ホッとする空間で、自慢の刀削麺を味わってほしいから

「うちの店は、いつもは近所の中国人学生や、サラリーマンのひとり客が多いです。だから、テーブル席の一部を動かして、壁に沿ってテーブルを並べ、カウンターのようにしました」。

なるほど、中国の街場の店なら相席など当たり前ですが、日本人は見知らぬ人と向かい合って食べるのはくつろげない人も多いもの。「これは他の飲食店でもなかなかない配置」と笠原さんも驚いたそうですが、いざ実行してみたら大成功!その勝因もまた、秀珍さんの“観察力”にあったのです。

カウンター席

こうして「山西亭」は1人、2人と常連さんが増え、いつしか「山西料理を食べてみたい」という声が広まり、カレンダーのマスが予約で埋まるように。

中には、静岡からわざわざ車でやってきたお客さまも。本場の味と聞きつけて、中国大使館や、山西省出身者の同郷会などに利用されるようになるのに、そう長い時間はかかりませんでした。

刀削麺は大同スタイル。同じ刀削麺でも「山西亭」はココが違う!

また、どんなにいいサービスができても、料理がおいしくなければ元も子もないもの。今では日本で知名度が上がってきた刀削麺ですが、その本場は山西省。山西人のプライドにかけて、刀削麺のおいしさだけは譲れません。

「特に小麦粉にはこだわっていて、日本人が好きな、もっちりしてコシのある麺になるよう、ブレンドされたものを使っています。中国人が食べに来ると、こんないい小麦粉、自分も中国に持って帰りたいと言われます」。

そして、「山西省出身の人が来た場合、忙しくなければ、太麺、細麺の希望を聞いてから出しています」と秀珍さん。

なぜなら「山西亭」の刀削麺は、山西省の中でも“ここに勝るものはない”といわれる、山西省北部の都市・大同のスタイル。大同の刀削麺とは、削り面の端部はくっきりシャープで薄め、その型は柳の葉の如し。中は程よい厚みで口当たりなめらか、噛めばしっかりとコシがあり、香り豊かと言われているもの。同じ山西省でも地域性があるため、同郷のお客さんを気遣います。

麺のふるさと・山西省の多彩な麺料理はここだけの味!

とはいえ、刀削麺だけではウリが弱い。そこで、かつて山西大学で営んでいた食堂で人気だった「不烂子(ブランズ)」や、ご主人が19歳のとき、同じく料理人だったお母さまから学び、毎日練習を重ねて習得した「莜麺栲栳栳(ヨウミィェンカオラオラオ)」など、まず日本の他店では見ることのできない麺料理も「山西亭」の看板料理に。

発音に舌を噛みそうな「莜麺栲栳栳」は、燕麦を練った素朴な香りと味わいがくせになる蒸し麺。「日本のそば粉などでも作ってみましたが、あの粉じゃないと絶対に指に巻けない」のだとか。

山西亭が日本にもたらした!といっても過言ではないハダカエンバクの蒸し麺、莜麺栲栳栳(ヨウミェンカオラオラオ)。

また、秀珍さんが妹さんとともに、太原市内で朝餐店(朝ごはんの食堂)を営み、油条や老豆腐などを作っていたこともある経験から、猫の耳のような形の麺、猫耳朵(マオァードゥォ)を大量に仕込むときは、秀珍さんも料理を担当。その仕事はサービスだけに留まりません。

ショートパスタのような猫耳朵(マオァードゥォ)。

こうして店の営業日は麺づくしの日々ですが、なんと秀珍さんの休日の食事も麺なのだそう。実はそこに「山西亭」の開業秘話と、愛あるサービスの理由が…!

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