上海で人気の中国料理を、現地の料理人から日本の料理人に紹介するという、中国料理のプロ向け講習会に潜入!
食を豊かにするきっかけをくれる料理講習会ですが、プロにはどんなレクチャーが繰り広げられているのでしょうか?

年間100回中国各地で教えるプロ講師と、
人気店の若き総料理長が来日!

講習が開催されたのは6月22日。主宰するのは、中華食材の輸入商社・三明物産です。同社は四川風の麻婆豆腐に欠かせない郫県(ピーシェン)豆瓣醤や、麻辣の味づくりに欠かせない花椒、丸みを帯びた唐辛子・朝天辣椒など、四川料理に欠かせない食材を扱う企業。

近年は中国の料理人と一緒に調味だれを開発し、中国国内で販売もしており、今回の講座は商品のプロモーションとともに、今、上海で流行っている料理を紹介するというコンセプト。参加者は、都内で人気の中国料理店のシェフがずらり20名揃いました。

講師を務めたのは、中国・上海を拠点に活躍している2人の厨師。中国各地で年間100回以上もの講座をこなしているプロ講師・唐国棟さんと、江蘇省に生まれ、31歳の若さで「上海西郊公館」の総料理長を務める陳磊さんです。

唐国棟さん唐国棟さん 陳磊陳磊さん

 

ご紹介いただいた5つの料理は、店はもちろん、家庭でも材料さえあれば応用できそうなものでした。では、さっそくご紹介していきましょう!

広東の技法「焗」で濃厚スープを麺に吸わせた
砂鍋伊府麺(サーウォイーフゥミン)

伊府麺(イーフゥミン)は香港や広東地方で愛されている麺のひとつ。小麦粉に卵を練り込んで作った幅広麺をゆでた後、油で揚げ固めたもので、食べる前に湯通しなり煮込むなりしていただくものです。

この麺は一度揚げてあるため、麺の中に細かな気泡があり、調理時に水分が浸透しやすいのが特徴。そのため、麺にスープを吸わせて仕上げる料理に適しています。

調味済の伊府麺。仕込み置きも可能。

そうした特徴を生かし、ここではワタリガニの旨みと高湯(ガオタン:ここでは老鶏、豚の背骨、金華ハムをベースにとっています)を麺に吸わせるように土鍋で蒸し煮にしていました。調理法は「焗(ジュッ ※広東語ではゴッ)」。広東料理でよく用いられる技法です。

最初から最後まで土鍋で作って仕上げ、卓上でふたを取れば、蟹や生姜のそそる香りでプレゼン効果も抜群!この日一番皆の注目を集めていた一品でした。

調理ワンポイント

土鍋にピーナッツ油を入れ、ダイスカットにした生姜、葱、にんにくを炒めます。この時、細かに刻むのではなく、ゴロゴロとした感じにぶつ切りにするのがポイント。食べたときも具としていいアクセントになります。

生姜は本来の香りを損なわないよう、皮付きのままがおすすめ。周囲がしぼしぼとして、香りが立ってくるまでしっかり炒めることで、料理全体の風味がよくなります。

調味はチキンライスに使われるシンガポールの老抽(醤油)、蝦黄醤(エビソース)、オイスターソース、シーズニングソース、紹興酒などを使用。「シンガポールの醤油は塩分が控えめで、この料理との相性がよいです」(陳厨師)。

蝦黄醤(エビソース)

 


 

中国南方で好まれる酸っぱ辛いスープが決め手!
酸湯牛肉麺(スァンタンニュウロウミィェン)

酸っぱくて辛い酸湯(スァンタン)に、牛肉の薄切りと野菜を入れた「酸湯肥牛」という鍋料理をベースにした一品です。

この料理は「四川料理で、雲南省に近い南方でも食べられている料理です」と唐厨師。貴州省のミャオ族の料理にも酸湯がありますが、そちらは酸がメインで辛味は控えめ。この「酸湯牛肉麺」は辛味の強い酸辣(スァンラー)が味の基本形です。上海では、そこにじゃがいもの麺(土豆粉)を入れた酸湯牛肉土豆粉が人気だそうで、市内には専門店もあります。

舌にビリビリくる辛さは、海南島産の黄色い唐辛子・黄灯龍辣椒や、小粒で辛い小米辣、野山椒などによるもの。中国ではペースト状になった酸湯の素も流通しており、ここでもそのペーストを使って再現していました。

酸湯の素(日本には輸入されていません)

酸味や辛味は、蒸し暑い季節でも食欲を増進させてくれる効果があり、コクのある牛肉もさっぱりと食べさせてくれます。地球温暖化の傾向にある今、酸味のある料理はさらに人気がでてくるかもしれませんね。


 

G20杭州サミットで注目された新名菜
東坡牛肉(ドンポォニィゥロウ)

2016年9月、中国・杭州で開催されたG20杭州サミット。各国首脳が集まる場で提供された料理のひとつが、この「東坡牛肉」です。

元ネタとなった「東坡肉(トンポーロー)」は有名な杭州名菜で、皮付きの豚ばら肉を、醤油や氷砂糖などでこっくりと艶よく煮込んだ料理。「東坡牛肉」はその牛肉バージョンです。陳厨師曰く「今の中国は健康志向で、脂肪の摂取を控えたいと思う方が多い」そう。その点から「牛塊肉を煮込む方がヘルシー」とのことでした。

調理は牛の骨付きカルビを、同量の高湯(ガオタン:ここでは老鶏、豚の背骨、金華ハムでとっています)で煮込み、シンガポール老抽、氷砂糖、牛エキスを入れて煮込むというシンプルなな工程。仕上がった料理のツヤは東坡肉の如し。味わいはギュッと、なおかつしっとりとした牛肉の煮込みそのものです。


 

上海×四川の鶏料理ががっちり融合!
葱椒鶏(ツォンジャオジー)

ここからは三明物産の商品を使った料理をレクチャー。葱椒鶏(ツォンジャオジー)は、ゆで鶏に青山椒風味の鶏スープをかけて提供する、汁気のある涼菜です。その風味は「上海料理の『葱油鶏(ツォンヨウジー)』と、四川料理の『椒麻鶏(ジャオマージー)』を合わせた味わいの料理」と唐厨師。

上海の「葱油鶏」は、ゆで鶏に葱と油をかけた鶏料理。一方、四川の「椒麻鶏」は椒麻(花椒と葱の青い部分を合わせた、鮮烈な色と香りのペースト)で味付けした鶏料理。その両方をいいとこ取りしたのが「葱椒鶏」ですね。

調理ワンポイント

この料理のポイントは、鶏のゆで汁を利用してかけ汁を作ること。そこに椒麻をベースに調味した「三明青麻鮮(さんめい チンマーシェン)」を入れて、塩気や花椒の痺れる風味を加えます。

さらに料理を鮮やかに仕上げるために、青ネギを刻んでたっぷり入れるのが現地流。作り方は簡単で、鶏をゆで、ゆで汁を塩やタレで調味し、食べる直前に葱油と刻み万能ねぎをかければできあがり。作り置きのできる前菜向けのメニューですね。

 


 

水煮魚の次に“来る”料理はコレかも?
麻香魚(マーシィァンユィ)

「水煮魚(沸騰魚)」が日本の四川料理店にも広まって久しいですが、その派生形ともいえる料理がこちら。麻香(マーシィァン)、すなわち花椒の香りをまとった魚料理です。

「水煮魚」は、チンチンに熱したスパイシーな油で、薄切りの魚や野菜を煮るように火を通す料理。一方、「麻香鶏」は油の代わりに熱々の魚湯(ユィタン:魚のスープ)を具に注ぎ入れる料理。調味には、葱椒鶏と同じく「三明青麻鮮」を使います。

唐国棟厨師

ユニークなのは、タラの切り身を具にしているのに、魚湯は鯉でとっていたこと。その理由は「川魚の頭や骨を沸騰させた方が、濃いスープが取れるから」(唐厨師)だそうです。

ここで使う魚湯は、生姜、にんにくを炒めた後、川魚、水、紹興酒を加えて白濁するまで煮たもので、さらにチキンパウダーも入れて仕上げます。こうして旨みに旨みを重ねていくのは、中国ならではと言えますね。

なお、すべて川魚で作る場合は雷魚がおすすめ。身は薄切りにして具に、頭と骨は魚湯に。日本の場合、汽水域の魚になりますが、スズキも悪くないとのことでした。

作り方は、ゆでたモヤシ、その上にゆでたタラを器に盛りつけ、調味した魚湯を注ぎ入れ、仕上げに赤と青の唐辛子を油で炒め、油ごと魚の上にジュッとかけたらできあがり。香りと旨みが生きた一品です。


 

中国人と日本人の「味の描き方」の差を実感。
日本で再現される日を心待ちに…!

最後に、講習に参加していくつか感じたことを。まず、中国人と日本人で異なるのは、味を強化する調味料の扱い方です。今回はどの料理もエキスやチキンパウダーなど、うまみを強くするものを重ねて入れていたのですが、素材そのものの味を好む日本人には、素材の風味を生かす、引き算のおいしさも求められていると感じます。

しかし、その背景には、日本と中国の“素材力”の違いも。「水はそれほど違いはありませんが、食材、海産物は日本の方が良質です。中国では胃袋を満たすのが先で、味よりは生産性を優先する傾向にあります。農家によっては、米の収穫が4ヶ月だったり、痩せた畑に化学肥料をまいて作物を収穫するところもあります」と話してくれたのは、講習を担当された唐シェフ。

また、大陸のレストランは500席超の大型店も少なくなく、こうした店では生産性、すなわち大量調理とすばやい提供が必須です。そこで簡便に使える調味料が普及する一方、日本では小規模店が続々開業しており、自家製をウリにする店も多々。中国料理店に限らず、発酵や熟成で旨みや香りをだしたり、酸を上手に使う技に関心が集まっています。

同じ料理名でも、その土地に合った味の描き方があるのは中国大陸でも同様。参加されたシェフは、今回体験した味やレシピを踏まえて、自店ならではの味を生み出していくのでしょう。日本で「酸湯牛肉麺」のような料理がいつ、どんな風に提供されるようになるのか、楽しみですね。

★レシピがもらえます!
紹介した料理のレシピをご希望の方は、三明物産(info@sannmei.co.jp)までお問い合わせください。手配していただけます。


TEXT & PHOTO 佐藤貴子