この季節、一部の料理好き、発酵好きの間でジワリとSNSの投稿が増えているものがある。酸豆角(スァンドウジャオ|suān dòu jiǎo)だ。

長尺のささげを、ほのかなスパイスの香りがついた塩水で発酵させた漬けものの一種。夏に蒸し暑くなる中国の西南地方では非常にポピュラーで、家庭料理はもちろん、レストランでもこれを使ったメニューを見かける。

主材料は十六ささげ、三尺ささげなどと呼ばれるインゲンのなかまだ。蔓性のささげで、さやの長さは30~40㎝ほど。インゲンよりも柔らかで火が通りやすく、中国では豇豆(ジャンドウ|jiāng dòu)、長豆角(チャンドウジャオ|cháng dòu jiǎo)などの名前で親しまれている。

2021年は7月下旬頃から都内や横浜の中華系の八百屋に出回っている模様。アジア系の野菜を育てている農園でも見かけるようになり、それに伴い投稿もちらほら。そう、真夏は酸豆角LOVERがそわそわする季節なのだ。

酸豆角に使われる十六ささげ。Photo by サトタカ
南足柄「熊農園」で収獲したばかりの十六ささげ。ここでは三尺ささげと呼ばれていた。Photo by 塩谷卓也
都内では7月下旬、中国系八百屋の店先に並び始めた。Photo by サトタカ
さやが小豆色のささげもある。Photo by サトタカ
横浜中華街で八百屋が集まる福建路。ここではグラム販売だ。photo by 田中慈

日本でこの系統の豆といえば胡麻和えなどの小鉢、すなわち二番手三番手のポジションに留まりがち。一方、発酵させた酸豆角(スァンドウジャオ)は、調味料となり食材となり、主役も脇役もがっちり務める万能選手として活躍する。

キュッと引き締まったさやは噛むほどに快感を呼び、発酵して酸味とうまみを湛えた汁をじゅっ、じゅっと口の中に放出。この植物性乳酸発酵の奥行きのある風味を動物性たんぱく質と合わせれば、最強の飯の友が生まれる。

定番の調理法は、豚のひき肉と唐辛子と一緒に炒めた酸豆角炒肉末(スァンドウジャオチャオロウモー)。恐らくささげの食感が苦手という人も、この刻みスタイルだったらいける!という人もいるに違いない。

これこそ中国の下飯菜(ごはんのおかず)の代表格で!酸豆角は細かく刻むものが多いが、このように少し長めにカットして炒めたものもある。Photo by サトタカ

さて、この酸豆角。もしかすると、80C(ハオチー)の読者にも、どこかで見聞きして、いつか食べてみたい、作ってみたいと思っていた方もいるのではないだろうか。

その一方で、ハードルが高いと思っている方もいるだろう。塩水で漬けて発酵させるだけなのだが、もし表面にカビが生えたらどうなのか? どうなると失敗なのか? せっかく気合いを入れて十六ささげを入手したのだから、無駄したくない…!その気持ち、わかります。

そこでこの夏、多くの人が酸豆角デビューできるよう、いろんな人のいろんな酸豆角を紹介することにした。続きを読めばわかるが、漬物道はひとつじゃない。勇気をもって飛び込もう。さらば道は開かれん。

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