっさり系叉焼。ご紹介したのは「同發本館」のみですが、横浜にある他の店でもこのタイプは見られます。こちらは葱叉焼麺にしたり、叉焼炒飯にしたりと料理の素材のひとつとして使われることで、より生きるように感じます。目立たなくても、料理のぐっと風味を増す名脇役的ポジションです。

横浜に2タイプ存在する、この味の違いは何なのでしょう。思うに、これは店が日本に進出した時期における、味のトレンドによるものではないでしょうか。

仮説ですが、甘さ強めの蜜汁叉焼は、比較的新しい世代の香港や広東省の職人が各地に持ってきた味で、裕福な時代を反映し、肉をそのまま食べることを前提とした味付け。ガツンとおいしいものを求めることができる時代だからこそ、こうした叉焼が生まれたのではないでしょうか。

マレーシア・コタキナバルの「広東仔」の蜜汁叉焼(左)。いまだに我が家でたびたび話題なるほど抜群に美味でした。
ベトナム・ホーチミンの叉焼(左)。バインミーの具などにも使われます。味は現代広東に近いもの。

一方、甘さ少なめの「横浜系叉焼」は、さらに古い年代の味わいかと思われます。明治時代から戦前あたりまでは、肉も砂糖も今よりはるかに高価。希少な肉を、どうやっておいしく節約しながら食べるかは、料理人の腕の見せどころでしょう。もしくは、昔の日本人の好みに合わせ、さっぱりとした味わいに順応して変わった可能性もあります。

横浜センター南「ウミガメ食堂」は本牧の奇珍楼三代目と息子さんの店。こちらは「同發本館」に近い横浜タイプの叉焼

ちなみにあっさり系の「同發本館」は明治開業で、蜜汁叉焼の「大珍樓」は戦後の開業。一方で、「一楽」は戦前開業ながら蜜汁叉焼ですし、一概には開業時期の味わいそのままととも言えないかもしれません。

戦前の叉焼と現代のものを、実際に今比較できるわけではありませんが、叉焼を食べ比べながら、店の歴史や料理人のバックグラウンドに思いを馳せてみるのも愉しいもの。まずはそのまま切っておかずにするか、料理のグレードアップに使うか、目的で使い分けてみるのがよさそうですね。


記事でご紹介したお店

大珍キッチンオンライン販売
TEL:045-681-2280
水曜定休

同發本館
住所:神奈川県横浜市中区山下町148(MAP
TEL:045-681-7273
営業時間:11:30-14:30 17:00-21:30(土日祝は通し営業)
火曜定休

一楽
住所:神奈川県横浜市中区山下町150(MAP
TEL:045-662-6396
営業時間:11:30-20:00
不定休

ウミガメ食堂
住所:神奈川県横浜市都筑区茅ケ崎中央24-12 ライオンズプラザ1F(MAP
TEL:045-508-9204
営業時間:11:15-22:00(L.O.22:00)
水曜定休


text & photo:ぴーたん
ライフワークのアジア樹林文化の研究の一環として、台湾・中国・ベトナム・マレーシアを回って飲食文化も研究。10数年前の勤務先で、江西省井岡山に片道切符で送り込まれたことを機に、中国料理の魅力に目覚め、会社を辞めて北京に自費留学。帰国後もオーセンティックな中国料理を求めて、横浜をはじめ、アジア各国の華僑と美味しいものについて情報交換をしている。