糖分量のコントロールが黄酒独特の味わいを広げる

「雲集信記」で作られている黄酒には、もう一つユニークな点があります。それは糖分含有量を明確に導き出して、味の調整を行っている点です。

そもそも黄酒は糖分含有量によって4つのタイプに分類ができます。

最もドライなタイプを「干型(ガンシン)」セミドライを「半干型(バンガンシン)」、逆に最もスイートタイプを「甜型(ティエンシン)」、セミスイートを「半甜型(バンティエンシン)」。これは、黄酒が甘口か辛口なのかがわわかる指標となるものです。

タイプ 糖分含有量(1リットル中)
干型(ガンシン) 1.0g以上〜15.0g未満
半干型(バンガンシン) 15.0g以上〜40.0g未満
半甜型(バンティエンシン) 40.0g以上〜100.0g未満
甜型(ティエンシン) 100.0g以上

しかし、黄酒のラベルに「干型」「甜型」など各名称が記載されていても、実際にどのぐらいの糖分含有量なのか、明確な数値はわかりません。

一方、「雲集信記」は糖分含有量の目標値を明確にし、その数値をめざして酒造りをしてしています。これは他社でも行っていることかもしれませんが、こうして明確に伝えてくれた酒蔵は初めて。その可能性に心が躍りました。

もちろん、酒の味わいは糖分のみで決まるわけではありません。しかし黄酒の分類の指標となっている糖分含有量をコントロールすることによって、消費者のニーズに合わせたきめ細やかな商品造りが可能となります。

香雪酒は糖分含有量が100g以上と規定されていますが、120gなのか200gなのかで味わいは全く異なります。

ボトラーズタイプは残念ながら試飲できなかったのですが、自家醸造の黄酒を試飲させていただいた中で、記憶に残ったのは「泰」。これは日本に流通する紹興酒のほとんどが属する半干型(1リットルあたりの糖分含有量15.0g以上〜40.0g未満)のセミドライタイプです。

着色のために使われるカラメルは不使用で、色味は透明感のある黄金色。一般的な紹興酒というと独特な酸味が印象的ですが、「泰」は酸味に尖りがなく、丸みのある味わい。糖分量は28gとのことで、半干型の規定値15g〜40gの中ではちょうど中間レベルです。甘味と酸味のバランスを折り合う、ちょうどよいポイントを見事に狙い当てています。

「香雪酒(こうせつしゅ)」とは紹興酒の「甜型」の別名。

もう一つは黄酒の中で最もスイートなタイプの甜型。別名「香雪酒」とも呼ばれます。ラベルにある「原浆」はブレンドをしていない真っさらな原酒という意味です。

色は写真の通りほぼ黒で、光によって透き通った褐色が見て取れます。香雪酒は糖分含有量1リットル中100g以上と規定されていますが、こちらは何と200g!

「相当甘いだろうな」と警戒した通り、味わいは黒糖や蜂蜜のようにスイート。ですが、しつこい甘ったるさはありません。黄酒特有の酸味や渋味、苦味の働きによって爽快さも生まれています。アイスにかけるアフォガードにぴったりだとは思いますが、食中酒としても生きる道はありそうですし、見つけたい!

「飲んでみたい」という想いが、奥深い酒の世界を広げていく

自家醸造も行いながら、大手酒蔵の貴重な原酒を買い取り、独自にブレンドした商品で他社にはない黄酒を世に生み出している「雲集信記」。

彼らの黄酒はまだ日本で楽しむことはできません。しかし、日本の展示会にも出ていたのですから、皆さんの「飲んでみたい!」と思う気持ちが世界を動かすことになるかもしれません

先にもお伝えした通り、黄酒造りは非常に過酷な労働の上に成り立っています。それだけでなく、市場自体も小さくなってきているのが現状です。私自身、こうしたユニークな企業が今後もさまざまな黄酒を造り続け、面白く奥深いお酒の世界を生み出していってほしいなと願うばかり。

個人的な話になりますが、このブレンド手法を聞いて、私は「いつかやりたいと思っていることが、ここで実現できるかもしれない!」と内心ドキドキワクワクしていました。いつかきっとお話できるときがくると思いますので、そのときまで秘めておきます。

さて、次回は広東省の山奥で”客家酒”を作る酒蔵への訪問記です。そこには、紹興に勝るとも劣らない酒の街がありました。それでは、下次见(また会いましょう)!


TEXT&PHOTO 門倉郷史(かどくらさとし)
中国郷土料理店に9年在籍し、黄酒専門ECサイト「酒中旨仙(うません)」の仙長を兼任。退職後、中国酒専門ブログ「八-Hachi-」を運営。黄酒が楽しめる店、ひとり呑みができる中華料理店を紹介するほか、各種イベントを主催。2023年9月、日本初の黄酒ガイドブック『黄酒入門』を上梓する。