食べれば血沸き肉躍る!THE BEST OF 干鍋・醋血鴨(醋血鸭/ブラッディーダック)

巨大な鉄鍋で豪快に供される醋血鴨。

中国には、干鍋と呼ばれる鉄鍋料理がある。底が浅い鉄鍋に汁気の少ない料理を盛り、卓上コンロに乗せて供する。料理を熱々のまま保つのが第一の目的だが、途中で青菜などの具を足して炒めながら食べることもできる。ひと言で言うなら、汁なし鍋である。

今や中国各地で人気を博しているスタイルであるが、桂林においても独自の干鍋文化が花開いている。かつて桂林を旅したとき、桂林出身の同僚がくれたアドバイスも「干鍋がオススメです。どれを食べても美味しいですよ」であった。

桂林の干鍋は、食材や味付けが実に多彩だ。燜鶏(鶏煮込み鍋)、啤酒鴨(アヒルのビール煮込み)、板栗鴨(栗とアヒルの煮込み鍋)などは王道の美味しさ。味付けは主に醤油ベースで、葱・生姜・大蒜・花椒・唐辛子(生、干し、漬物など各種)・酸筍(タケノコの漬物)・八角・桂皮など様々な薬味・香辛料を組み合わせて用いる。変わったところでは、田螺鶏(タニシと鶏の鍋)、魚頭鍋(巨大な川魚の頭の鍋)、兎肉鍋(ウサギ鍋)、狗肉鍋(犬鍋)、馬肉鍋(馬鍋)なんてものもあった。

ビールを呼ぶ啤酒鴨(アヒルのビール煮込み)。
湯気が立ち昇る黄燜鶏(鶏煮込み鍋)。
狗肉鍋もありますよ。

その中でも最も僕の心を打ったのが、醋血鴨(ツゥシュエヤー)だ。桂林市全州県の名物料理で、活きたアヒルを一羽丸ごと使って作る豪快かつ贅沢な料理である。一羽丸ごとという表現には、いささかの誇張もない。肉やモツや頭や水かきはもちろん、料理名に含まれる「血」の文字の通り、さばくときに噴き出る血すらも一滴残さず用いるのだ。

中国でアヒルの血と言えば、塩水を加えて豆腐状に固めた鴨血が最もポピュラーな食べ方だ。火鍋の具として食べたことがある人も多いと思う。しかし、この醋血鴨は、アヒルの血をソースに仕立てて料理全体を味付けしてしまおうというのだから、また一段と豪気である。

醋血鴨の場合、アヒルの血には塩水ではなく、「醋(酢)」を加える。但し、この酢はいわゆる普通の醸造酢ではない。大根、唐辛子、タケノコ、ササゲといった野菜を大甕で漬け込んだ際にできる漬け汁(酸水、酸壇子水などという)のことを指す

この漬け汁を加えると、血が凝固せず、液体のまま保たれる。普通の醸造酢でも同じ効果は得られるが、酸味が控えめな漬け汁を使うことで、まろやかな香りと味わいのソースが生まれるのだそうだ。

ここまでで既に引き気味の人もいそうだが、最後までお付き合い願いたい。なにもゲテモノ趣味でこの料理を選んだわけではない。べらぼうに旨いからこそ、選んだのだ。

作り方は色々あるが、骨ごとぶつ切りにしたアヒルを生姜などの薬味とともにじっくりと炒め、火が通ったら生唐辛子や他の具を炒め合わせて塩で調味し、最後に血のソースを混ぜ合わせる…というのが基本的な流れのようだ。ソースが全体によく馴染み、加熱されることでまろやかな香りが立ってきたら、できあがり。

醋血鴨の専門店では、このまろやかな香りが店内に充満していた。信じられないかもしれないが、これが実に扇情的で、席に着く前から笑顔になってしまうような香りなのだ。ビールをあおりながら待つことしばし、いよいよ運ばれてきた醋血鴨は目の前でじゅわじゅわと音を立て、迫力満点だ。なるほど、血のソースが全体によく馴染んでいる。

もわもわと湯気を立てる醋血鴨。香りをかいだら、もう我慢できない!

いざ食べてみて、びっくり。期待を遥かに上回る美味だったのだ。凄惨な見た目とは裏腹に、まろやかな酸味に味噌にも似たコクが合わさった味わいは、むしろ上品と表現したくなるほどだ。血まみれになったアヒルの肉が、とても旨い。鶏肉よりも味が濃いアヒル肉は、ソースのコクに負けず、旨味の相乗効果を生んでいた。

ねっとりとソースがからんだアヒル肉。旨し。

醋血鴨は、基本のアヒル肉に加えて「その他の具(桂林では燙菜と呼ぶ)」を注文することができる。青菜や豆腐のように自分の好きなタイミングで鍋に加えて食べるものもあるが、その多くはあらかじめアヒル肉と共に調理されて供される。

必ず頼むべきものは、アヒルのモツだ。鴨腸(アヒルの腸)鴨雑(砂肝・心臓・レバー)は、それぞれに豊かな弾力と旨味を持ち、肉以上に血のソースとの相性が良かった。モツがあると、肉だけより旨味の幅が断然広がる。これを見て醋血鴨を食べに行く人は、絶対に注文するようにしてほしい。

このほかに、決して欠かすことができないのが苦瓜だ。煮込まれてトロトロになった苦瓜は、強烈な苦味の中にほのかな甘味があり、妙にクセになる。桂林名物の芋苗(タロイモの茎)も忘れてはいけない。白い帯のような見た目で、外側はシナチクのような食感。それでいて茎の中にはぷちゅっとした甘味があり、不思議な美味しさだった。同じく桂林名物の魔芋(こんにゃく)も人気の具のようだったが、さすがに食べ切れないと判断してあきらめた。

アヒルの肉、モツ、苦瓜など。多彩な味が楽しめる。

こうして色々な具が加わって山盛りとなった鉄鍋であるが、興奮極まった僕らの敵ではない。徐々に黒い地肌が広がり、更地と化していった。最後には半分にかち割られたアヒルの頭の脳みそや舌まで食べ尽くし、堂々の完食と相成ったのだった。

この醋血鴨、本場の本場である全州県では極ありふれた家庭料理で、全州人ならばこの料理を作れぬ者はいないと言われるほどだそうだ。活きたアヒルが気軽に買えて、漬物の入った大甕が家に常備されている環境だからこそ作れる料理であって、年々無味乾燥になっていく大都会・上海に住んでいる僕としては、うらやむしかない。

桂林に美味しい干鍋はたくさんあれど、僕の中では醋血鴨が文句なしのベストだ。それでも「血は勘弁」という人もいそうなので、料理名の和訳をブラッディーダックにしてみた。横文字にすればちょっとは抵抗感が減るかなあと思ったのだが、どうでしょう?(笑)

ホント、騙されたと思って食べてみてくださいな!

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