もくじ
1 オイスターエキスとは?
2 広島牡蠣の育て方。
3 牡蠣はクレーンで吊り上げる!
4 エキスは一番だしの大釜仕込み
5 官能検査のスペシャリスト
6 オイスターエキスの使い方 ―上海家庭料理 大吉―
7 干し牡蠣=食べる出汁(だし)!
8 干し牡蠣の食べ方 ― 春節のごちそう&家庭でもできる旬菜
ご存知の通り、広島県は牡蠣が名産。毎年1月~2月になると、県内各地で酢牡蠣や焼き牡蠣が振る舞われる「かき祭り」が開催され、週末になると大勢の人で賑わいます。
中でも牡蠣養殖のメッカであり、むき身(殻から外した牡蠣の身)出荷量で全国トップクラスを誇るのが、広島湾に面した江田島(えたじま)市です。
広島の宇品港や呉からフェリーでアクセスする江田島市。音戸(おんど)大橋と早瀬大橋によって、本土と陸続きにもなっています。
よく「いい魚が獲れる海のそばには、必ず山と川がある」と言われますが、このエリアも例外ではありません。
ご案内いただいたカクサン食品常務取締役の出来谷さんに尋ねてみると、「広島市を流れる太田川は水量の豊かな川です。この川の上流の山々では、広葉樹が落ち葉となって厚い腐葉土を形成しており、山に降った雨や雪解け水などを通じて植物性プランクトンとなり、広島湾に流れ込んでいます。また、太田川は広島市内で6本の支流に分かれているため、広範囲にわたって植物性プランクトンを広島湾に注ぐことができ、これらが牡蠣のエサになっているのです」 とのお話。
また、このように恵まれた自然環境にあったため、広島の牡蠣養殖の歴史は古く、1600年代・元和年間には養殖が始められていたといいます。現在は、牡蠣筏(かきいかだ)と呼ばれる竹組みを作り、その下に稚貝のついたワイヤーをぶらさげて海中で肥育する「垂下法」で養殖されていますが、なんとこれは昭和25年頃に確立された養殖方法だそう。牡蠣は意外と原始的な方法で育っているんですね。
海に浮かぶ牡蠣筏(かきいかだ)。なんとこの筏、広島湾の中だけで、なんと1万1000台もあるのだそうです。
では、なぜこんな方法が編み出されたのかというと、「広島湾は、ある場所から極端に水深が深くなっていて、その地形が牡蠣の養殖に適している」 からだとか 。
つまり、「水深が深いと、海水は日照による影響を受けにくくなり、水温が安定します。逆に、水深が浅いと夏場に水温が上がってしまい、牡蠣が死んでしまうこともあります。そこで、この水深差を利用してて、夏場は冬よりもさらに深いところにワイヤーを沈め、水温が極端に変化しないよう、コントロールできるのがこの『垂下法』なんです」と出来谷さん。
ポイントは、夏を乗り切るために、牡蠣をどの海水深度に沈めるか―――? すべては経験がモノをいう世界です。では実際に、どんな風に牡蠣を育てていくのでしょうか?
広島牡蠣はこうして育つ
1.牡蠣の稚貝を集める(8~9月)
卵から孵化(ふか)した牡蠣が海中浮遊生活をしている夏、ホタテの貝殻を海中に沈めて、牡蠣の稚貝を付着させて採取します。その数、ホタテ貝1枚になんと50~100個!(※写真は広島市水産振興センターにて撮影)
…がしかし、たくさん稚貝が付いても、チヌやフグなどに食べられたり、大きく成長させるため間引きを行ったりで、最終的には20個前後に落ち着くそう。
2.外で強く育てる(10月~翌年9月)
採取した牡蠣の稚貝を、ホタテの貝殻ごと沿岸の棚(抑制棚と呼ばれます)に並べておきます。棚は、干潮の時は海面上、満潮になれば海水中で生息するよう、潮の干満の影響を受ける場所に設置。そうすることで、自然の力を利用して生存力の強い牡蠣へと育っていきます。
3.海で大きく育てる(翌年10月~翌々年10月)
一定期間が過ぎたら、牡蠣をホタテの貝殻ごとワイヤーにつけ、牡蠣筏(かきいかだ)に結んで再び海の中に沈めます。これから約1年、水深の浅いところや深いところを前後しながら、牡蠣はじっくりと身を太らせていきます。
では、2年数ヶ月、手塩にかけて育てた牡蠣は、どうやって収獲されるのでしょうか? 次回は最高にうまい牡蠣がとれるという、宮島の裏手にある収獲スポットに出かけてきます。
Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
Photo 清水武司(joy)