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四川の阿姨さんが漬けた思い出の味。田中慈さんの酸豆角

2006年から上海に4年、2014年から四川省成都市に2年、2016年から北京に3年。続いてご紹介するのは、旦那様の仕事の関係で、中国に足掛け10年暮らした田中慈さんだ。

現地では料理教室や中国茶教室に通って中国文化に親しみ、中国暮らしを楽しんできた田中さん。特に成都の悠々として大らかな雰囲気は性格に合ったようで、帰国後も現地の食の智恵を食卓に生かし、美しく住まわれている。

そんな田中さんが酸豆角を作りたいと思ったのは、成都に住んだときに出会った阿姨さん(アーイー:「お手伝いさん」の慣用表現)がきっかけという。

「剣閣出身の阿姨さんで、本当にお料理上手だったんですよ。家に四川泡菜で使うミニミニ壺を持ってきてくれて、大根とか胡瓜とか人参とか、いろいろ漬けてくれました。自分の家のより私の家のほうが美味しく漬かってる!とか言って(笑)。北京に移った後も彼女のご飯が恋しかったです」。

常備菜となっている、酸豆角炒肉末。Photo by 田中慈

当然、酸豆角の作り方も阿姨さんから教わった…と思いきや、そう簡単ではなかったらしい。

「聞いてみたのですが、長年のカンで仕込むというか、目分量でやっているので、結局正確な量などはよく分からなかったんです。阿姨さんがいう大さじ1杯が、実際の大さじ1杯がかなり違っていたりして。今では阿姨さんの仕込み方と、中国の動画や本などを自分なりにミックスして漬けています」

その結果、今は下記のような材料と漬け方に落ち着いている。

<材料>
*梅酒用の密閉型ガラス保存容器:2リットル
・十六ささげ 500g
・粗塩 50g
・水 容器に入れた時にささげが完全に浸るくらいの量
・八角1個、月桂樹の葉(ローリエ)1枚、桂皮(シナモンスティック)1本、花椒10粒、生姜2〜3片、鷹の爪2〜3本、にんにく1片、白酒(『二锅头』でOK)100ml
・昨年の漬け汁または以前の漬け汁 ドボドボッ

<漬け方>
① 容器に入れた時にささげが完全に浸るくらいの水を鍋に沸かし、塩、八角、月桂樹の葉、桂皮、花椒を入れて3分沸かす。そのまま常温になるまで冷ます。
② 容器を煮沸消毒し、水気や油分がついていないようにしておく。
③ 消毒した容器に、水気をしっかり切ったささげをぐるぐる巻にしたものと生姜、鷹の爪、にんにくを入れる。
④ ③に冷めた①の塩水をスパイスごと注ぎ入れる。ささげがすっかり浸かるようにする。
⑤ 白酒100mlを加える。昨年の漬け汁や、以前漬けたものの液が残っていたら、上手くいくようおまじないでドボドボッと加え、しっかり密閉する。

美しきとぐろ!Photo by 田中慈

漬け込む日数は、常温で1週間くらい。「2〜3日経つと水面が白っぽくなり、様子を見ながら1週間くらい経ってちょっとささげを食べてみて、好みの風味に漬かっていたら、冷蔵庫に移して保管します。もし、上の方にあるささげが白っぽく変色していたら、私は取り除いています。今年は10日ほどで冷蔵庫へ移動。冷蔵すると、1年間は腐らないと聞いています」

ごはん、うどん、中華麺…!炭水化物と相性抜群、酸豆角炒肉末の使い方

気を付けているのは、どのプロセスにおいても雑菌が入らないよう徹底すること。「洗った後、ささげの水気を徹底的に拭き取ること。瓶も熱湯消毒後アルコール消毒もしてカラカラに乾いた状態で用意しています」

「また、ささげのヘタを切り落とさないのが脆脆(ツイツイ:中国語で歯ごたえがよい時の表現)な仕上がりになるらしいのですが、実は私、自然発酵もののリスクが気になりまして。ヘタを切り落とした方が雑菌が付きにくいのではないかと思い、落としてから漬けています」

左のようにカットしてから漬け込む。Photo by 田中慈

お気に入りの食べ方は、細かく刻んで豚ひき肉と炒める酸豆角炒肉末だ。「一番簡単なのはこれをごはんに乗せて食べること。ほかにも拌麺(和え麺)に使ったり、湯麺(汁麺)にしたり、炒飯にしたり。塩気が強いなと感じたら、塩抜きしてから使っています

和え麺。有田焼の器に盛り付ける。Photo by 田中慈
飲んだ後の〆に用意した、酸豆角炒肉末のっけごはん。器との調和も素敵だ。Photo by 田中慈
半田うどんにのせて。酸豆角の塩気と豚肉の脂が麺に気持ちよく絡む。器は景徳鎮のもの。Photo by 田中慈

庶民的なごはんのおかずも、素敵な器に盛られると実に品がよく見える。目指しているのは、四川の阿姨さんの味わい。「まだまだそこには至らないので、精進していきます」。

さて、ところ変わって西日本。新聞社勤務の傍ら、週末は広島市内にある友人の農園で農作業を手伝い、産直市のパトロールも欠かさない身土不二な広島男児、北村浩司さんの酸豆角をご紹介しよう。

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