これぞ南極!マイナス30度の「お湯花火」に極夜と白夜の絶景

―南極ならではの心震える体験もあったでしょう。

雪上車の中で一晩過ごした朝の景色です。このとき外気はマイナス30℃。いくら暖房を炊いてもドアが凍りつき、朝起きると壁側の布団が凍ってバリバリ音がしたことは忘れられません。寝るときは布団だけでなく、マイナス60℃まで耐えられる羽毛の寝袋に入っているんですけどね。

ーそれはリアルに身体が震える体験ですね。景観はどうでしたか。

色に圧倒されました。日本で見られる色じゃないです。特に太陽が昇らない極夜(きょくや)の時期は、朝の10時ごろに真っ赤な地平線が見られます。極夜は南極の冬至にあたる6月半ばくらいから、45日ほど続きました。

太陽が地平線を転がるように移動していく極夜。(2020年6月17日撮影)
9月半ばの南極の空。(2020年9月19日撮影)

一方、1日中太陽が沈まない白夜(びゃくや)は、南極の夏至にあたる12月半ば過ぎから60日ほど。この時期の空も美しく、ずっと見上げていました。

南極の白夜。白夜も極夜も、地球の地軸が傾いた状態で太陽の周りを回っているため生じる現象。

お湯花火もできます。外気がマイナス30度を記録したときやるんですが、お湯を空中に撒くと、蒸気が小さな粒になって降ってくるんです。GOPROで撮影しようとしたら、寒すぎてフル充電が即ゼロになっちゃいました。

また、昭和基地はちょうどオーロラ帯が通る場所にあり、南極観測開始当初からオーロラ観測が行われてきました。こんな空も見られます。

―帰国は2021年1月18日。嬉しかったことはなんですか。

ネットが普通に使えるようになったことです。移動中の船の中は、約1か月間、文字のやりとりしかできません。ニュースも文字で送られてくるんです。あと、僕は復路の船酔いが酷くて。そこから解放されたのも嬉しかった…。

―お土産は、南極の氷でしたね。

南極から持ち帰れるものって唯一、氷だけなんです。最初は何もいらないかな、と思っていたんですが、極地研究所の冷凍庫がかなり大きいこともあって、持って帰ることにしました。サイズは1人中型の段ボール2個まで。帰国すると、所定の住所まで送ってもらえます。

味はないんですよ。ただ、溶けるときに音が鳴ります。ぷちぷちって。この氷は、南極に積もった雪が日差しで溶けて固まったものなんですが、雪が固まるので中に気泡が入っているからなんです。焼酎にいれるとうまいっていう声もありましたね。

―南極で武者修行を経て、現在は「YAUMAY(ヤウメイ)」で点心を学んでいます。

蝦餃(ハーガオ:広東式えび蒸し餃子)などに使われる澄明皮や、饅頭の生地づくりを習得したいんです。生地の感覚として、どういう状態がよくてどういう状態が悪いのか、基礎をしっかり自分のものにしたくて。

何かを学ぶのに、自分ひとりの物差しでは足りないですからね。今は、効率よくやることも学びながら、自分がおもしろいと思うものを、独立するときのために考えている状態です。

「YAUMAY」の豆苗海老蒸餃子。(Photo by Takako Sato)

―またいつか南極に行きたいですか。

実は、もし仕事が決まっていなかったら、この夏また応募しようと思っていました。戻ってきたばかりですが、戻ってきて記憶や経験が鮮明な今だからこそ、すぐに改善できることがあるなと。

経験者が二度三度と南極調理担当に挑戦しているので、僕もきっとまたチャンスがあると思っています。

帰国後の依田さん。(Photo by Takako Sato)

写真提供:依田隆宏(南極炒飯Twitter
聞き手:サトタカ(佐藤貴子)