回鍋肉は自由だ!じゃがいも入り回鍋肉と、あんこともち米入り回鍋肉
「本場の回鍋肉は葉にんにく入り」と言われることがあるが、必ずしもそうではない。詳しくはこちらの記事に譲るとして、北村さんが四川省の修行時代によく食べたというのが、季節の野菜や穀類を入れた回鍋肉だ。
「僕が修行させてもらった『芙蓉凰花园酒樓』では、揚げた饅頭(マントウ:餡が入っていない小麦粉の蒸しパン)を回鍋肉に入れていましたね。『梓楠餐厅』では、四川の丸い甜椒と泡子姜(発酵唐辛子と発酵生姜)を使っていました。店の賄いはもっぱら人参の回鍋肉か、じゃがいもの回鍋肉でしたよ」
また、そもそも店と家庭では、調味料の数が違うという。「家の回鍋肉はザ・豆瓣醤味!って感じです。調味料がシンプルです」
そこで成都時代、賄いでよく食べたという土豆回鍋肉(じゃがいもの回鍋肉)を作ってもらった。ただし、じゃがいもは贅沢にシャドークイーン、ノーザンルビー、インカのめざめの3種類入り。
まずはじゃがいもと紫玉ねぎを素揚げし、火が通ったらザーレン(穴あきの巨大なお玉)などに取り出しておく。ピーマンや伏見唐辛子を加えて回鍋肉を作るときも、同じ要領で油通ししよう。
その後は、前のページで紹介した葉にんにく入り回鍋肉とほぼ同じプロセスをたどる。違いは香辛料・調味料・じゃがいもと玉ねぎの有無だ。
まずは鍋に油を入れ、薄切りにした肉を弱火で煎り焼く。そこに花椒を数粒入れて香りが出たら、豆瓣醤、豆豉、甜麺醤、叩き潰して刻んだにんにくを同時に入れて、油で炒めるようにしながら肉に絡ませていく。ここでは花椒は入れるが、醪糟(酒醸)は入れない。
肉と調味料が絡んだら、揚げたじゃがいもと紫玉ねぎを加えて、鍋を大きく煽る。
葉にんにくは細かく刻んで鍋へ。
醤油は加えず、最後に砂糖少々を加えてひと煽りしたらできあがりだ。
食べて驚いた。こちらは葉にんにくの回鍋肉より、ずっと豆豉の風味が立っている。そう感想を伝えると「調味料の数が少ないので、粒で入れた豆豉の香りも引き立つのではないでしょうか」と北村さん。また、芋が入ると、ぐっと家庭的な味わいが出てくるようだ。
おはぎ×回鍋肉!? 伝統料理の掛け合わせで生まれた「回鍋甜焼白」
さらに『雲蓉』では、もち米とあんこを使った甘い回鍋肉「回鍋甜焼白(ほいこーティエンシャオバイ)」も出している。
料理名になっている「甜焼白(ティェンシャオバイ)」とは、もち米、こしあん、とろとろの豚ばら肉を合わせて蒸した四川料理。端的にいうと、おはぎと豚ばら肉を合わせたような甘じょっぱい料理なのだが、甘いからといってデザートではない。
「四川省ではもともと甜焼白は結婚式のお祝いの料理だったんですよ。僕にとっては農村地帯の披露宴で出されるイメージですね。辛い料理と辛い料理の間にこの甘い料理が出ると、箸が進むんです」
これまた店のイチ推しということで、作ってもらった。
調理は甜焼白をお玉でしっかり潰しながら鍋で焼いていき、中の豚バラ肉をしっかりと肉と小豆餡に混ぜ込んで一体化させていく。
炒飯のように煽るが、もち米とあんこを叩いて一体感がでているので、パラパラではなくもっちり。
盛り付けると、泥(ペースト)の一歩手前のような、食材の質感を残した温かいデザートのような雰囲気になる。
「このメニューは、僕が修行した、成都の『芙蓉凰花园酒樓』と『飄香』の井桁シェフが修行した『松云泽(松雲澤)』で働いていた人が出せる料理です。恐らく日本で食べるなら、どちらかの店でしか出ないんじゃないでしょうか」
口にすれば、ラードの脂と肉のうまみがもち米に小豆餡にしっかりと染み込み、もっちりと甘じょっぱく、滑らかな味わい。どこからどう見ても回鍋肉感はないが、これもまた紛れもない回鍋肉のひとつなのだ。
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今回ご紹介した3つの回鍋肉は、それぞれ異なる材料・風味を持ちながらも、いずれも“一度加熱した肉を再び鍋に戻して調理する”という、回鍋肉の大原則に則った料理だった。
それにしても、回鍋肉は四川人にとってどういう存在なのだろう。北村さんは「四川そのもの」だという。「麻婆豆腐より圧倒的に人気があってメジャーなのは回鍋肉ですから」。そんな回鍋肉、ぜひ北村レシピで作ってみてください。満足感はピカ一です!
取材協力:中國菜 四川 雲蓉(Facebook)
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-1(MAP)
TEL 0422-27-5988
※営業日と営業時間は店のSNSアカウント等でご確認ください。
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TEXT サトタカ(佐藤貴子)
PHOTO:キッチンミノル