こんな造り方があったのか!藁で甕を燃やす”火炙法”が生み出す個性

そもそも客家黄酒とはどのようなお酒なのでしょうか。

それは、数千年の歴史を持つ黄酒文化の中で、広東省や福建省など、中国南方に住む客家人に受け継がれる黄酒のことです。唐の時代に発祥し、宋の頃に広まったと言われています。(▶黄酒とは?おさらいはこちらで

さらに、地域によって異なる個性を持つ客家黄酒ですが、興寧に伝わる醸造技術は約800年の歴史があります。なかでもこちらの「珍珠红(パールレッド)」という名称は1511年まで遡ることができるとか。

酒造としての創業は1951年。以来、友人や親戚に贈る地元の銘酒として、客家人の一般家庭の間でも最もスタンダードな存在として親しまれてきたパールレッド。現在の「广东明珠珍珠红」に改名したのは2000年ですが、実に長い歴史があったのです。

国に認められた「中国老字号(老舗)」でもあるパールレッド。ボトルデザインや化粧箱にそれぞれ個性があって、好奇心がそそられます。

また、製法は非常にユニークです。まず原料ですが、興寧に受け継がれる客家黄酒は、上質な糯米を原料に、水と米曲(麹)で醸します。私たちにとって身近な日本酒も同じ米を原料とした酒ですが、日本は一般的にはうるち米を用います。

杉で作られた甑(こしき)。
酒薬(麹)を作るときに使う竹ザル。網目が凝っています。

日本酒と決定的に異なるのは発酵の途中で自家製の白酒を投下する点です。米の糖分が残っている段階で高度の酒を投下すると、糖分を食べてアルコールを作り出す酵母が死滅し、糖度の高いお酒ができあがります。

これは紹興酒でいう香雪酒にあたり、ワインでいえば酒精強化ワインと同じ製法です。前回、黄酒の分類について解説しましたが、これは4種の中で最もスイートタイプである「甜型」に属します。

さらに独特なのは、火入れ(加熱殺菌)の方法。正統な客家黄酒は藁の中に甕を埋めて、燃やすことで火入れしますこれは火炙法といって、客家に伝わる独特な火入れです。滅菌効果だけでなく、酒に燻した風味が生まれます。

館内に展示されていた火炙の模型。

藁に火を点けるだけなので、温度管理が大変そうだと個人的には思ったのですが、それこそまさに伝統芸として経験が物を言うのでしょう。原始的な酒造りが垣間見えます。

https://youtube.com/shorts/l-lK9sVJr60

館内には、実際に火入れしたあとの甕が貯蔵されていました。

藁で焼いたあとの甕。焦げ感のある外観です。

商品化するにあたっては、違う甕に入れ換えて熟成させます。熟成用の甕には常に3分の1程度の原酒が入っており、そこにブレンドする形で酒を継ぎ足していました。

こちらの大きめの甕に入れ換えて熟成させます。
甕の中にある原酒に、火入れした黄酒を継ぎ足して熟成させます。シェリーのソレラシステムに似てますね!

名水あるところに銘酒あり。より上質な酒を目指して山間部へ

さて、私が行きの車の中で感じた「なぜこんな山奥に酒蔵を建てたのだろう?」という素朴な疑問。その答えがわかったのは、”裏の山”でした。

この一帯は黄蜂窝茶山と呼ばれる山間地。豊かな自然環境に恵まれており、上質な茶葉やライチなどの果物が多く栽培されています。先にも触れましたが、パールレッドは場内の中庭で茶葉も栽培しています。

窓の向こうにある段々畑が茶畑。お茶も美味しかった!

山の上ですから当然水質も良好。そう、まさに名水あるところに銘酒あり。パールレッドの黄酒はこの良質な水を酒造りに活かすため、山の中に移転し、醸造を始めることにしたのです。

「上質な酒を作りたい」、そんな純粋な思いによってこの地。水源は立ち入り禁止になっていて入ることはできませんでしたが、醸造所まで長い長い管で運び出されていました。

ちょっとわかりづらいですが、パイプのような管は全て水を運搬するためのもの。裏にある水源の場所まで延々と繋がっていました。

さて、山の水で仕込み、独特な製法で作られたパールレッドの黄酒は、いったいどんな風味なのでしょうか。テイスティングした4種類をご紹介します。

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