中国の公式的な見解では、中国は56の民族が暮らす多民族国家ということになっている。しかし、ここで数えられる民族とは別に、ひとつの大きな集団として捉えられている人々がいる。それは客家(はっか)だ。

客家という言葉は、中華料理好きや歴史好きならどこかで聞いたことがあるだろう。しかし、その定義は案外難しい。

ざっくりと説明するならば、客家は中国人の大多数を占める漢民族の支族だ。一説によれば、4世紀以降、戦乱を避けるために中原(ちゅうげん:中華文化の発祥の地であり、中国北部の黄河流域一帯)から南下し、移動を繰り返しながら、主に中華圏南方の山間部に移り住んだ豪族の末裔とされる。

福建省山間部にある客家の住宅「土楼」。土楼は要塞としての役割と、コミュニティスペースを兼ねた団地の役割がある。福建省永定県にある土楼は2008年、世界文化遺産に。photo by shutterstock

こう聞くと、なんとなく平家の落人伝説っぽいが、客家には「客家話」と呼ばれる独自の言語をはじめさまざまな文化がある。例えば、世界遺産にも認定される「福建土楼」のような建築様式もそのひとつだ(写真上)。

広東省梅州にルーツを持つ客家の友人曰く、家々にしっかりとした家系図があるのも特徴だそうだ。また、幾度もの移動を経て定住した客家ならではの食文化として、保存食を活用し、蒸し調理を多用するという点も興味深い。

現在、そんな客家文化を最も色濃く残すのは、広東省、江西省、福建省の山間部。その一地域である江西省の客家料理が、上野・不忍池にほど近い「幾道菜(いくどうさい)」で味わえるようになったというのだから、体験しない手はない。

中国を代表する古窯・景徳鎮(けいとくちん)を擁する江西省

江西省といってもピンとこないかもしれないが、陶磁器で有名な景徳鎮(けいとくちん)がある場所、というとなるほど、と思う方もいるだろう。

「青花」と呼ばれる白地にコバルトで絵付けした磁器や、日本で「蛍焼き」などと呼ばれる透かし模様が入りの玲瓏(リンロン)は、景徳鎮を代表する技法だ。

景徳鎮の街角。青花の壺が外に並んでいる。2017年12月撮影。

また、省都の南昌(なんしょう)には中国最大の淡水湖・鄱陽湖(はようこ)があり、省の南北を贛江(かんこう)が貫くことから、豊かな水資源に恵まれ、稲作や米加工品の製造がさかんな場所でもある。

最近は日本でも提供する店が増えてきた米粉(ミーフェン:米の粉の麺)も多く作られており、江西省産の乾麺は太麺でコシがあるものが多い。中国内のみならず、日本の中華食材店でも売っているので、見たことがある方もいるかもしれない。

池袋の中華食材店でも江西米粉を買うことができる。

大陸の客家料理は「塩薄め・油多め・蒸し調理」がポイント

そんな江西省の客家料理店「幾道菜」を切り盛りする老板娘(店長の女性)は、江西省南部の贛州市(かんしゅう|Gànzhōu|ガンジョウ)の出身。贛州といえば、広東省の梅州と恵州、福建省汀州と並び、客家四州のひとつに数えられる地域。まさにその味を知る人がいるというのは頼もしい。

また、厨房を司る料理長もまた贛州在住20年超、江西省出身のオーナーが現地の高級店から招聘したそう。事業で身を立て、郷里の味を食べたいがためにレストランを出店するとは、商売っ気よりむしろ男気を感じてしまう。

この日、一緒に円卓を囲んでくれた広東省梅州にルーツのある客家の劉さんに、大陸の客家料理の特徴をきくと「実はあまりしょっぱくないんですよ。塩味が薄く、油が多めで、蒸し料理が多いです」と意外なことを教えてくれた。

なぜなら、比較的日本人になじみのある台湾の客家料理は、味付けのしっかりした、ごはんやお酒の進む味というのが通説。しかし大陸客家は「酒というよりお茶なんですよね」と劉さん。

いったいどんな味付けなのか、8名であれこれ注文した中から、80C(ハオチー)としておすすめしたい料理を次のページでご紹介しよう。

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