大切なのは伝統か?継承か?担い手不足と甕醸造の現実

最初に見学したラボと倉庫から車で10分ほど離れた場所に、もうひとつの原酒倉庫がありました。そこで「この甕はどうやって積み上げるのですか?と質問をしたときのこと。缪(ミャオ)さんのお父さんが「こうやるんだよ」と実際に目の前でやってみせてくれたのです。

甕は1つで約24リットル入り、総重量は約50キロ。これを人の手によって4段に積み上げます。上の方になると自分の身長と同じぐらいか高い位置に持ち上げなければなりません。これを毎年、何回も何回も繰り返し行うのです。大変な作業であることは想像に難くありません。

もちろん、これはあくまで熟成時の作業。甕醸造の大変さは他にもあります。

例えば、黄酒はひとつの甕で仕込める容量が限られています。大量に仕込む場合、その分たくさん甕を使用なければなりません。ひとつひとつの甕ごとに、原料を混ぜ合わせたり発酵状態を管理するのは、想像を絶する重労働です。

それでも甕醸造にこだわるのは「甕でこそ黄酒本来の味が生み出せる」という信念があるからこそ。紹興酒を中心とした大手酒蔵の中では近代化が進み、タンクを使用するなど設備の充実が進んできていますが、中小酒蔵は、より手間のかかる甕で醸造しているところがほとんどです。

そこで問題になっているのが後継者問題です。やはり、これだけの重労働に対して「やってみたい!」と飛び込んでくる若者は多くありません。黄酒業界では「若い造り手がいない」という悩みの声をよく耳にします。

缪(ミャオ)さんのお父さん(社長)が蔵の中を案内してくださいました。

伝統製法での酒造りは、消費者にとっても魅力的に映ります。しかし私自身、この過酷さに触れるたび、「後世に末長く継承していくためには近代的な酒造りへの移行はやむを得ないのかもしれない」とも感じます。

日本酒もかつては甕で醸造していた時代があったと聞きますが、今はほぼ皆無。伝統の製法を踏襲するか、それとも蔵の継承か。両立できればベストですが、優先すべきはどちらなのか、考えさせられるひとときでもありました。

暗がりの倉庫にひっそりと眠る黄酒の原酒たち。

時間が止まっているような静寂の中、甕の中で眠る原酒たちは着実に熟成を進めていきます。改めて黄酒の奥深さを目の当たりにし、心が震えました。

最後に、自家醸造の黄酒を試飲させていただだいたのですが、その風味は…?次のページでご紹介します。

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