カタ・ヤワ・コゲが織り成す食感の妙味。「福龍酒家」の五目焼きそば

私はカタヤキソバというやつが苦手です。
口の中に麺が刺さりそうな恐怖心と、単純に軟らかい麺の方が好きなので、好んでカタヤキソバ、すなわち揚げ麺を食べることをしないのです。
そして、五目焼きそばには「両面焼き」というものがあります。文字通り、麺を平たくして片面焼き、ひっくり返してもう片面も焼いたものですが、私のなかでこれは、ほぼカタヤキソバと同義のもの。「福龍酒家」で五目焼きそばをオーダーしたとき「両面焼きですよ」と言われて、静かに「ぐむう……」と唸ったことを今でも覚えています。

しかし、「両面焼き」とカタヤキソバ(揚げ麺)は元来全く異なるものだということを「福龍酒家」は教えてくれました。
特にこの店の場合、こんがり良く焼いた両面の内側に、軟(ヤワ)な食感を残した部分がしっかり残っています。この「カタ」の部分と「ヤワ」の部分に「コゲ」の部分の香ばしさが加わると、食感と風味が何倍にも膨らむのです。

そこに決してくどくない、香ばしさのある醤油味の餡が絡むと、何とも言えない重層的な味わいに。食べ進めていくなかで、味も食感も変わっていくことが“ちゃんと作った”両面焼き焼きそばの美味しさだと教えてくれたのが「福龍酒家」でした。
野菜は白菜がたっぷりと入り、ザクザクとした食感の楽しさも。海老や花切りにしたイカなど下ごしらえの行き届いた具材とのバランスもよく、1皿で満たされた気分になります。

ちなみにこの店には「五目カタ焼きそば」というメニューもあります。こちらは正真正銘揚げ麺の焼きそば。つゆだくで麺がよく汁を吸い、とっても美味しかったので、食べ比べもぜひ。
横浜中華街の「五目焼きそば」全140皿を食べ尽くして

およそ1年半にわたって横浜中華街で食べ尽くした五目焼きそば約140皿のなかから、私的ランキングで上位のうち特に印象深かった3皿を紹介させていただきました。
私と中華料理の接点といえば、高校時代のアルバイト経験だけ。それじゃあ料理が上手いかと言えばそんなことはなく、中華料理に対する造詣が深いかと言えばまったくというのが実際です。
それでも「テーマを決めて街を歩き、自分のペースで美味しいものを探す」という、それほどお金もかからない割には有意義に時間も潰せる“遊び”に対する適性は少しばかり高かったよう。
今では「五目焼きそばは口に合わなかったけど…」「五目焼きそばが美味しかったから…」と、五目焼きそばをきっかけに他の料理に目が向いたり、中華外(中華街にある中華以外のお店)も食べ歩いてみたり、最近ではいよいよ五目焼きそばの2周目をゆるやかに始めているところです。
今日もまた横浜中華街は楽しく、五目焼きそばが美味しいです。
文中でご紹介した店
龍鳳酒家
神奈川県横浜市中区山下町152(MAP)
※伊勢佐木町「龍鳳」とは別の店です。たまに間違って行かれる方がいますのでご注意ください。
TEL 045-662-9201
火曜定休・不定休あり
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一楽(いちらく)
神奈川県横浜市中区山下町150(MAP)
TEL 045-662-6396
月曜定休
オフィシャルサイト|ぐるなび|X|Facebook
福龍酒家
神奈川県横浜市中区山下町106-15(MAP)
TEL 045-663-8896
年中無休(不定休あり)
TEXT&PHOTO 五目ひでお
趣味は自主制作の映画を撮ること、アメコミ、おもちゃ集め、落語、ボードゲーム、深夜ラジオなど広く浅く。口からものを食べられないほどの大病を経験したことで人生観と食に対する価値観がガラリと変わる。3年前、自ら「障害者」として生きることを選んだ若葉マーク付き障害当事者。足腰も健康とは言えない状態で、どんなに時間がかかってもいいから本格的な横浜中華街バリアフリーガイドを作成するのが夢。X(旧Twitter)@zw6dSo634p39268
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