代々木と麻布十番の接客、サービスの違いは?

接客の経験が長いとはいえ、初めての中国料理店のサービスでは戸惑うことも多々あったはず。

「中国料理をそこまで食べたことがなかったですし、初めはすごく不安でした。まずは料理を覚えなければと、メニューにあるすべての料理の材料や調理法を聞いてメモをしましたね。『飄香』では、歴史と謂れのある料理が多いので、井桁シェフに中国の食文化や、その料理の成り立ちも教わりました」

熊谷さんのおすすめ

甜焼白(テンシャオバイ)

甜焼白

「店の料理はどれも本当に全部めちゃくちゃ好きなんですよ(笑)」との返事でしたが、ひとつ厳選してもらったのがこちら。「豚バラ肉の中に小豆餡と餅米が入っていて、不思議な組み合わせだけれどこれが美味しいんです!甘いけれどもデザートではなく、熱菜として、辛いものの間にお出ししたりします」(1,836円)

こうして中国料理にも慣れ、代々木上原の常連とも距離が縮まったころ、「飄香」は麻布十番へ移転。下町的雰囲気だった店は内装を一新し、エレガントさが倍増。熊谷さんも制服にタイを身につけるようになり、テーブルには白いクロスが敷かれ、サービスにも変化が現れます。

「代々木上原のお客さまは、シェフのお料理が大好きな方が大半で、実は料理の説明はあまり必要ないこともありました。

それに比べると、今の麻布十番は攻めのサービスかもしれません。何度目かの方で召し上がったことのないメニューがあれば『これ新作でめちゃくちゃ美味しいので食べてください!』とプッシュしたり。

その裏側にあるのは、お客様が楽しそうな時、よりいい気分になっていただきたいからいう感じですね。結果、場が盛り上がって声のボリュームも上がってくると、こちらも楽しくなります」

熊谷泰代さん

「また、今の店は厨房からフロアが見えないので、どういうお客さまがご入店され、どんなシチュエーションかをシェフに伝えるようにしています。
コース料理が二度目のお客さまの場合、お料理をちょっとアレンジしてくださいと提案したりもしますね」

そういえば私と友人が初めて伺った際も、「辛いのお好きですか?」と通りがかりに声をかけてくれたり、◯◯◯◯もご飯が止まらなくなるという話をしてくれました。
場合によっては椅子をひいたり、ジャケットをかけたり。マニュアルではない会話やサービスが、ファンの多い理由かも。

サービスは「無駄の積み重ね」。SNSを意識した対応も

「初めての師匠の糸澤さんが、当時『サービスは無駄の積み重ねだから』と言っていたんです。『どういう風に対応されても、自分がしてあげたいと思うこと、喜んでもらえそうと思うことを大事にして。そういうのがサービスの行動力になるから、絶対忘れちゃダメだよ』と」

ジャンルは変われど、フレンチ時代の教えは熊谷さんの根底にあります。そして今でも、休みの日には同じ料理業界で働くご主人とレストランに足を運ぶそう。

「子供がいるので、もっぱらランチですけどね。自分はサービスの勉強がしたいので、そうなるとお手本はフレンチが多いです」。

熊谷さんが味にもサービスにも惚れた店

Nabeno-Ism(ナベノイズム)

「印象に残っているのは、夏に行った浅草の「ナベノイズム」。支配人の方のサービスが素敵だなと思いました。相手をリラックスさせる雰囲気があって、かつ洗練されていて憧れます」

また、今の時代だからこその、SNSに関する対応もあるといいます。

「最初の料理を提供して、写真をバシバシ撮っている方がグループにいたら、二品目にいくときに、『先にお写真をどうぞ。そのあとにお取り分けしますね』とお声がけします。『ついでに一緒に私もどうですか?』なんて冗談も、けっこう盛り上がるんですよ(笑)」

しかし、時にはトラブルもあります。そんな時、熊谷さんのとった対応とは?