食べずに去れるか!箸が止まらぬ海南粉(海南粉/ハイナンフェン/海南式 冷やし和えライスヌードル)

南の島らしく、色鮮やかな海南粉(ハイナンフェン)。

料理名を見て、「海南の粉ってなに?」と思われた方もおられよう。この「粉」は米粉(ミーフェン/ライスヌードル)のことで、海南島ならではの米粉という意味だ。中国の長江以南において、米粉は非常に一般的な食材で、地域ごとに様々な食べ方がある。ここ海南島にも独自のものがいくつもあり、最もメジャーなのが海南粉(ハイナンフェン)なのだ。

ひと言でいうなら、冷やし和えライスヌードルだ。常温まで冷ました茹でおきの米粉に、様々な具をのせ、よくかき混ぜてから食べる。

具は、実に多彩だ。青葱、香菜、豆もやし、揚げピーナッツ、細切りの豚肉や裂いた牛肉干(ビーフジャーキー)、脆角(揚げた雲呑の皮のようなもの)、酸菜(青菜の漬物)、酸筍(タケノコの漬物)、小螺肉(巻貝の剥き身)など、店によって組み合わせは異なるが、とにかくたくさんの具がのっている。

店によって、トッピングは変わる。その違いを味わうのも、楽しさのひとつ。

絶対に欠かせないのは、荒く擂ったゴマだ。海南島はゴマの一大産地でもあり、碗から立ち昇る豊かなゴマの香りこそが、海南粉の肝である。また、海南島産の唐辛子で作った辣椒醤(発酵唐辛子ペースト)も重要。とても辛いが、爽やかな香りと発酵のコクがあり、全体を複雑で刺激的な味わいにしてくれる。

ゴマがたっぷりかかっていると、嬉しくなる。 辣椒醤は、卓上の瓶から好きな量を入れよう。

これらの具と米粉を結び付けるのが、鹵汁(ルージー)と呼ばれるタレだ。製法は店ごとに異なるが、肉や骨や魚介を出汁としたスープに様々な香辛料と醤油を入れて煮詰め、とろみをつけたものだそうだ。全体をよく混ぜると、具の下に潜んでいた鹵汁が米粉にからみ、何とも旨そうな色に染まる。

混ぜれば混ぜるほど美味しくなるのが、この種の食べ物のお約束。いただきます。

肝心の味は、何のひねりもない表現で恐縮だが、むちゃむちゃ旨い。

ゴマの香りに誘われるようにして米粉を頬張ると、具とタレの香りが混じり合って鼻から抜け、思わず陶然となる。歯を噛み合わせれば、今度はそれぞれの具の食感が賑やかに踊りだす。シャキッとした豆もやし、シャクッとした酸筍、パリパリの脆角、カリカリの揚げピーナッツ。挙げればキリがないが、口の中はさながら食感の展示会場と化していく。

展示会場と言うなら、味だってそうだ。噛むごとに異なる具の味わいが姿を現し、タレのとろみと旨味に乗って、互いに溶け合っていく。これぞ「和え麺」の醍醐味だ。旨味の洪水の中で、酸菜や酸筍の酸味が良いアクセントになり、辣椒醤の刺激が全体を引き締める。

海南粉に使われる米粉は細粉(細い米粉)と粗粉(太い米粉)の二種類あるそうだが、主流は細粉のようだ。日本のひやむぎと同じくらいの太さで、他地域の米粉に比べると細め。それ自体の主張は弱いのだが、これはこれで、個性の強い具たちに主役を譲って静かに脇を固める名優のおもむきがある。

タレをまとってぬらぬらと輝く細粉(細い米粉)。そそる。

ひと口ひと口が楽しくて、一度動かし始めた箸はもう止まらない。熱くもなく冷たくもない温度も、一気に食べるにはちょうどいい。鮮烈かつ千変万化の味わいに、毎回あっという間に碗が空になってしまう。

〆は、スープだ。海南粉の専門店には、大抵スープが入った薬缶や容器が置いてある。それを空になった碗に注ぎ、碗の内側にへばりついた具と一緒に飲み干すのがお決まりである。このスープはほとんど味がないくらいのあっさり味だが、具の味が混ざると、いい塩梅になるのだ。

〆のスープ。和え麺を食べ終える前にスープを足して、汁麺風にする手もある。

蕎麦の最後に蕎麦湯を飲むのと同じような気分で、ゆっくりスープをすすって、ごちそうさま。心は満足感で満たされる。

この海南粉、全国的な知名度は高いとは言えないが、海南島では「これを食べねば海南島に来たとは言えない」と言われるほどメジャーな存在だ。一度食べれば、その魅力の虜になること請け合い。僕なんて、毎回海南出張が決まるたびに、海南粉のことを思い出して、よだれを垂らしている。

≫次回予告:陝西省西安市で食べるべき料理3選(12月20日更新予定)