昨年の雪辱を経て、見事リベンジした井上さんの戦い方とは?これからRED-EGGを志す料理人必見です!
リベンジを誓った2015年。
井上さんはこう進化した!
―このたびはおめでとうございます。昨年のRED U-35グランプリ発表の場で、パーティーの料理を提供していた井上さんに声をかけた時、「くやしいです。なぜ優勝できなかったのか考えて、来年必ずリベンジします」と語られたことを思い出しました。
昨年(2015年)のRED EGG発表会場で料理を出していた井上さん。
この時リベンジを誓っていました。
井上 これで最後だっていうのがありましたからね。REDは去年初めて挑戦したんですが、その時は審査要項をなんとなくしか見ていなかったんです。実際にエントリーしてみると、料理だけでなく、動画も撮らなきゃいけないですし、審査員の前で話す機会もある。そこにあまり意識が行ってなかったなと。
昨年、映像の2次審査が終わった後で、審査員は興味を持った料理人の店に食事に行くことができますが、その時、僕のところには脇屋さん1人しかいらっしゃいませんでした。他のシルバーエッグの料理人仲間に聞くと、4人も5人も来店したという。ああ、自分の映像での話し方や、アピールの仕方、プレゼン力が足りなかったな…と思いました。
いかに自分に興味を持ってもらえるか―――。今年注意したのはそこですね。料理人仲間からいろんな情報をもらって、アドバイスも受けました。
前の写真から1年後、今年の井上さん。
―昨年の優勝者は、当時「海鮮名菜 香宮」で料理長を務めていた篠原裕幸さんです。交流はありましたか。
井上 篠原さんは僕の1つ先輩で、四川飯店の同期の松浦が辻調(辻調理師専門学校)の同級生ということで、入社1年目に知り合いました。今回の大会では、勝ち進むたびに「おめでとう」と言ってくれて。優勝した時も、すぐにお祝いのメッセージを送ってくれましたよ。
皿の上だけに留まらない、審査のポイントとは?
―半年におよぶ審査の中で、苦手と感じた課題、得意と感じた課題は何ですか。
井上 レシピ作りや文を書くことは、これまでいろいろなコンクールでやってきていたこともあり、学生時代から国語は好きだったので、苦手ではなかったです。空想ばかりしていたので、書くのは好きな方かもしれませんね。
むしろ、自分で話して想いを伝えるのが難しくて。宴会の時などに、よく菰田から「ひと言しゃべれよ」なんて言われて話す機会はいただいていたんですが、「少し早口で聞き取りづらいよ」とか「自分が伝えたいところは力強くしゃべったほうがいい」とか、いろいろアドバイスをもらいました。菰田も(陳)建太郎も、人前で話す仕事が多いので、いろいろ教えてくれて、本当に感謝しています。
陳建太郎社長(左)と菰田欣也総料理長(右)
とともに祝勝の喜びを味わいました。
―最終審査は、レストランのオーナーシェフとして審査員をおもてなしするというものでした。井上さんは最後の提供で、最も多い10品だったと聞いています。
井上 コースとしては8皿で、前菜は3種盛り合わせでした。メニューは事前に事務局に提出していたんですが、実は「大丈夫ですか?」と電話があって。そう言われるということは、品数が他の人より断トツに多いということですよね。
でも、僕自身は心配してなかったんです。調理時間は仕込みに90分、調理と提供が120分ですが、最後の30分は審査員と話をする時間を取るため、実質90分になります。うちの店の場合、1万円のコースが7品で、そのくらいのお時間で召し上がっていただいていますから。
料理は自信がある、というわけじゃないですけど、ずっとこうやってやらせてもらってきたので、落ち着いていつも通り作れればきっと大丈夫だろうと思っていました。
―当日初顔合わせとなる、調理アシスタントとホールスタッフのアサインも高評価でした。
井上 最終審査は“レストラン経営者としてのおもてなし”ですから、スタッフにどう動いてもらうかも審査対象になりますよね。なので、僕は極力料理の説明をせず、サービスの方がどれだけ料理を理解して、説明してくれるかが大事だと思ったんです。提供する料理を多めに作り、すべて味を見てもらって、僕の気持ちよりも、サービススタッフが食べた実感を伝えてもらおう、と。
当日はサービスが3名、辻調(辻調理師専門学校)の30歳以下の先生2名がサポートについてくれるのですが、普段中華をやっていない方がつくと難しいので、前もって料理の写真に説明を書き、プリントしてサービスの3名に渡しました。
これがわかりやすくてよかったようです。最終審査で(審査委員長で「菊乃井」主人の)村田さんが「裏方でやってくれた助手やサービスの方がやりやすかったと話していたよ」と言ってくれて。僕の作戦勝ちだと思いました。
それと、事前に審査員の誕生日を調べたんです。残念ながら(辻調理師専門学校の)辻先生と「龍吟」の山本さんはどんなに調べても出てこなかったんですが、ちょうど「菊乃井」の村田さんと、「ポンテベッキオ」の山根さんの誕生日が近くて。お2人のデザートプレートにHappy Birthdayと書いて、用意しておいた花束を直接お渡しすることができました。
審査では、真っ先に村田さんがおいしかったといってくださり、「これが1万円やったらええな」と。それをうかがって、すごく気が楽になりました(笑)。
また、審査後も皆さんが話しかけてくださって。狐野扶実子さんのお父様は秋田出身だそうで、ハタハタの前菜を「秋田の食材でこんな料理は初めて」と言っていただけた。それでさらに幸せな気分になっちゃいまして(笑)。最終審査は楽しくてしょうがなかったですね。背伸びすることもなくできたと思っています。
ハタハタの前菜(写真手前)。旬の子持ちハタハタを使い、ぶりこ(卵)をあしらっています。
―優勝賞金は500万円。店に200万、ご自分に300万ですが、どのように使いたいですか?
井上 語学を勉強したいです。北京で2週間研修させてもらう前に、我流で中国語を勉強したんですが、コミュニケーションを取るにはまだまだ。仕事をしながら独学では挫けてしまいそうなので、この賞金で勉強させてもらえたら、今後、自分の幅が広がるかな、と。
あとは英語もですね。スタッフにもできる人はいますが、自分ができたらもっといい。ソムリエ試験も受けようと思っています。
僕、来年は年男で酉年なんです。もし優勝したら、「RED EGGを獲って生まれ変わります!」なんて言ってみたいとイメージしていましたが、そうなれて本当に嬉しいです。
TEXT 佐藤貴子
PHOTO 山時慶子(陳建太郎、井上和豊、菰田欣也3名集合 ※敬称略)、小杉勉(インタビューカット)、佐藤貴子(2015年井上氏)、RED U-35 オフィシャルフォト