フカヒレとワインの相性を探る言語化手法

“マリアージュ実験”では、通常のワインのテイスティングでチェックする五味やフレーバーなどに加えて、料理と合わせた時にどう感じるかを重視して相性を判断している。どのような評価軸を持つと、両者の相性が言語化できるのだろうか。

‟マリアージュ実験”の進め方
フカヒレ×ワイン、味わいを高め合う赤白泡はこれだ!
フカヒレとワインの相性を探る言語化手法
ベスト3を発表する決戦の模様。

“マリアージュ実験”では、以下の通りだ。

[五味]味わいが同調したり、補完し合える関係にあるか

五味は甘味・酸味・塩味・苦味・旨味。そこにワイン特有の渋味、ミネラル感を加味する。マリアージュにおいては、五味と合わせる観点で、料理の甘味とワインの甘味を同調させたり、料理の塩味と旨味にワインの酸味を足して五味を補完したりといった合わせ方をする。

[フレーバー]香りの同調や違和感はあるか

フレーバーは、ベリー・柑橘・洋梨などの果実系や、ハーブ・スパイス・チョコレート・落ち葉やきのこなどの香りのこと。マリアージュにおいては、たとえばグリーントーンの香りのワインに料理のハーブの香りが合っているといった風味のマリアージュを評価する一方、料理とワインを合わせたら何だか生臭さが出てしまった、というようなネガティブな評価も重視する。

[ボリューム]味わいの厚みが一致するか

ボリュームとは、味の厚みによるボディ感。あるいは、アルコール度数の高いものから生まれるような飲みごたえなどをいう。マリアージュにおいては、まさにこのボディ感が肝となる。素材をいかした軽やかな料理に対して、果実味やタンニンが豊富なガツンと重いワインではボディ感がちぐはぐで合わない印象となる。

[テクスチャー]全体的な印象や余韻の長さが合っているか

テクスチャーはタイトな、ソフトな、コクがある、滑らか、などで表現される味わいのバランスや、フレーバー、食感などのワインの総合的な全体像をいう。
マリアージュにおいては、テクスチャーが料理とワインで合っているかを考える。一般的に、柔らかい料理には柔らかいワインが合うとされる。余韻の長さが合っているかどうかも評価ポイントとなる。

ワインの酸・樽香・熟成感はフカヒレ姿煮の味わいを引き立てるフックになるか?

“マリアージュ実験”を通して、おぼろげながらフカヒレ姿煮に合わせるワインのポイントが見えてきた。その上で、ワインの大きな特徴である酸味、樽の香り、熟成感は、フカヒレと合わせる際、どんなフックになり得るのだろうか。フィラディスの石田社長に意見を聞いた。

[酸味]突出した酸は合わない

「中華料理においても、黒酢と赤酢を使い分けるように、ワインのもつ酸すべてが合うわけではないと実感できました。今回のフカヒレ姿煮においても、しっかり甘みがある味わいだったので、突出した酸はあまり合わなかったのだと思われます」

[樽香]樽香は強くない方がいい

「赤・白ともにこれまでのマリアージュ実験において、樽香のあるワインは毎回必ず入れていますが、樽のフレーバーがポジティブになったことはほぼありません。ゼロに近いかもしれません。今回選ばれたバローロにおいても、樽香がそれほど強く感じられなかったこともよかった理由だと思います」

[熟成]ソースの濃厚な旨味と熟成感は好相性

「熟成によってフレーバーの複雑味や旨味が増していきます。シャンパーニュにおいても、赤ワインにおいても、その熟成感がフカヒレ姿煮の濃厚なソースの旨味と合わせる際にポジティブに働きましたね」

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いまや食の潮流として、ワインは合わせる料理のジャンルを問わずに登場するシーンが増えている。言うまでもなく、中華料理とワインを合わせることも珍しくない。

今回選ばれたワインは、動物系の旨味が豊かで、醤油とオイスターソースの風味を効かせた同系統のスープを用いる料理、たとえばアワビやナマコ、豚の煮込みなどにも合いそうだ。食材や料理のおいしさを高める1本を選んで、幸せな経験を増やしていこうではないか。


【参考資料】“ペアリング実験”で用意した31本のワイン+紹興酒2本

フカヒレ姿煮とワインのペアリング実験で用意した31本のワインリストは、フィラディスの社員によるワインコラム「実験シリーズ」で2023年1月に紹介される予定だ。80C(ハオチー)とはまた違った視点のレポートとして、ぜひ読み比べていただきたい。


TEXT 沼由美子
PHOTO 佐藤侑治