羊の丸焼きも夢じゃない!スイカの皮とモンゴルバターが味の決め手

『草原の料理 スヨリト』なら、羊の丸焼きの注文も夢ではない。「地元では15~18kgくらいある生後10か月くらいの羊を丸焼きにしますが、ここではそれほど多くない人数で注文できるよう、10~11kgの仔羊も用意しています」とスヨリトさん。

ちなみに「これくらいの大きさなら、内モンゴル人は4人で食べる」そうだが、店では20人前としている。

48時間の漬け込みの後、ホエイ、ネギ油、モンゴルバターを塗って、土台に固定し、窯に炭火を入れて5時間ほどかけて焼いた仔羊の丸焼き。大きさは10~11kgだ。

その仕込みは3日がかりだ。肉を48時間漬け込むするところから始まり、素材にはトマト、にんじん、セロリ、玉ねぎ、ピーマン、生姜など野菜がたっぷり。中でも目を引くのがスイカの皮だ。

「スイカの皮は、羊の丸焼きをしっとりと焼き上げるのに必要な素材」だそうで、季節を問わず使えるよう「冷凍保存しています」。これら野菜に卵などを加え、3~5時間ごとに天地を返しながら丸2日間かけて浸すというのだから手間がかかる。

肉捌きから調理まで1人でこなすスヨリトさん。焼く前には専用の器具にしっかりと固定する。今針金を通しているのは何という部位?と尋ねると「オージニアス」。内モンゴルの言葉なのですべてが新鮮。

そして、漢民族の羊肉料理にはないと思われるひと手間が、焼く前に羊肉に塗るホエイ、自作のネギ油、モンゴルバターである。

モンゴルバターは野趣あふれる香りで、チーズスナック『Cheeza(チーザ)』チェダーチーズ味のような濃厚な香ばしさも。焼き上がりはこれら乳製品や油の効果と、マリネ液に入った野菜のはたらきのせいか、どこか爽やかな乳香が漂うのが印象的だ。

羊の丸焼きを捌いて切り出したスペアリブ。10~11kgの羊なのでリブの肉付きは薄めだが、味わいは濃く、身離れがよい。

バンシ・焼売・肉団子はマストオーダー!点心でさらに羊肉のおいしさに開眼

“粉もん”ジャンルも漢民族のそれとは少々異なり、名前や作り方がそれぞれに違っており、ひとつひとつにわくわくする。

餃子もあるが、料理名はバンシ。具は発酵白菜、大根&人参、セロリなど5種類から選べ、注文が入ると、手切りした羊肉で作った餡を点心師が包んでくれる。生地はもちろん自家製だ。このバンシが餡それぞれに味わい深く、溢れる肉汁が笑顔を呼ぶ。

バンジ。いわゆる水餃子だが、点心は総じて挽き肉ではなく、手切りの肉を使うため、みずみずしい肉汁が溢れる。
バンシ(水餃子)の餡は5種類。注文が入ってから握るので、おいしさもひとしお。ひと口でつるんと食べられる。

ひらひらとした皮で、手切りの羊肉をふわっと包んだ花のような焼売も注文必須。齧ると透明感のある肉汁がつつーっとあふれ出て、思わず目を細めてしまう。そのため、ちょっと大きめのサイズだが、決して誰かと分け合わず、肉汁ごと1人1個を食べてほしい。

焼売。極薄の皮で軟らかな肉餡が包まれており、肉汁がたっぷり。1人1個がお約束だ。

ちなみにスヨリトさんの生まれ育った地方で、焼売や餃子は朝ごはんの定番。こうした朝食の習慣を「ウリルネホウ(お茶と一緒に点心をつまむ意味)」というそうだ。そんなことを思いながら、バンシや焼売をつまむのも楽しい。

また、メニューに「肉団子」とある一品は、意外性のある見た目とおいしさ。清らかな味わいの胃袋で、うまみのあるミンチ肉を包んだ“肚包肉”スタイルで、羊肉の新たな魅力を引き出している。

肉団子といっても見た目は羊の胃袋。添えられているのはスヨリトさんの母直伝の発酵唐辛子。
割ると肉がぎっしり!!この感動は店でぜひ。

そして〆に頼んでほしいのがスープだ。おすすめは、羊のモツがたっぷり入った滋味深いラムのモツ煮込み。牛乳もなにも入れずにこんなに白くなるのか尋ねてみると、純粋にラムの骨と6種類のモツだけでこの濃厚なスープがとれるとか。

まだまだ冷え込む時期が続くが、このスープを飲めば腹の中からしっかり温まる。

ラムのモツ煮込み。大人数向けにたっぷりの器で出してもらった。汁物は、ほかにラムの骨肉でとったシンプルなコラーゲンスープ、野菜がたっぷり入ったラムバラ軟骨シチューがある。

 ワインショップ『JAJA』で羊肉に合うワインを買って「ムルブリ!(乾杯!)」

さらにこの店ならではのユニークな取り組みに、近隣の店との友好的な連携がある。店の二軒隣に素敵なワインショップ『JAJA(ジャジャ)』があり、ここでワインをはじめとするドリンクを買って持ち込むことができるのだ。

持ち込み料は1本1,500円だが、店頭にあるワインよりも、ずっと多くのワインを選ぶことができるのはわくわくする。『JAJA』の店員さんに「『スヨリト』の料理に合うワインをこのくらいの予算で」と伝えておまかせしてもいいだろう。

ワインショップ『JAJA』の店頭。ウナギの寝床のように長細い店内には、所狭しとワインがぎっしり。国産ワインもある。

店は1階が立ち飲みできるカウンター、2階がテーブル席、3階が壁に内モンゴルのペインティングを施した貸切のできる空間となっており、人数や用途、目的に合わせてフロアを選べる。

オープン当初の外観。神楽坂駅または牛込神楽坂駅が最寄り。ワインショップ『JAJA』は右二軒隣となる。
2階。テーブル席でおちついて食べたい場合はこちらを。

立地は牛込神楽坂と神楽坂駅の間、新潮社や『AKOMEYA』のある通り沿い。二軒隣の『JAJA』でワインを調達し、炭火の窯で焼き上がったばかりの肉塊を皆で囲めば、さあ準備は整った。民族の味に敬意を払い、「ムルブリ(モンゴル語で「乾杯!」)」と杯を交わして盛り上がろう。

草原の料理スヨリト

東京都新宿区矢来町82 ウィルズウェイ神楽坂(MAP
TEL 03-5579-8812
営業時間
平日 11:00-15:00(ランチメニューあり)/17:00-23:00 (L.O. 22:30)
土  12:00-23:00(L.O. 22:30)
日祝 12:00-22:00(L.O. 21:30)
不定休

お通し330円(ラムショルダーのタマリスク串焼き)
腿肉焼き 大[約1kg]4,598円 小[約500g]2,662円
スペアリブ焼き 大[約700g]5,082円 小[約300g]2,662円
羊1頭丸焼き 4,598円/kg
・チリ産ベビーラム(約10kg)約20人前
・ニュージーランド産ラム(15~18kg)約30人前

※塊肉は2日前まで、丸焼きは7日前までに要予約。
※金額は各税込、取材時のものです。メニューとともに変動する可能性があります。

★二軒隣のワインショップ『JAJA』
営業時間
平日・土 15:00-22:00
日・祝  13:00-20:00
水曜定休・火曜不定休


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)