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身土不二な広島男児。泡菜研究会・北村浩司さんの酸豆角

中国新聞社に勤める傍ら、友人の『つぼくさ農園(FacebookInstagram)』を中心に、県内7~8か所の農作業を手伝い、『夢ぷらざ』の産直売り場を覗いては、旬の野菜チェックも欠かさない広島男児。

北村浩司さんの周りには、畑仕事、料理、設営、各種アクティビティに長けた友人が集まり、広島の食を愛する人々の大きな輪が見える。

北村さんが農作業のホームとしている『つぼくさ農園』の作業風景。「先日、台風で倒れたゴーヤーの棚を立て直しているところです。手前左が園長、右の女性が剛腕マネージャー」。 photo by 北村浩司
産直売り場をチェックするのは北村さんの日々の楽しみ。十六ささげも、産直市で入手した地元のものを使っている。photo by 北村浩司

野菜の発酵に勤しむ『泡菜(パオツァイ)研究会』も活動のひとつ。今年の夏はサンマルツァーノ種のトマトで紅酸(ホンスゥァン:発酵トマト)、青唐辛子の泡辣椒(パオラージャオ:発酵唐辛子)を仕込んだそうで、酸豆角も友人知人ともに漬けているとか。広島で中国の泡菜を広めているのは、恐らくこの方々に違いない。

漬け込み中の泡菜。左が青唐辛子、右がサンマルツァーノ。 photo by 北村浩司

そんな北村さんが酸豆角と出合ったのは、今から26年前(1995年)、中国南方の広東省だった。

「広州市でテラスのある、といっても庶民的な食堂で食べて、何だこりゃ? となりました。その場で店員さんに聞いてもらい、酸豆角という名前を知ったのですが、今思うと広東料理では出てこない食材ですよね。もしかすると、料理人の出身地にも関係しているのかもしれません」

のちに『泡菜研究会』も立ち上がり、産直市にも十六ささげが出回るようになり、「YouTubeで複数の中国語サイトを見て学んで」作るように。とはいえ、中国のサイトは分量を明記していないものが多いため、自分で調整し、道具も工夫している。材料と漬け方は以下の通りだ。

<材料>
*ジップロック®フリーザーバッグ Lサイズを使用
・十六ささげ(緑・紫ともに)ときどきインゲン
・塩水(2.5%~3%)
・花椒、鷹の爪 各少々
・白酒 少々

<漬け方>
① 水道水に塩を加え、2.5%~3%の塩水をつくる。
② ①に花椒と鷹の爪を加え、煮沸してから常温まで冷まし、白酒を少々加えて漬け汁をつくる。
③ ジップロック®を二重に重ね、ささげを入れ、漬け汁を入れる。
④ 大きめのボウルに水を貼り、ジップロック®を沈めて空気を抜きながら口を閉じ、なるべく真空に近い状態にし、寸胴鍋の中に入れて常温で数日放置する。

ジップロック®でコンパクトに漬け、ほぼ真空状態にして産膜酵母を防ぐ

ささげが巻かれた“とぐろビジュアル”を楽しむならガラス瓶、酸豆角だけでなく、継続的・安定的に泡菜づくりをしていくなら泡菜壇子がよさそうだが、北村さんは扱いやすく場所をとらないジップロック®フリーザーバッグを愛用中だ。

「産膜酵母が張りそうなときに、外から液を動かして中をかき混ぜることもできますしね。万が一の液漏れを防ぐため、二重にして、大きな寸動鍋の中に入れています」

漬ける日数は、まず常温で数日。発酵臭が出てきたことを確かめたら野菜室に移し、さらに一週間ほど置いたら完成。

「自分なりのコツは、ジップロック®を使うことでしょうか。手軽で場所を取らず、空気を抜いたり、産膜酵母の発生を防ぐため、漬け汁を動かしたりするのに便利ですから。ジップロックを再利用したら袋が破れていて、冷蔵庫の野菜室が漬け汁まみれになって妻に叱られたことはありますけどね」

食べ方は定番。「酸豆角炒肉末がやっぱりいいですね。知り合いの肉屋さんが売っている粗びきの豚ミンチを買い、その肉の大きさに近いサイズに酸豆角を刻みます。

イノシシ肉の粗びきミンチにすると、さらに風味がアップしますね。肉と一緒にオイスターソースで少し濃い目に味付けして、ごはんに乗せてどんぶり飯にするのもおいしいです」

豚粗挽き肉、小口切りにした酸豆角、パプリカ、ハラぺーニョのピクルス、生姜の炒めもの。ごはんが進む味わいだ。photo by 北村浩司

料理を拝見すると、北村家では、肉料理に酸豆角の酸味を加える使い方が主流となっているようだ。

「豚粗びき肉に紹興酒、塩、胡椒で下味をつけて片栗粉をまぶし、油で炒めて十分に火が通り、焼き色がついたら鍋から取り出します。その鍋に生姜を加え、油で炒めて香りが出たら、酸豆角、パプリカ、ハラペーニョを炒め、最後にひき肉を混ぜて、オイスターソース少々と塩で味を調えたらできあがりです」

ラム肉も好んで調理しており、ここでも酸豆角は隠し味的な存在に。

ラム肉に、酸豆角と『つぼくさ農園』と“熟女ピーマン”、チンパウン(ローゼルの葉)を炒めた北村流創作料理。photo by 北村浩司

農と発酵が日々の暮らしに根づいている北村さん。「自分ではホームグラウンドと思っている『つぼくさ農園』は、マネージャーが食いしん坊で珍しい食べ物もどんどん取り入れるチャレンジャーなので気が合います。多品種栽培をしていて、それらを泡菜にしたり韮花醤にしたり。自分も手伝って育てたとれたての野菜を使えるのは、本当にありがたいですね」

さて、最後にご紹介するのは、80C(ハオチー)で毎月、中国“現地系”の店や料理を紹介している、愛吃(アイチー)さんの酸豆角だ。

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