じゅるりとピリ辛!青島人のソウルフード・辣炒蛤蜊(辣炒蛤蜊/アサリの辛味炒め)
「青島に来たら、まずは蛤蜊を食べないと!」
青島人に青島のオススメ料理を尋ねたら、百人が百人言うであろう言葉だ。蛤蜊とは、アサリのこと。「なーんだ、アサリか」などと言うことなかれ。アサリは青島人のソウルフードである。我々日本人だってアサリを食べるが、彼らがアサリに対して抱く思い入れの深さは、僕らの想像を超えている。
かつて知人の青島人は言ったものだ。「とにかく青島人はアサリがないと落ち着かないんだ。一年中いつでも食べるし、旬の春ともなれば、毎食のように食べる(筆者註:毎日ではなく毎食であることに注目)。海外出張に行くときは、アサリを冷凍して持っていく奴もいるくらいさ。どこに行っても、茹でるだけで食べられるだろ?」…こんな具合である。
それほどまでに愛するアサリをどのように食べるのかといえば、誰に聞いても真っ先に名が挙がるのが辣炒蛤蜊だ。アサリの辛味炒めである。中華鍋に油を熱し、干し唐辛子と葱・生姜・大蒜を入れて香りを出す。そこに砂抜きしたアサリをどさっと投じて炒め合わせ、少量の醤油・酒・砂糖あたりで味付けすれば、できあがりだ。
単純極まりない料理ではある。だが、まずはその量に驚かされる。どの店で食べても、大抵は山のように盛られて出てくる。以前ひとりで青島へ出張したとき、ヒマつぶしに殻の数を数えてみたら(本当にヒマですね)、なんと150個以上あった。あなたは一度に150個のアサリを食べたことがあるだろうか。ないと思うが、青島ではこれが基本の量だ。
しかも、安い。日本ではアサリも結構なお値段になってしまったけれど、青島では二束三文とでもいうべき値段で、レストランで山盛りのアサリを食べても数百円もしない。「なるほど、これなら毎日でも食べられるな、うわははは」と、笑いが止まらなくなってしまう。
さあ、食べよう。ぶわんぶわんと湯気を立てるアサリの山を、頂上からガサリと崩していく。お馴染みの二枚貝の中にはぷっくりと太った身が鎮座していて、これが汁気と油と醤油が混じり合ったタレをまとい、てらてらと輝いている。そのタレごと、じゅるりと殻をすする。
旨い。そのまま二つ目、三つ目に手を伸ばし、次々にすする。口の中のアサリが増えていくにつれて、葱・生姜・大蒜といった薬味の香りが鼻を抜けていく。その香りとともに、ムッチリとした身の食感を楽しむ。そのままでも十分な塩気と旨味が備わったアサリの身に醤油や油の香ばしさが加わって、豊かな味わいが口の中で渦巻いていく。さすがはアサリを愛する土地柄だけあって、砂抜きも完璧だ。
目尻を下げながら旨い旨いと食べ続けていると、やがて、じんわりとした辛味が広がってくる。それほど激しさはないが、絶妙に食欲を刺激する塩梅だ。そうなのだ。これまでだって旨かったが、このピリリとした辛味が口の中に広がると、辣炒蛤蜊はもう一段旨くなるのだ。なんだこれは。この旨さには、何かが必要なのではないか。そうだ、ビールだ。よく冷えたビールだ!
そこで、傍らにある青島ビールの生をぐいっとあおる。たまらん、これぞマリアージュだ。辣炒蛤蜊には生の青島ビール以外、考えられない。わはははは、それ以外の飲み物は全て偽装結婚だ!こうなるともう止まらない。右手にジョッキ、左手にはアサリの体制で、決められた動きをインプットされたロボットのように、アサリをガツガツガツッと放り込み、ビールをぐいー!っとあおる動作を繰り返すことになる。
狂乱の一時を経て、すっかり殻ばかりになった皿を見たとき、自然と理解が及ぶ。この料理は、量も味のうちだと。山盛りのアサリを大量のビールで流し込むからこそ得られる満足感が、確かにある。その満足感に身をゆだね、ふくらんだ腹をさする。
たかがアサリ、されどアサリ。食べる者の心をこれほどに捉えて離さぬアサリ料理もなかなかないだろう。あと数ヶ月経てば、青島のアサリは旬を迎える。つまり、辣炒蛤蜊と青島ビールの結婚には最良の時期となるわけだ。青島ならではのマリアージュを堪能するならば、この機を逃す手はないですぞ!