<5人の酸豆角レシピ&ストーリー> 塩谷式 | リンセイ式 | 田中式 | 北村式 | 愛吃式
専用の壺で2日間発酵。貴州人の漬け汁を受け継いでつくる、リンセイさんの酸豆角
リンセイさんは中国西南地方、貴州省の省都・貴陽市生まれ。千葉大学の研究生として2009年に来日し、日本人の旦那様と結婚して7年になる。
そんなリンセイさんが、郷土の味・貴州料理に開眼したのは数年前のこと。それ以前は「地元の料理は四川料理と同じような感じかな」と、本意ではない伝え方に留まっていたが、貴州料理のイベントや旅を重ねるうち、故郷の食文化を見直すようになった。
現在はSNSコミュニティ「貴州省Fan Club(Facebook|Instagram)」の運営や、自家菜園での貴州トマト栽培、東京在住の貴州人グループの管理人を行うなど、貴州の食文化を継続的に発信。
酸豆角は父上が漬けていたこともあり、子どもの頃から慣れ親しんだ味わいだという。材料と漬け方は以下の通りだ。
<材料> *泡菜壇子に入る分量 ・豇豆(十六ささげ)※ないときはいんげんで代用 ・5%の塩水 適量 ・青花椒、白酒 各少々 ・貴州出身の友人の漬け汁(老塩水) 適量 |
<漬け方>
① 泡菜壇子にきれいに洗ったささげを入れる。ないときはいんげんを使う。
② 湯冷ましで5%の塩水をつくり、青花椒、白酒少々を壺に入れて寝かせる。
③ 貴州の友人から分けてもらった漬け汁を入れる。
酸豆角は泡菜のひとつ。「老塩水」なら2日で漬かる
新出単語は、泡菜壇子(パオツァイタンズ|pào cài tán zǐ)。
これは野菜を塩水に漬けて乳酸発酵させて作る漬けもの=泡菜(パオツァイ)専用の壺のこと。酸豆角をはじめ、泡菜の漬け込みに特化した合理的なかたちで、口が小さく、中がぽっこり膨らみ、口の周囲に水盤がついているのが特徴だ。
この水盤に水を張ってお碗状の蓋をすると、外気は壺の内部に入らないが、壺の内部で発生した炭酸ガスは外に放出することができるというすぐれもの。
前ページの塩谷さんが言及していた「発酵ガスのようなものの小爆発」はまさにこの炭酸ガス。口をしっかり閉めた瓶の場合、中でガスが発生すると逃げ場がなくなり「爆発」するが、これなら「中の食材が発酵すると、空気が膨張し、蓋を突き上げて出てきます」とリンセイさん。
「ときどきぽこっと音が出て、発酵臭がすることがあって、ちょっとおならっぽい匂いを感じます(笑)」
また、嫌気状態を好む乳酸菌にとって、外気と水盤で遮断された状態は生育にプラスになる上、産膜酵母やカビの発生が抑えられるメリットもある。
リンセイさんの泡菜壇子は、飛行機で手持ちで持ち帰ってきた高さ20数cmのもの。「この“封じ水”が切れないようにすれば、雑菌の侵入を防げるため、中の塩水を長年使い続けることができます」。
現在、壺の中には乳酸菌たっぷりの漬け汁ができ上がっており、「老塩水」と呼ばれる状態になっている。しかし最初の漬け汁はなかなかうまくできず、ほどよい酸味が出なかったという。そこで加えたのが、料理上手な友人の「老塩水」だ。
「同じ貴陽出身の子から、発酵した汁を分けてもらってからは問題なくできるようになりました。酸味が出過ぎた時や、漬け汁にとろみが出た時は、ひとつまみの塩や湯冷ましを入れて調整しています」
「今は漬けたいときに、いんげんやキャベツを水切りし、油や雑菌が入らないようにして泡菜壇子に入れるだけ。本当に楽…。今の漬け汁なら2日ほどでできあがります」
できあがった酸豆角は、刻んで鶏モツ、主に砂肝と炒めた酸豆角炒鶏雑(スァンドウジャオチャオジーザー)にするのがお気に入り。
リンセイさん曰く「貴州人が愛するのは、鶏肉よりもコリコリした内臓の食感」。酸豆角と同じ壺に漬け込んだ大根漬け、発酵唐辛子なども一緒に炒め合わせれば、台所は酸っぱ辛い香りに包まれ、食べれば心が貴州に飛ぶ。
続いては貴州省の隣、四川省成都市に暮らしていた田中慈さんの酸豆角づくりご紹介しよう。剣閣出身のお手伝いさんに教わった、本場仕込みの酸豆角だ。