2024年2月27日(火)放送のTBS『マツコの知らない世界』は「火鍋の世界」でしたね。わたくし『80C(ハオチー)』ディレクターも務めるサトタカが水先案内人を務めさせていただきましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。番組では、

①火鍋の市場(マーケット)
②中国火鍋マップと知られざる郷土火鍋(地域性とバリエーション)
③日本で食べられる辛くない火鍋(体験の提案)
④つけだれ文化(カスタマイズ)
⑤日本で進化した、スープの飲める麻辣火鍋(ローカライズ)

と、火鍋をさまざまな側面からご紹介しましたが、これを通じて、おいしい・おいしくないといった評価ではなく、火鍋という食文化や有り様をお伝えできたなら本望です。

しかし、奥深き火鍋の世界は、到底30分間で伝え切れるものではありません。そこでこの記事では、番組の内容をおさらいしつつ、さらに理解を深めていただきたいと思います。

火鍋=火にかけながら熱々を楽しむ、中華圏の鍋料理。

まずは大前提として、中国語では火にかけながら食べる鍋料理のことを火鍋といいます。

火鍋=辛い鍋と思っている方も少なくないかと思いますが、辛くない中華圏の鍋料理も、料理カテゴリとしては火鍋です。鍋の中に汁気がなくても、火にかけて提供する干鍋(汁なし火鍋)という料理もあります。

ではなぜ火鍋=麻辣火鍋と思われがちなのでしょうか? その大きな理由として、店舗数や商品数の多さが挙げられます。

事実、中国で創業され、中国国内さらに世界でチェーン展開をしている火鍋店の多くは、麻辣火鍋の専門店です。2021年10月に中国で出版された『地道風物 火鍋』によると、中国の火鍋市場の64%が四川および重慶の(麻辣)火鍋である、というデータが示されています(2017年~2018年)。

広西チワン族自治区の街角。この看板に火鍋店はいくつあるでしょうか?

さらに「麻辣火鍋の素」もたくさん商品化されています。なぜなら、さまざまな香辛料と調味料を用いる麻辣火鍋をゼロから家庭で作る人はそうそういません。日本の中華合わせ調味料がスーパーの棚に並んでいるのと同様に、中華圏のスーパーでは火鍋の素をよく見ます。

また、日本的な視点では、火=燃えるような辛さのイメージもあるでしょう。こうなると、火鍋=麻辣、辛い、といったイメージがひとり歩きしていくのも納得ですよね。

一方で、中華圏ではそれぞれの地域に根付いたローカル火鍋があります。

これらの火鍋は、他の地域ではあまり食べられることがないものの、郷土色豊かで、地域の食文化に欠かせない存在です。そして、この中には辛くない火鍋もたくさんあります。これがおもしろいのです。

個人的には、四大料理や八大料理には数えられない、公式な花形から漏れた地域にこそユニークな火鍋があるように思います。なぜなら、鍋ひとつで楽しめる火鍋は、高級食材と高い調理技術を要さなくても、地元の食材で作れるものがたくさんあるからです。

日本人の口にも合う!辛くない郷土火鍋。

そこで番組では、中華圏で親しまれている辛くない火鍋もご紹介しています。例えば、中国東北地方の鉄鍋炖、北京名物の羊しゃぶしゃぶ、広東省の冬の味覚であるヤギ鍋などです。

そしてこれらは、現地だけでなく、日本でも楽しむことができるのです。

素朴で豪快&合理的!テーブルに埋め込んだ鍋で楽しむ東北鉄鍋炖

遼寧省大連で撮影。

東北鉄鍋炖は、テーブルに埋め込まれた大きな鉄鍋で、食材を豪快に煮炊きして食べる鍋料理です。

この火鍋は、鍋肌にトウモロコシの粉で作ったパンを貼り付け、食材を煮ると同時に蒸し焼きにし、鍋の汁をつけながら食べる楽しみがあります。おいしく、素朴で、合理的。量が多いのも東北料理の特徴で、おなかいっぱいになる幸せがここにあります。

番組では、中国東北地方出身のオーナーが開業した2店舗をご紹介しました。中国式の農家レストラン「北海農場」と、湯島で気軽に東北鉄鍋炖が楽しめる「味坊鉄鍋荘」です。

食事を超えたレジャー!中国式の農家レストラン「北海農場」

「北海農場」は栃木県栃木市にある、中国野菜専門農場に併設されたレストラン。「野菜の視察に来た人に、なにか食べて帰ってもらいたい」という范オーナーの想いから、農家楽(中国式農家レストラン)のオープンへと至りました。

ビニールハウスをレストランに仕立てた空間は非日常そのもの。敷地内では、旬の中国野菜や椎茸のもぎとり体験ができるほか、ニワトリやアヒル、山羊も放牧中。お子様連れや大人数の遠足におすすめです。[要予約

▶店の詳細はこちら
ビニールハウスの楽園!栃木の中国式農家楽「北海農場」で体験したい10のこと

少人数でも安心!2種類の鉄鍋料理が味わえる「味坊鉄鍋荘」

中華好きにはおなじみ「味坊」グループの鉄鍋料理専門店。中国東北地方出身であるオーナーの梁さんが「故郷・チチハルの家庭の味と雰囲気を日本で再現したい」と、2016年にDIYで店舗をオープン。鉄鍋炖を提供するレストランの先駆け的な存在といえます。

鉄鍋料理は、番組でご紹介した酸菜白肉(発酵白菜と豚肉の煮込み)や、ラム肉と大根の醤油炒め煮など。おすすめは、一度で2種類の鉄鍋炖が味わえ、7品の前菜と手作りの点心がついた5,000円コースです。一般的に鉄鍋炖は量が多いのですが、ここは2人でも行ける気軽さがありがたいですね。[要予約

▶オープン時の情報はこちら
味坊鉄鍋荘

羊肉が軽やかに食べられる!中国北方の羊しゃぶしゃぶ

北京で撮影。

中国北方で、寒い時期に愛される鍋料理といえば涮羊肉(シュァンヤンロウ)。日本のしゃぶしゃぶのルーツとも言われる鍋料理がこちらです。

炭を入れた銅鍋に湯をわかし、薄切りの羊肉をくぐらせ、濃厚なごまだれにつけて食べれば、もうやめられない止まらない。羊肉をこれほどさっぱり、さらにたっぷり食べたくなる調理法は他にないんじゃないでしょうか。

おいしさの決め手は肉(羊肉)とタレ。具はあれこれ盛り込み過ぎずに、羊肉、腐竹(中国の湯葉)、凍豆腐、白菜、春菊、春雨といった精鋭メンバーでキメると、ごった煮にならず、その美学が極まります。

北京の老舗。観光客も多く訪れる「東来順」の日本店

中国で「中華老字号」の称号を持つ羊しゃぶしゃぶ専門店「東来順」は、北京で多くの観光客が訪れる超有名店。日本店は池袋に2019年にオープンしています。

ここに来たら、北京と同じスタイル(味のついていないしゃぶしゃぶ用の湯+ねりごまベースのたれ)で羊肉を食べてみてください。麻辣スープやつけだれのバリエーションもありますが、まずは基本スタイルが落ち着きます。

主食には北京でもおなじみ、芝麻焼餅(ゴマをまぶした香ばしいパンのようなもの)も用意されています。[涮羊肉は常時提供・予約がおすすめ]

広東式の濃厚なスープで滋養強壮!ヤギ鍋

中国南方の広東省は、他の地域に比べてリッチでうまみのあるスープ料理が楽しめる地域です。汁物で身体を養生する食文化があり、こっくりと煮込まれたヤギ鍋(羊腩煲・山羊煲)は冬の地養食となっています。

中国では「羊」も「山羊」も基本的に「羊」と表記しますが、この地域は主にヤギ食文化です。ヤギ肉はコラーゲン質が多く、身体を温める働きがあるとされるもの。コクのあるスープは、飲めば即心身の栄養に!

広東郷土料理の宴会に強い!中華街大通りの老舗「大珍樓」

1947年創業の「大珍樓」は、横浜中華街を代表する老舗のひとつ。中華街大通りに面した大型店で、食べ放題もやっていますが、本領発揮はオーダーメイドの宴会料理です。

食いしん坊であれば、ここで食べるべきはオーナーの陸一家のルーツである広東省の郷土料理。冬のヤギ鍋もそのひとつで、煮込んだ山羊もうまければ、そのスープで煮たレタスがまたうまい。これなら辛いのものが苦手な人も問題ありません。めくるめく“うまみ系火鍋”の世界がここに![ヤギ鍋は要予約

▶ヤギ鍋をもっと詳しく
横浜オールド中華探訪5|忘新年会に!広東の冬の伝統料理、山羊鍋でぽっかぽか!(こちらの記事でご紹介しているヤギ鍋は「美楽一杯 本店」です)

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