山西亭の開業には、影の立役者「ミスターX」がいた!

「彼にはすっかり頼りっぱなし。仕事もいろいろ助けてもらっているだけでなく、私たちの細かな心情までもわかってくれる。真の理解者ね」。

李秀珍さん

李夫妻が全幅の信頼を置くその人は、笠原信彦さん。山西亭の開業にあたっては、店名の決定、店の保証人に始まり、内装補修、機材調達にも尽力。開業後はトイレの整備や不在時のフォローまでしているというから驚きです。

笠原さんが李さんと出会ったのは、かつて中国食材の輸入関連の仕事をしていたときのこと。「『一度面倒を見始めた人のことは一生見る』という、かつての上司の言葉を思い出してね」と笠原さんは笑いますが、ご自身の仕事をこなしながらお手伝いは、並大抵のことではないはず。

例えば、私たちが何気なく目にする「山西亭」のメニュー。そこには知らない料理でも味がイメージできるよう、料理名だけでなく、写真と解説文が添えられていますが、それらはすべて笠原さんの仕事。

笠原さんの誠実な人柄はもちろんのこと、彼のような人と長く交流が続き、面倒を見てもらえるのも李夫妻のお人柄あってこそ、といえるでしょう。

壁メニュー

そんな笠原さんのサポートの甲斐もあり、2015年1月に「山西亭」は開業しました。今でこそ、遠方からわざわざやってくるお客さまもいる店ですが、開店初日に訪れたのは「ランチタイムに女性5人、男性2人の7人が来ただけ」(夫の李俊松さん)。

ショップカード制作の営業マンに言われるがままにカードを作るも、渡す相手がいない…。そんな冗談のようなオープンから、いかにして「山西亭」は繁盛店への道を上っていったのでしょうか?

決め手は観察力。言葉に頼らず売上を上げる方法

「私は日本語学校は行ったことない。すぐにサービスの仕事したね」。そう言って微笑む秀珍さんですが、彼女は観察力にすぐれた人。

李秀珍さん

「最初は『灰皿』という言葉も知らなくて、みなさんの動作や会話を聞いて覚えました。それから、日本語あまりよくできないけれど、みなさんを見ます。ひとりで来る人が多いなぁ。相席じゃない方がよかったかな? あの人この前も来てくれていた人だ。あの人この前、香菜残していたなぁ。もうちょっと経ってから料理を持って行ったほうがいいかな…って」。

お客さまの様子を見て、香菜が苦手な人には、次回は香菜抜きで。辛いのが好きなに方がまた来たら、今度はしっかり辛く。再び来てくれるお客さまには、以前の様子を覚えていて、出す料理をコントロールしていたという秀珍さん。「それを覚えていると、とても喜んでもらえます。それ、私も嬉しいね」。

お客さまを見て、時に先回りして対応するのは、サービスの本質的な部分。言葉に頼らずして、秀珍さんはそれを実践していました。

また、日ごろの接客だけでなく、秀珍さんは店内空間も少しずつ、日本のお客さまに向けて変化させていきました。その工夫とは?

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