当意即妙な応対は芸の域。
トークの先生はエンターテイナー!

パリの三ツ星フレンチのサービスに感銘を受けたマスターですが、一方で「そりゃあ、うちのような大衆中華料理店とは、”サービス”の実際は違いますよ」と笑います。

たしかに、大衆中華料理店に来店するお客さまの目的は人それぞれ。夜に比べて昼は回転も早く、注文から提供、会計までが嵐のよう。そこで優先すべきは、いかにスムーズに場を取り回すか。

忙しいランチ時でも、グラスの水が減っている客を見つけては「水分補給はいかがでしょうか♪」と自ら水を注ぎ、一番人気の「あんかけ焼そば」にサービスライスをつけるお客さまには「少し残ったあんを、ごはんにかけるのもまたうまいんだ♪」と、裏技をところどころに忍ばせる。そしてお釣りは両手でそっと握手をするように渡します。

あんかけ焼きそば
あんかけ焼ソバ(900円)。ランチで飛ぶように売れる人気メニュー。要望に応えて小サイズ(780円)も用意しています。

怒涛のランチ時にしてこうなのですから、もちろんこれが夜となれば、名調子もさあ全開!「アチチッ。さあ小籠包ですよ。食べ方、お手伝いしましょうか。まずは醤油をちょっとだけ。それにお酢、これをビールに注いで……。あ、違った!ワインの方でしたね……って、もう早く止めてくださいヨ。老眼なんだからどれが小皿かわかんないんですヨ!」

…という軽口であっという間にお客さまと仲良くなっていきます。なんという名人芸!ときに懐に飛び込み、ときに半歩下がる。会話のなかで常に距離感を細かく調整し続けているのがはた目にもわかります。

「特に夜は、常連さんが接待でお客さまをお連れくださることも多いですから、同じグループでも誰にどう接するかは変わりますよね。フレンドリーに接するか、折り目正しく行くか。たしかに経験がモノを言うところはあります。でももともとは僕のサービススタイルって、とあるテレビ番組の影響を結構受けているんですよ」

70年代にこの番組あり!『世界の料理ショー』

実はマスター、1970年代初頭に大人気だった、海外の料理番組の影響を受けているのだとか。40代後半以上の料理好きならご存じ、料理研究家グラハム・カーが司会の『世界の料理ショー』です。顔を見せないスタッフへの「おい、スティーブ!」というツッコミも印象的で、観客一人が舞台上で司会とともにテーブルを囲んで食事をするという、視聴者参加型の料理番組でした。

「料理から食事まで雰囲気が最高に楽しそうでね。おいしいかどうかはわからないけど、そこに映し出されたものがとてもおいしそうに見えた。軽妙なトークで会場からはいつも笑いが聞こえてくる。楽しい雰囲気こそがおいしさにつながります。だからいまも、料理やお酒を提供するときに必ず何か一言”いい情報”をつけますね。どうしても何もないとき? お皿を褒めればいいんです(笑)」

もちろん味は大切です。しかし「料理は何を食べるかよりも、誰と食べるかが大切」という格言にもあるように、皿の上にあるものだけでなく、場の雰囲気も味の大切な要素。そしてその雰囲気を演出できるのは、サービスしかいないのです。


TEXT 松浦達也
PHOTO 廣田比呂子


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