<5人の酸豆角レシピ&ストーリー> 塩谷式リンセイ式 田中式北村式愛吃式 

南足柄の無農薬三尺ささげでつくる、うみちか編集部・塩谷卓也さんの酸豆角

湘南・西湘のおいしい情報がギュッと詰まった“うみちか”こと『海の近く』。塩谷卓也さんは、味にうるさいこの界隈の人々から絶大な信頼を得る、フリーマガジンの編集者だ。

冊子の編集に留まらず、暮らしの楽しみを生み出す達人でもある塩谷さん。コミュニティ農園「大磯農園」で、山田錦を種から自然栽培する「僕らの酒」づくりに取り組んだり、小田原のクラフト市「カミイチ」や、大磯漁港で開かれる「大磯市」を主催したり。ともかくも、こういう方が地域にいると大変ありがたい。

そんな塩谷さんが酸豆角づくりに目覚めたのは、昨年2020年の9月のこと。

「ウェブで酸豆角炒肉末(発酵ささげと挽き肉の炒めもの)がおいしい、という記事を見て、どんな料理なんだろうと調べてみたんです。そうしたら、もとになる酸豆角を自分でつくれることがわかって。スーパーにささげを買いに行ったらもうシーズンが終わっていたので、一発目はモロッコいんげんでつくりました

モロッコいんげんで酸豆角にチャレンジ(2020年9月)。Photo by 塩谷卓也
モロッコいんげん酸豆角炒肉末丼。肉多め。Photo by 塩谷卓也

モノは試し。そしてその勇気が、幸運にも“ホンモノの酸豆角”を呼び込んだ。

「ぼくの投稿を見た石垣島『ペンギン食堂』の辺銀愛理さん(友人)が、『酸豆角はやっぱりささげが最高さー!』と、1ヶ月間漬けた自家製酸豆角と、石垣島の生ささげを送ってくれたんです。さっそく愛理さんの酸豆角を酸豆角炒肉末とオムレツにしたら、モロッコいんげんとはまったく違った食感、味わいで。感動しましたね」

「あと、最初に食べたとき思ったのが、これってみんなも好きなのかな?ってこと。発酵くさうま系だし、食べたことない味だろうし、いろんな人に食べさせて感想を聞きたくなりました。へんな言い方ですが、これが好きな人とはトモダチになれそうな気がしました

材料にこだわり、生で漬け込む。ギリギリまで常温で粘って酸味を伸ばす。

今夏に漬けたのは、南足柄で野菜を無農薬栽培している熊農園さんの三尺ささげ(十六ささげ)だ。

「去年のささげシーズンに、ぼくが酸豆角炒肉末をつくって食べているのをFacebookで見てくれて『来年はささげを栽培しますね!』と有言実行。それを漬け込みました」

「熊農園」の三尺ささげ。「熊農園の佐藤賢さんも食べることが大好きな方。びっくりするほど多品種を栽培しています」Photo by 塩谷卓也
収獲時期はささげがカーテンのように連なる。Photo by 塩谷卓也
すみれ色の可憐な花を咲かせる。Photo by 塩谷卓也

漬け込みは重石をして二週間。がっちり漬けて、酸味を伸ばすのが塩谷さんのやり方。材料と漬け方は以下の通りだ。

<材料>
*梅酒を漬けていた果実酒びん(4リットル用)を使用
・南足柄「熊農園」で無農薬栽培された三尺ささげ たぶん2kg ※計量せず
・水 3リットル+αの調整分
・塩 150g
・にんにく3片、唐辛子3本、花椒ひとつまみ

<漬け方>
① 水に塩、にんにく、唐辛子、花椒を加えて、一度沸騰させてから冷ましておく。
② びんの中にグルグル曲げながらささげを入れていき、できるだけギュッと下の方へ詰めてから、冷ましておいた塩水を注ぎ入れる。(しかし3リットルではちょっと足りなかったので、追加で5%の塩水をつくって、あとで足した)
③ ささげの上に小皿などをのせて、とにかく水面上に飛び出さないようにする。

漬け込み完了。今年は7月18日に漬け、8月3日現在、まだ冷蔵庫には入れていない。びんは台所の片隅に鎮座。Photo by 塩谷卓也

コツは、香味野菜の量はほどほどにし、ふたをきつく閉めすぎないこと。

「昨年何度かつくったとき、びんのフタがキツかったのか、プシュッと発酵ガスのようなものの小爆発が起きてしまったことがありました。あと、塩水ににんにくを入れすぎて、凄まじくにんにく臭い酸豆角ができあがってしまったことも。ほどほどがいいみたいです」

漬け込み時はささげをゆでてから漬ける派、ゆでずに生で漬ける派に分かれるが、塩谷さんは「ゆでてから漬けるのが一般的なようですが、ゆでると食感がやわらかくなってしまうような気がして」、初めてつくったときは熱湯をかけるだけに留めた。二度目からは熱湯もやめて、生のまま漬けている。

二週間経ち、ささげがだんだんピクルスのような色に変わり、フタを開けるといい感じの酸っぱい匂いが漂ってきたら「そろそろかなー」の合図。

塩水が白濁したり、産膜酵母(※水面にできる白い膜。食用可)が出てきたら、小びんに取り分けて冷蔵庫で保存します。冷蔵庫に入れると発酵がほとんどストップしてしまうので、この常温発酵段階で、できるだけギリギリまで攻めたいと思っています」

大き目に切り、魅惑のギシギシキュッキュッ感を楽しむ

できあがった酸豆角は、大好きな酸豆角炒肉末やオムレツにして食べている。

「酸豆角炒肉末の味付けはシンプルに醤油ちらり程度。ごはんにのせて酸豆角炒肉末丼にするのが大好きです。酸味と旨味とうっとりするような発酵の香りが混じり合って押し寄せてくる感じ、かゆい奥歯を掻いてくれるような魅惑のギシギシキュッキュッ感がたまらないので、ネットなどで見た酸豆角炒肉末よりも、大きめにカットして炒めるようにしています」

豚肉は「ひき肉ではなく豚バラをたたきなさい」というのが石垣の伝道師・愛理さんの教え。そのようにして作った酸豆角炒肉末がこれだ。

あまり細かく刻まないのが塩谷さんの好み。中華鍋に山盛り作っても秒殺だ。Photo by 塩谷卓也

酸豆角入りオムレツは、辺銀愛理さんから教わり、塩谷家でも愛される一品に。

酸豆角入りオムレツ。Photo by 塩谷卓也

「その後、いんげんでも漬けてみました。あのギシギシキュッキュッ感ほどではありませんが、そこそこキュッキュッ感があるので、ささげロスの時期はこれでしのぐことにしています」

旬の時期は三尺ささげを漬けるが、季節が外れればモロッコいんげんや、いんげんでも漬ける。できそうなものでトライして、違いを楽しむおおらかさが、塩谷さんの酸豆角にはある。

続いては、生まれた時から酸豆角が家庭にあった、中国貴州省出身・リンセイさんの作り方をご紹介しよう。

NEXT>酸豆角FILE② 専用の壺で2日間発酵。貴州人の漬け汁を受け継いでつくる、リンセイさんの酸豆角