一口大の肉塊にうまみが凝縮!中国全国区のごはんの友・紅焼肉(ホンシャオロウ)の作り方
もうひとつの豚の角煮、紅焼肉(红烧肉|ホンシャオロウ|hóngshāoròu)は、中国各地で見られる豚ばら肉の煮込み料理です。広義には、紅焼肉という大きなカテゴリの中に、東坡肉があるといえるかもしれません。
両者の大きな違いは、前編で触れたとおり、東坡肉は肉を焼かずに味を入れて煮込み、紅焼肉は味を入れて煮る前に肉を焼くこと。中国各地、各家庭で作り方は異なりますが、ここでは僕の住んでいる江南地方の紅焼肉の作り方をご紹介しましょう。
プロセスは、①肉を下ゆでする→②カットした肉を焼く→③調味料などを入れて煮込む→④照りをつける、の4ステップです。
<紅焼肉のレシピ>※江南地方の作り方
皮付き豚ばら肉 2kg
●肉の下ゆでのための材料
・小葱 8本くらいを結んで使用
・生姜 1塊をスライス
・紹興酒 少々
●煮込み調味のための材料
生抽 100cc(ここでは海天醤油「金標生抽」を使用)
老抽 30cc(ここでは海天醤油「老抽王」を使用)
紹興酒 500cc(「古越龍山」陳年5年を使用)
氷砂糖 半掴み
小葱 8本くらいを結んで使用
生姜 1塊をスライス
八角 2個
肉桂 1片
月桂樹 2枚
①皮つき豚ばら肉を切らずに1時間ほど下ゆでする。
東坡肉と同じく、紅焼肉も小葱、生姜、紹興酒を少々加え、最初に肉を下ゆでします。先に火を通しておくことで、味の入り方や煮込み時間が変わります。家庭ではこのプロセスを省略することも。

②ゆでた肉を角切りにし、鍋で表面をきつね色に焼く。
紅焼肉は東坡肉よりひと塊が小さく、箸でつまんで食べられるくらいの大きさ。3cm角に切ったら、鍋で表面をきつね色に焼きます。焼くと豚ばら肉からラードが出るので、鍋の中は揚げ焼きのような状態になりますね。取り出す頃には肉が少し軽くなります。



②表面を焼いた豚ばら肉に、香味野菜、香辛料、調味料などを加えて煮る。
豚ばら肉が焼けたらいよいよ煮込みです。焼いた肉、葱、生姜、八角、肉桂(シナモン)、月桂樹(ローリエ)を鍋に入れ、紹興酒を注ぎます。
東坡肉と異なり、こちらは香辛料も加わります。ちなみに上海近郊で「葱」といったら小ねぎ、万能ねぎのこと。長ねぎは「京葱」と呼ばれて区別されています。

葱の思い出といえば、20年くらい前のことでしょうか。料理本を見ていたら、材料に葱結と書いてあって、なんのことかわからなかったんですよね。のちに上海の厨房でこれを見て、一瞬で腑に落ちました。「ああ、これは結んだ葱そのまんまなんだ!」と。
江南の煮込み料理にはこの葱結が欠かせません。もし「紅焼肉を作って」と言われてこの葱がなければ、僕は必ず買いに行きます。長葱は絶対に使いません。もし違う葱を使ったら、煮ている時間が長いだけに、悔いが残るじゃないですか。
そんな葱結を入れて、煮込む時間は弱火から中火で1時間半ほど。肉が被る程度に水分が必要なので、紹興酒で足りない部分は水で補ってくださいね。

煮込み方は、あまり弱火すぎても、長時間すぎてもいけません。1時間ほど煮たら、氷砂糖は最後の30分くらいで加えます。

鍋の中の肉が、程よい弾力とともに、箸などでホロッと崩れるくらいまで煮込まれたら、最後は中火から強火でたれに照りがでるまで煮詰めます。きれいな照りが出てきたら鍋から取り出しましょう。

③紅焼肉をさらにレストランクオリティにするために、極々薄い水溶き片栗粉で照りをつける。
ここでそのままお皿に盛り、食卓に出しても問題ありません。しかしプロはさらにもう一仕事。煮汁を漉して鍋に戻し、極めてゆるい水溶き片栗粉を加えたソースをつくるのです。
片栗粉=とろみづけと思われるかもしれませんが、片栗粉の役割はそれだけではありません。ほんの少量使うことで、まるで薄化粧をしたかのように、料理の艶が増します。これを厨房の専門用語で盗芡(水溶き片栗粉を使っていないかのような仕上がり)といいます。

紅焼肉の煮汁には、砂糖や豚のコラーゲンなどが溶けているので、ある程度の濃度がついています。そこに強いとろみをつけては野暮ったい。いかにもやりました!というのは下手なのです。これは見る人が見たらわかる技です。
個人的な感想ではありますが、日本で紅焼肉を食べて残念だと思うのは、肉の照りのための片栗粉なのに、餡のようになっている店が多いことです。醤油やオイスターソースなどの調味料でおいしくした汁にとろみをつけるのではなく、肝心なのは、しっかり煮切って詰まったことで、煮汁にうまみが凝縮されていることなのです。
瑞々しい肉の繊維と、ホロリと崩れる食感と、もっちりとした弾力と。
煮上がった紅焼肉の理想的な食感は、前編にもある通り、酥而不烂(酥而不爛|スーアルブーラン|sūérbùlàn)。日本語でいうなら、肉の繊維の中に水分が含まれていてホロッと崩れて、歯切れがよい感じといいましょうか。
酥而不烂の酥(スー|sū)とはクッキーやパイなどがサクサクしている状態にもよく使われる言葉ですが、肉を煮込んだ後の食感にも使われます。中国語では、この長い説明が酥の一文字で端的に表現されるのですからすごいものです。
さらにいうと、肉を煮た後の食感は、酥に加えて軟糯(ルァンヌゥオ|ruǎnnuò)と表現される軟らかくもっちりと張りがある状態も大切です。煮込み過ぎてパサパサになっていては、角煮としてのおいしさは損なわれてしまいます。
ちなみに店の仕込みでは、完成の二歩手前くらいで火を止め、煮汁と肉を一皿分ずつ袋に入れて小分けにしておき、提供する前に煮切ってお出ししています。家でつくる場合は最後まで煮切ってくださいね。
豚の角煮と相性抜群!葱油芋儿(里芋の葱油炒め)と清炒青菜(青菜炒め)
最後に、東坡肉や紅焼肉におかずを合わせるとしたら、みなさんは何を合わせたいですか?
僕は定番の組み合わせがあるんです。それは、里芋を葱油で炒めた葱油芋儿(里芋の葱油炒め)と、清炒青菜(青菜炒め)。それぞれ単独で食べてもおいしいですが、東坡肉や紅焼肉の煮汁が絡んだ里芋や青菜のおいしさたるや…!!
天台山エリアだと、夏から秋にかけての青菜は地瓜叶(サツマイモの葉)、莧菜(ひゆ菜)、通菜(空芯菜)、冬場は芥菜(からし菜)などが出まわります。特にサツマイモの葉は、昔は豚しか食べなかったけれど、今は人間が喜んで食べるようになったものですね(笑)。


今回は東坡肉と紅焼肉をご紹介しましたが、豚ばら肉の塊を軟らかく煮た料理は他にいくつもあります。
例えば扣肉(コウロウ)。豚ばら肉をドーム状に整え、中に梅菜や干菜と呼ばれる干し野菜を入れて調理した肉料理を中国ではよく見ます。この料理もまた、東坡肉や紅焼肉同様に、ごはん泥棒であり酒泥棒。こちらもぜひ、機会があれば味わってみてください。
▶前編を読む:中国二大「豚の角煮」の違いに迫る!東坡肉(トンポーロウ)と紅焼肉(ホンシャオロウ)|山口祐介の江南食巡り④
語り・写真:山口祐介
聞き手:サトタカ(佐藤貴子)








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