ちぎってちぎって、ちぎった末にスープを吸って生まれるもちもちの食感!泡饃(パオモー/泡馍/モーのスープ煮)

羊肉泡饃(ヤンロウパオモー)。バイモーの苦労が報われるときがやってきた!

前章で触れた通り、(パオモー)は、手で細かくちぎった饃を熱々のスープに入れて食べる小吃だ。数ある泡饃料理の中でも最も知名度が高いのが、羊肉泡(ヤンロウパオモー)である。

羊の骨・肉・脂を出汁として、花椒・小茴香・桂皮・草果・八角などの香料と共に8時間ほどかけて煮込んだスープは、濃厚かつ香り高い。味付けは塩だけという潔さが、スープの風味を引き立てている。

具は、羊肉を中心として、春雨や大蒜の葉など。程よく脂身がついた羊肉は分厚くてもトロトロと柔らかく、脂までもが甘い。スープを吸ってもまだシコシコしている春雨も、いい仕事をしている。

苦労してちぎった饃も、驚きの旨さだ。饃のひとつひとつが芯までスープを吸い込んでいる。それでいてモチモチした食感があって、小麦の香りと味わいをしっかり感じられる。元々がカチコチだからこそ、細かくちぎっても食感が失われない。逆に言えば、細かくちぎらないと、スープが染み込まない。自分自身の仕事の細かさが、味に直結するのだ。バイモーを頑張れば頑張った分だけ見返りがある。それが、泡饃だ。

とろける肉。濃厚なスープを吸った春雨と饃(モー)。旨い。

尚、長い時間をかけて饃をちぎり終えても、すぐに泡饃にありつけるわけではない。なんと、ちぎった饃は一旦厨房に引き渡すのだ。

厨房では小鍋で煮立てた熱々のスープを饃が入った碗に注ぎ入れ、スープだけを小鍋に戻して再び碗に注ぎ入れるという作業を何度も繰り返す。そうすることで、硬い饃にスープが馴染んでいくのである。

泡饃の「泡」とは「つける、ひたす」という意味だが、このように実際の作り方は「煮る」に近い。饃をちぎり始めてから泡饃を食べ始めるまで、早くても20~30分はかかる。一見、ファストフードのように見えて、その実、すこぶるスローフードなのだ。

そして、羊肉泡饃と並ぶ「泡饃」界の代表選手が、牛肉(ニウロウパオモー)だ。材料が羊から牛に変わるだけではあるが、肉の香りと味わいが変われば、全くの別物になる。いずれも甲乙付けがたい美味だったので、胃袋に無理をさせてでも、両方試すのが正解だろう。

牛肉泡饃(ニウロウパオモー)。こちらも旨い!

両者に知名度は劣るが、僕が大いに気に入ったのが小炒泡(シャオチャオパオモー)だ。小炒は「五目炒め」といった意味で、具はさいの目切りの牛肉、トマト、卵、葱、青菜、湯葉、押し豆腐、春雨、木耳、ヒラタケ、黄花菜(干したホンカンゾウ)と、とにかく豊富。これらが陝西省ならではの油潑辣子(ラー油)と黒酢で炒められ、実にそそる酸辣(スゥァンアラー)味になっていた。

小炒泡饃(シャオチャオパオモー)は、豊富な具が嬉しい。泡饃界の「完全食」だ。

これまで紹介した3つの泡饃は、回族(イスラム教徒)の小吃とされている。しかし、泡饃は回族だけの専売特許ではない。豚を使った漢族の泡饃もあって、葫蘆頭(フールートウ)はその代表格だ。

具は豚のダイチョウを主役として、春雨、葱、香菜が脇を固める。豚肉や鶏肉も入った豪華版もある。むっちょりとして旨味たっぷりのダイチョウにはご馳走感があって、モツ好きにはオススメの一品だ。

モツ好きにはこれ!葫蘆頭(フールートウ)。

さて、前章で「西安人はスープの種類によって饃を使い分ける」と書いたのをご記憶だろうか。その一例として、無発酵生地で作るカチカチの饃ではなく、半発酵生地の柔らかい饃を使う泡饃の“仲間”も紹介しておきたい。

その名は、胡辣湯(フーラータン)。とろみのついたスープには胡椒と油潑辣子の香りと辛味が効いていて、牛肉の肉丸(肉団子)のほか、ニンジン、キャベツ、ジャガイモ、カリフラワー、ペポカボチャがゴロゴロ入っている。

野菜たっぷりの胡辣湯(フーラータン)。とろみと辛さで、身体が芯から温まる。

この料理の場合、事前のバイモーは必要ない。スープの碗と共に渡される饃をその場で適当にちぎり、スープに浸しながら食べる。柔らかい饃は、多少大きくちぎってもスープに馴染む。また、スープにとろみがついているので、饃にからみやすい。柔らかい饃と胡辣湯がセットになっている理由が、食べているうちに自然と腑に落ちるはずだ。

大きくちぎった饃を浸しながら食べる。

なお、一般的に泡饃の専門店は、毎日夜中からスープを煮込み始め、客はできたてのスープを求めて早朝の開店時間に合わせて集まってくる。午前中には売り切れ仕舞いになる店も多いので、行くなら朝だ。冬の西安の朝は痺れるように寒いが、ご心配なく。熱々の泡饃が、身も心も温めてくれることだろう。

今回はひとつの都市から3つの料理を選ぶという原則に反してあれこれ紹介してみたが、そうせざるを得なかったほど泡饃の世界は奥深い。皆さんも現地に飛んで、その一端に触れてみて欲しい。

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