欧米のレストランでサービスに開眼。
調理場からホールへ…!

大学を卒業してすぐ店を継ぎ、20代半ばで店を「水新菜館」にリニューアルした寺田さん。それから30歳過ぎまでの数年間は、調理とサービスの掛け持ちでした。

「転機は27歳だった当時、カリフォルニアへ旅行に出かけたときのことでした。とあるレストランで食事をして会計を支払って出ようとしたら『何か失礼がございましたか』と呼び止められた。一瞬何のことかわからなかったんですが、恥ずかしいことにチップを置くという文化に慣れていなかったんです。そこで初めて『いいサービスには対価があって当然』ということを体感しましたね」

それまでも調理場から見えるカウンターのお客さまには声はかけていたと言いますが、徐々に意識は経営とサービスへと向いていきます。サービスに専念するため、調理場を仕切ってくれる、チーフシェフも雇います。そして34歳で結婚。その新婚旅行で出かけたフランスの三ツ星レストランでサービスの真髄に触れることになるのです。

衝撃を受けた、パリの『ラセール』と『レスパドン』

「奮発して、当時三ツ星だった『ラセール』に行ったんですが、いやブッ飛びましたね。絢爛豪華で、サービスのレベルがすごい。よく考えたらフレンチって、もともと王侯貴族のための料理やサービスが一体となったもの。レストランにいる限り、すべてのシーンで王侯貴族のような気分に自然とさせてくれる場所だということを体感させてもらいました」

そうしてマスターは、パリのフレンチからたくさんのことを学んでいきます。

「例えばトイレから出ると、ギャルソンがおしぼりを持って待っていて、席まで案内するという程度のことは当たり前。感動的だったのは、パリのホテルリッツに入っている『レスパドン』という星つきのレストラン。男性用の縦に長いトイレの下の部分に、水滴よけのガラスが特別にあつらえてあるんです。『お客さまの靴が汚れないよう、そこまでやるのか』と驚きました」

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サービスは、お客さまとの信頼関係を築くこと。

日本におけるフランス料理は、いつからか皿の上だけで語られるようになってしまった――。そんなことを口にする人も少なくありません。しかし本来、レストランには料理とサービスが両輪のはず。寺田さんは、フランスのレストランに行くたびにそうした初心を思い出すというのです。

「飲食という分野で、日本が世界に遅れをとっていることがあるとすればサービスです。超一流店に行かないときちんとしたサービスが受けられない。サービスとは、お客様との間に信頼関係を築くことですよね。

例えばうちもたいした設備はないけど、トイレにはいつも気を配っています。するときれいに使っていただける。そういうところはうちのような町場の店でもできるサービスのひとつです。実はね。僕がサービスに専念するようになって40年、昼時は列が切れたことがありません。口にするのは恥ずかしいけど、これ、ひそかな自慢なんです」

そう、サービスの神様はトイレにもいるのです。

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