丸鶏料理というと、手間暇かけて作るご馳走といったイメージがある。しかし実際のところ、丸鶏を使えば、手間をかけなくても、ほったらかしでもおいしい料理を作ることができる

なかでも中国家庭料理において、特におすすめしたい丸鶏料理が清燉鶏(チンドゥンジー|qīng dùn jī|清炖鸡|※清燉全鶏・清炖全鸡とも)、丸鶏のスープ煮込みだ。

この料理は、調理道具はほぼ使わない。鍋ひとつででき、難しい工程は一切不要。鶏ガラやひき肉でも鶏のスープはとれるが、丸鶏を煮てとった鶏スープの、まあるくふくよかでしっかりとしたうまみといったら、スープを飲むたび「おお…」「ふぁ…」「んん…」「あぁ…」しか言葉が出ない。

もちろん、そこにしっとりと火の通った鶏肉がついてくるのだから、ひとつで二度おいしいというか、鶏肉を満喫するのにこれ以上の料理はない。

そんな清燉鶏(チンドゥンジー)に必要なものはおいしい鶏肉。むしろそれ1羽さえあれば、成功は約束される。調味は塩のみ。先日、キャンプ場のロッジで実証してみたのでご紹介したい。

丸鶏があれば満足!本当にそう思えるか、ここで試した。

料理が苦手な人にこそ作ってほしい、清燉鶏(丸鶏のスープ煮込み)のレシピ

この料理で必要な調理道具は圧力鍋、または鶏がすっぽりと入る深型の鍋だ。調理の際に包丁はいらない(食べるときには小さなナイフがあるといい)。

また、副材料として、鶏と組み合わせてうまみが増幅する乾物、自然の甘みがある食材を用いると、至高のスープができあがる。特に干しシイタケは用意しておきたい。

材料(約4人前)
・丸鶏(中抜き)1.9kg(1.8~2kg)※2人前なら1kg~1.2kg目安
・干しシイタケ 3~4枚
・干しナツメ(大棗) 4~5個
・ニンニク 2~3個
・ローリエ(月桂樹の葉) 1枚(なくても可)
・出汁昆布 1片(なくても可)
・小葱 1~2本(白葱でも可)
・塩 適量(岩塩推奨)
・水 適量

鶏の腹に詰める乾物と、スープに加える出汁昆布、調味料に塩。昆布はなければなくてもいい。
<作り方>
①丸鶏を入手する。

丸鶏は、できれば地鶏などの飼育日数の長いものを入手しよう。多くの鶏は、120日以上育てると、肉にうまみがのってくる。それと同時に、適度に身が締まって心地よい弾力が生まれ、煮ても焼いてもおいしい肉となる。

この料理は素材を生かし、技術は不要なので、ともかく自分が「おいしそう」「食べてみたい」と思える鶏を選ぶといい

②干しシイタケをレンジで加熱する。[所要時間 3分]

鶏の腹に詰める干しシイタケを器に入れ、全体が被る程度に水を入れ、レンジで加熱して軟らかくする(干しシイタケの硬さは個体差があるので、軟らかさは適宜確認する)。時間があるなら、あらかじめ水に浸して戻しておいてもいい。

③丸鶏の腹を洗う。[②と同時進行。所要時間 5分]

丸鶏の腹に手を入れて、骨の間に付着しているついている赤い塊を取り除いて洗う。これが残っていると、煮たときにスープの雑味のもととなる。このとき、使い捨てのニトリル手袋やポリエチレン手袋を使うと手が汚れず、次の仕事に取りかかりやすい。取り除いたら流水で全体をキレイに流し、キッチンペーパーで腹の中も含めて水気をふき取る。

④鶏に塩をなじませ、丸鶏の腹の中に副材料を詰める。[所要時間 5分]

鶏全体にすり込むように薄く塩をしておくと、煮ても味が抜けにくくなる。腹の中まで忘れずにやろう。塩をしたら、鶏の腹の中に戻した干しシイタケ、干しナツメ、皮をむいたにんにく、結んだ小葱を入れ、お尻の部分を爪楊枝で縫うように留める。シイタケの戻し汁は、煮るときに入れるのでとっておく。

小葱は折り曲げて小さくまとめておくと腹に入れやすい。白葱でも代用してもいい。
④鍋に丸鶏を入れて煮る[圧力鍋で15分。圧力鍋を使わないと2時間弱]

圧力鍋の中に丸鶏を入れ、鶏の背中がぽっこり見える程度に水を注ぎ、シイタケの戻し汁、ローリエの葉を入れて火にかける。

圧力鍋からしゅっしゅっと蒸気が出てきたら、弱火~中火にして15分ほど加熱する。この火加減で地鶏を煮た場合、ほどよく弾力を残しつつも、容易に身がほぐれる食感になるはずだ。

圧力鍋がない場合は、鶏がすっぽりと入る深鍋に丸鶏を入れ、水を注いで沸騰したら、弱火~中火で2時間弱火にかけよう。

⑤圧力を抜く。[所要時間:5分~。圧力鍋を使わない場合は不要]

およそ15分煮たら、圧力を抜く。ここでいい鶏を使うと、抜群にいい香りが立つ。調理はここまで。あとは食べるだけだ。

⑥卓上に出す鍋に丸鶏を移し替える。

清燉鶏(チンドゥンジー)は大きな器によそうのもいいが、鍋で煮ながら食べると楽しい(鍋1つといったが、盛り付け用があるといい)。塩はこの段階で加え、味を調える。

ただ、そもそも鶏スープがうまみの塊なのと、あらかじめ鶏に塩を塗り込んでいるのとで、そこまでたくさん入れなくてもいい。ただ、塩を入れることでぐっと広がる味わいがあるので、それを体験していただきたい。さらにここで出汁昆布を1枚入れると、煮ながらうまみを育てることができる。

⑦大胆に解体して食べる。

両モモの付け根に包丁を入れて身を外し、背中から包丁を入れて二つに割る。あとは思い思いに食べたい部分を切って食べよう。それと同時に、スープを味わうのも忘れずに。恐らく言葉は「うぅ…」「はぁぁ…」「おぉぉ…」しか出てこない。

⑧クレソンなど葉ものを加えて丸鶏スープの味をさらに味わう。

上質な鶏スープの味を曇らせずに楽しみ続けるには、加える青菜は1~2種類に留めたい。ここでは直売所で地場の新鮮なクレソンが太い束で売っていたので、それを入れることにした。クレソン鍋については酒徒さんの記事でも紹介されているのでご一読を。

⑨葱姜醤や白胡椒もなかなかいい。

さらに鶏肉を食べる際、広東省の白切鶏(ゆで鶏)の定番のソースである葱姜汁(葱姜醤)があるとさらに幸福感が増す。

作り方は、すりおろし生姜(刻みでも可)、刻み小葱(エシャロットだとなおよし)に塩を適量加え、チンチンに熱した油を上からじゅ~っとかけるだけ。あらゆる鶏料理に合う。また、スープに白胡椒を多めに入れると中国料理らしい味の広がりを体感できる。

⑨〆は麺がおすすめ。

いいスープがとれているので、〆には麺や米粉を合わせたい。このときは長野県にいたので、生蕎麦を入れてみた。

見ておわかりかと思うが、⑤の工程までおよそ30分だ。丸鶏料理というともっと大がかりなイメージかもしれないが、清燉鶏はともかくいい鶏を煮るだけで幸せが待っている。料理が苦手、面倒という人こそ作ってみてほしい。

参考までに、筆者は長野県辰野町で飼育されている「ぎたろう軍鶏」を購入した。重さは中抜き(内臓を抜いたもの)で約1.9㎏。これで4人前となり、1人あたりの原価は1,000円以下だ。この価格で圧倒的な鶏肉体験ができるのだから、やらない手はない。


TEXT&PHOTO サトタカ(佐藤貴子)