なぜ五目焼きそばだったのか? きっかけは「謎解き」とバイト先の店長の教え

いきなり食と関係のない話で恐縮ですが、私の趣味のひとつにボードゲームがあります。ある日、その仲間たちと、中華街に体験型の「謎解き(リアル脱出ゲーム)」に行こうという話になりました。

謎解き脱出ゲームスポット「ダークエスケープ・謎解き脱出ゲーム(横浜店)」。

私が知る限り、横浜中華街には3つの謎解きスポットがあります(リアル脱出ゲーム横浜店ダークエスケープ・謎解き脱出ゲーム(横浜店)横浜大世界「謎解き迷宮館」)。ここで存分に体験型ゲームを堪能しつつ、それならお昼は中華街で。せっかくだから美味しいお店がいいな、とリサーチをし始めました。

大切な仲間のために美味しいものを探すなんてことは、それ自体が私の大好物。中国福建省出身で、20以上も歳上の親友がおすすめしてくれた店から実際に食べて選ぼうと思った際、「せっかくなら1品に絞って味比べをしてみよう」と頭に浮かんだのが五目焼きそばでした。ちなみに親友が教えてくれたのは、先ほどご紹介した「龍鳳酒家」や「獅門酒楼」「萬来亭」などです。

今はなき横浜蒔田の「廣東樓」のショーケース。photo by Takako Sato

では何故、五目焼きそばだったのか。

私は高校の3年間、横浜の小さな町の中華料理店でアルバイトをさせてもらっていたことがあります。そのバイト初日に店長(私が初めて出会ったかっこいい大人)に言われたのが「中華料理店に入ったら、五目あんかけを食べればその実力がわかる」という教え。当時教えられたその言葉を、私は今でも大切にしていたのでしょう。

なぜなら、五目焼きそばは中華の技の結集です。それぞれの具材を生かすための切り方、海老の掃除の仕方、肉の上漿(シャンジャン(卵を吸わせ、片栗粉をまぶして加熱した際に縮まないようにする下ごしらえ)、餡のスープ、味付け、とろみづけ、麺の焼き方……。なにからなにまで、この一皿に基本が詰まっているのです。

横浜に生まれ育ちながら、これまで数えるほどしか横浜中華街を訪れた経験のなかった私。それが何年もの時を経て、あの店長から教わった五目あんかけの奥深さを身を以て知ることになろうとは、誰が想像できたでしょうか。

実際、中華街で五目焼きそばをテーマに据えて食べ歩きを始めてみると、同じ料理でも店ごとにまったく違った表情に出会います。

こうして私は「横浜中華街五目焼きそば全店制覇!」という大人の遊戯を開始したい……いや、やってみよう!という気持ちに至り、楽しく素晴らしい趣味として、1年半かけて140店を巡ることになるのです。

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